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役立たずと言われて冒険者を辞めようとしていた僕を拾ったのは、街で最強のパーティーでした。 09

 朝昼の忙殺を乗り越えたドワーフの腹鼓は、夜まで静かな安息のなかにいた。夜になれば食事と果実酒を求めて、深夜まで客足は絶えない。

 ウルエは客のいない店内で、疲れた体を癒すようにテーブルに着いてだらしなく背凭れると瞼を閉ざす。瞼の裏に描いたのは、フリッサとの出会いの記憶。

 正体を明かさないまま昔からの友人のように他愛ない話をして、ウルエの武器が知識だとわかると試してくれた。最強パーティーの一員。アイギスメンバーと知らないまま、仲間に入れてください、と分不相応に頼み込んだウルエ。彼女の正体を知らないから仕様がないとはいえ、なんて恥ずかしい真似をしたのだろう。彼女とすごしたひと時は、いつまでも続いてほしいと思えるほどに楽しくて、一緒に戦いたいと思ったのは本心だ。

 別れ際に、呼び止められて交わした約束。

 彼女はフードを脱ぎ正体を明かして、約束してくれた。

 ウルエの作戦でベヒーモスを倒せたなら、ウルエを探し出して、仲間に誘う。誠実なフリッサが約束を反故にするとは思えない。だから今は、働きながら待てばいい。

「ほらよ」

 ことり、とテーブルに皿を置く音。

 一拍置いて、バターと香辛料の香りが鼻腔をすぎていく。上品さは無くても、忘れていた空腹を思い出させるような美味しそうな匂い。店内に染みついたのとおなじ匂いだ。

 瞼を開く。

 銀髪紅眼のフリッサは消えて、代わりに強面の四角い髭面を映した。ゴドルフはウルエとおなじテーブルの対面に着いて、一仕事終えたとばかりパイプに煙草葉を詰めていた。食事より先に煙草で一服するのがゴドルフのスタンス。一度目の準備着火を終えて、いよいよ本着火へ移り煙草を楽しもうという矢先に、蹴破るような乱暴さで入口の扉が開いた。

 ゴドルフは名残惜しそうにパイプから口を離して「営業は夜からだ」と怒声を浴びせた。

「それどころじゃないんですよ」

 慌てた声は情けなく裏返り、気弱な青年の性格をさらに強調した。

「い、いるう……ウルエが、いるよお」

 気弱な青年の背中に張りつきながら、肩から顔を出して店内を見ているのは輪をかけて気弱そうな妙齢の女性。漆黒の髪は腰まであり、青年より大きな体躯を小さく丸めていた。背丈だけは立派な大人でも、舌足らずな声と怖がりな性格のせいで幼く見えてしまう。

「そら、いるだろう。……で、なんの用なんだ、ノゴティブ、プルワー」

 気弱な青年のノゴティブ、輪をかけて気弱な女性のプルワー。どちらもドワーフの腹鼓の常連客で、ギルドに寄せられた依頼を細々とこなして生計を立てていた。

 魔獣の出ないネモフィラの街にも小規模ながらギルドがあり、個人依頼が大半を占めていた。依頼内容も魔獣討伐など物騒なものはなく、人探しから買い出しなどの雑用、果ては老人の話し相手までなんでもござれ。安全な代わりに、一夜の酒代で消えるほど報酬は少ない。

 ギルドで受注するのはおなじでも、あくまでもギルドは仲介役にすぎない。

 そのためシグナキュラムが無くても受注は可能だ。そもそもネモフィラのギルドはシグナキュラムの支給すらしていない。死んだときに本人確認が必要な、そういう類の依頼はまずない。

「……あのう、そのう……だから、ええと……」

 ちらちらとウルエに視線を送りながら、ノゴティブは言い難そうにしていた。

 ウルエがいるから話せない、と言葉よりも雄弁な仕草にウルエは苦笑して席を立ち、ほとんど同時にゴドルフも立ち上がっていた。

「いいから、食え。腹空いてんだろう」

 ゴドルフの言葉に甘えて座り直したウルエは、ぱくり、と一口頬張り幸せそうな顔をした。空腹のときは上品な料理よりも、香辛料を利かせて、パリパリに皮を焼いた肉のほうが幸せになるのかもしれない。

 ゴドルフは目もとの皺を深くして優し気な表情でウルエを一瞥してから、わざとらしく渋面をつくり「……で、なんの用なんだよ、てめえらは」と、気怠そうに近づく。

 はやくはやく、とノゴティブが手招きしても、歩速は変えない。

 ようやく到着したゴドルフの耳に口を寄せて、ノゴティブは小声で話した。多少食欲が満たされたのもあり、どんな秘密の話をしているのだろう、とウルエは気になったが一言も漏れ聞こえない。ただ、ゴドルフの表情が百面相のごとく様々に移ろう。はじめに驚愕の表情をしたかと思えば、次いで疑うように変わり、程なくして眉間に縦皺をこしらえた。

「ウルエ、すまねえんだが、留守番をしていてくれて。急用ができたんだ」

 内緒話が終わると、ウルエに留守番を頼んで、ゴドルフは店から飛び出した。ゴドルフに続こうとしたプルワーは、ノゴティブに襟首を掴まれていた。

「おれたちは、ウルエが逃げないように見張るの」

「ここにいたら、殺されるよお」

 プルワーは本気で怯えているようで声を震わせた。

 逃げないし、天地が逆さになろうとプルワーを殺したりしないよ、とウルエは思いながら香辛料の利いた肉をぱくつく。フォークに刺した肉を口に運ぶまでに油が二滴ほど垂れた。美味しさを凝縮したような油だ、もちろん無駄にしない。肉を食べ終えてから、硬めに焼いたパンを皿の油に浸す。油の染み込んだパンに野菜を乗せて口に運ぶあいだも、一挙手一投足を見逃さないとばかり、ノゴティブとプルワーから熱視線を注がれていた。

 ウルエと目が合うだけで、小さく悲鳴をあげて、泣き出しそうに目を潤ませた。

 もとから気弱な性格の二人組だけれど、いつもはここまで酷くない。まるでウルエを凶悪犯か殺人鬼、はたまた超高額の賞金首と勘違いしているような怯えようだ。もちろん殺人どころか犯罪に手を染めたことも、賞金を懸けられるようなことをした覚えもウルエにはない。

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