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役立たずと言われて冒険者を辞めようとしていた僕を拾ったのは、街で最強のパーティーでした。 10

「ウルエ、夜の営業はなしだ」

 ゴドルフは急用から戻るや否や、両手に食材を抱えているにも関わらず夜の営業はしないと言う。抱えた食材は日持ちしないものも多く、なんのために買い込んだのだろう、とウルエは首を傾げながら尋ねた。

「営業しないのに、その食材はどうするの」

 ゴドルフが戻り安心したのか、ノゴティブとプルワーもいくぶん表情を柔らかくして、確かに、と不思議そうに食材を眺めていた。

「ああ、これか。ノゴティブとプルワーが、ウルエの歓迎会をしたらどうなんだと話してきたんだ。おれと差し向かいの歓迎会なんて、ウルエも勘弁だろう。こいつらは、ただで美味いもんを食いたいだけだろうがな、同席したいそうだ」

 ゴドルフの説明に、ノゴティブとプルワーは驚いて非難がましい視線を向けた。そういう話はしていない、と明らかな態度に「ウルエの歓迎会をしたい、そうだよな」とゴドルフは笑顔で凄んだ。

「ま、いいぜ、用事があるならな。……でも、帰るなら仕様がねえ。おまえらの取り分はなしだ。薄情者に美味いもんを届けてやる義理もねえからな」

 ノゴティブとプルワーは苦虫を噛み潰したような顔で心底嫌そうに頷く。

 一部始終見ていたウルエは、嫌そうに歓迎会してほしくないんだけど、と思う。二人から嫌われるようなことをした覚えはない。昨日までは普通に話していて、なんなら偉そうに「おい、ウルエ、今日も来てやったぞ。お客様だぞ」と威張るくらいにはウルエを無礼ていた。ウルエも「ご注文はいつもの、当店で一番安い間引き野菜の塩炒めですね」とささやかな意趣返しはしていた。

 内緒話の内容はわからないけれど、突然の休店と計画性のないウルエの歓迎会が無関係とは思えない。ノゴティブとプルワーの態度の変化も関係あるかもしれない。

 料理を始めてから数時間。ウルエの膨れていた腹がしぼんで、ぐーぐーと抗議の声を上げ始めた頃に、ようやく歓迎会の準備は整った。

 テーブルから溢れそうなほどに並べられた料理は、高級食材を惜しみなく使用したもの。いつもの胃袋に直接訴えるような匂いではなく、素材本来の香りを立たせていた。ドワーフの腹鼓のメニューが腹を満たすものなら、並べられた料理は五感で味わい心までも満たすように。

 こんな繊細な料理も作れたんだ、と感心しながら、やはり不可解だ、とウルエは思わずにいられない。歓迎会の食材だけで、これまで働いた一〇日間の給金より高いはずだから。けれども、いくら頭を働かせても思惑まではわからない。

「ね、ね、食べてもいい?」

 プルワーは強請るようにウルエの服の袖を引くと、ほくほく顔で尋ねた。

 席決めのときに、いち早くウルエの対面を確保したノゴティブは、にたりと嫌らしい笑顔で「ほら、プルワー、ウルエの横しか空いてないよ。座りなよ」と話しかけた。「ウルエの横だけは絶対にいやあ、死ぬほどいやあ、死ぬからいやあ」と泣き喚くプルワーに、ウルエは心の底から落ち込んだ。

 ――にも関わらず、この笑顔だ。

「マスターが席に着くまで、我慢しようね」

 年上のはずなんだけどな、とウルエは思いながら幼女に話しかけるように優しい声で言う。プルワーは頬を膨らませて抗議した。

「ぶうー、けちんぼ」

 こういう仕草に舌足らずな声だから、どうしても年上という気がしない。

「いいぞ、先に食え。酒も好きなだけ飲んでいいからな」

 店の奥からゴドルフの太い声がして、料理人を抜きにコップを合わせて、ごくごくと喉を鳴らす。果実酒の豊かな香りが鼻から抜けて、アルコールの苦味は感じない。喉を鳴らして飲むような安酒ではなく、少量を口に含んで香りを楽しむように醸造された高級酒だ。店では出さない高級酒も買い込んでいたらしい。

「美味しいです」

「おう、たりめえだ」

 料理も果実酒も本当に美味しくて、食通なら様々な言葉で褒め称えるのだろうけれど、ウルエの語彙ではチープな言葉でしか伝えられない。

「ありがとうございます。僕なんかの歓迎会に、ここまでしてくれて」

 誰からも見えない店の奥で、ゴドルフは悲しそうに顔を歪めた。そういうのではない、善意ではない、と表情からは悲壮が滲んでいた。

 一杯目のコップを空けて、微かに酔いが回り始めた頃に、ようやくゴドルフは同席した。ミディアムのステーキを一口頬張ると「我ながら美味いな」と柔らかな顔で自画自賛した。

「そういえば、ウルエは訛りがあるよな。どこの出身なんだ」

 自然に、世間話の延長のようにゴドルフは尋ねた。プルワーとノゴティブが身を乗り出して、耳を澄ます。

「訛り、あるのかな」

「ああ、すこしだけどな。……南、いや、東の訛りか」

 ゴドルフは顎を手のひらでさすりながら、芝居染みた声で尋ねた。

「正解です。ここから、南東のイニステイル地域。ノーランスフィンは知らないですよね、田舎だから」

「うひ!」

 ウルエが答えたとたん、プルワーは嬉しそうな奇声をあげた。

「ノーランスフィンに知り合いでもいるの」

「いない、いない、いたことないよー。ノーランスフィンなんて地名、はじめて聞いたよー。ねえー、ねえー、そうだよねえー、ノゴティブ」

「馬鹿、わざとらしい。バレたらどうすんだ」

「ご、ごめんなさい」

 プルワーはしゅんと肩を落とした。バレてないよね、と窺うようにウルエを上目遣いに見て、当のウルエは二杯目のコップを傾けながら働かない頭で考えていた。

(ノゴティブとプルワーは、秘密の話をゴドルフにした。おそらく僕に関係することだ。話を聞いたときのゴドルフの顔は半信半疑というふうで、急用で出掛けたのは話の真偽を確かめるのもあったのかもしれない。逃げないように僕を見張り、プルワーは殺されると怯えていた。逃げるつもりもなければ理由もなく、殺人なんてとんでもない。……おそらく、勘違いや人違いでもしてるのだろう)

「……いつになれば、誤解が解けるのかな」

 ウルエは二杯目のコップを空にして、誰にも聞こえない声で呟いた。

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