役立たずと言われて冒険者を辞めようとしていた僕を拾ったのは、街で最強のパーティーでした。 14
夕焼けがハルジオンの空を染める頃。ギルドマスターのサムルクを立会人に、フリッサから手渡された報酬の金貨を一枚一枚ゴドルフは数えて、一〇〇〇枚単位で袋に詰めると幌馬車へ運び込んでいく。ノゴティブもプルワーも見たことない大金に「ほえー」「うへー」と奇声を発するだけで役に立たない。
「金貨八〇〇〇枚、確かに」
「はい、ウルエを見つけてくださり、ありがとうございました」
フリッサの差し出した手をゴドルフは遠慮がちに握り、悪手を交わした。こうしてサムルク立会いのもと、世間を賑わせた超高額報酬の人探しは無事に解決した。
当人のウルエはシャルクスと一緒に住むところを探したり、衣服など必需品の買い出しに出掛けている。予算は金貨三七五枚。ウルエの作戦で倒したベヒーモスの討伐報酬の金貨一五〇〇枚を四人で等分した、正当なウルエの報酬。
ゴドルフは袋から一握りの金貨を取りだして、フリッサのほうへ差し出した。
「ウルエに店を助けられていたんだ。でも、恩を仇で返すような真似をした。ウルエをどうするのかも知らずに、売り渡そうとしたんだからな。迷惑料だとウルエに渡してほしい」
「わかりました。必ず渡します」
両手のひらに落ちてきた金貨は、二〇枚程あるだろう。不自由なく一年間暮らせるだけの大金をフリッサは袋へ入れていく。入れ終わるのを見計らい、ゴドルフは尋ねた。
「ウルエは何者なんだ」
「……なにもの、ですか」
フリッサはゴドルフの言葉を反芻して、顎に手をあてて考えるような仕草をした。
「はじめは大罪人かとも考えていたんだ。金貨八〇〇〇枚の報酬を出してまで探すとなれば、それくらいしか思いつかなくてな。……でも、そういうのとは違うんだろう」
例えば肉親の仇で、自らの手で葬りたいほど憎んでいて、引き渡した瞬間に殺すかもしれない。凶悪犯罪の犯人、殺人鬼、様々な可能性を考えた。表向きは人探しの依頼だけれど、用心しすぎることはない。眠り薬を盛り、服を脱がせて手足を縛り、簀巻きにしても安心できないほどにゴドルフは怯えていた。
ところが蓋を開けてみれば、ウルエとフリッサのあいだに剣呑な雰囲気はなく、反対に仲睦まじくさえ思えた。まるで旧友と再会したように。
「教えてくれ、どうして大金を懸けてまでウルエを探していたんだ」
フリッサは「そうですね」と考えを巡らせて、面白いことを思いついたと口を三日月に吊り上げた。揶揄うような口調で、それなのに紅眼は真剣そのもので――、
「ウルエは、ハルジオン最強の冒険者ですよ」
ぞくり、と背筋が粟立つ。
とても信じられないのに、嘘を吐いていないとゴドルフは直感的に理解していた。フリッサにアイギスの誇りがあるなら、こんな嘘を吐くはずないのだから。
「……とんでもない奴だったんだな」
ゴドルフは呟いて、馭者の席へ着いた。
栗毛の馬は嘶くと、蹄鉄の音を響かせながら凱旋通りへ消えていく。遠く離れていく幌馬車を眺めながら、フリッサは呟いた。
「はい、とんでもない人なんです、ウルエは。……でも、変わるのはこれから。最弱から最強へ変わるのは、これからなんです」
今はまだ、ウルエの強さを一握りの人しか知らない。知識の武器を広めていくこと、役に立つと周知させていくことは困難で、途絶えさせないために後継者を育てるとなれば年単位の時間が必要だ。
水面に投げ入れた小石のように、今は小さな波紋かもしれない。
波のように大きく広がるのか、岸へ着くまえに途絶えてしまうのか。今は誰にもわからない。フリッサは幌馬車の消えた凱旋通りに背中を向けると、始まりの合図を告げるように、ふたつのシグナキュラムが高い音を立てた。




