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プロローグ

「君が冗談なんて珍しいな」

 ギルドの通路に爽やかな青年の声が響く。

 明り取りの窓から射し込んだ日射しは、仄暗い板張りの床を点々と照らしていた。その中を肩を並べて歩く三人は街で最強のパーティー。普段ならギルド職員が騒々しく行き交う通路は、澄んだ水のように静かだ。

「ベヒーモスを三〇秒で倒すなんて、現実味がないわ」

 今度は反対側から女性の呆れ声がした。少女の面影を残す高い声は、それほど早く倒せるわけない、と決めつけるように冷たい。

 ベヒーモスは上位魔獣の一種。

 これまで幾度となく倒してきた魔獣ではあるけれど、最短でも三日。三〇秒で倒すと言えば、冗談とも取られるだろう。

「現実味がありませんよね。作戦ひとつで、そこまで変わるものかなんて。わたしも冗談だと思いましたから」

「フリッサの考えた作戦じゃないの」

 三人の中心を歩いていた軽戦士の女性、フリッサは白銀の髪を揺らして頷いた。

「作戦を考えたのも、三〇秒で倒せると断言したのも、可愛らしい少年ですよ。眉唾ですが、わたしの知識では作戦に穴は見つかりませんでした。だから、試してみたいんです。本当に、冗談みたいな奇跡が起きるのか」

 フリッサは言葉を止めて、悪巧みを打ち明けるような笑顔で語りかける。

「作戦ひとつで楽に倒せるなら、今日が歴史の転換点になります。剣と魔導だけが強さの基準ですが、違う強さもあるのだと。面白いと思いませんか」

 フリッサの言葉に「そうだな」「そうね」と笑うような声が続いた。

 三人は通路を抜けて、広い部屋に出ていた。壁に掛けられた木板に貼られた無数の羊皮紙は、一枚一枚に魔獣討伐から人探しまで、様々な依頼が書き込まれていた。反対側は受注と報告の窓口。いつもなら無数の冒険者と忙しないギルド職員で溢れているけれど、こちらにも人の気配はない。代わりにギルドの外から人々の騒めきが聞こえた。

「君を唸らせるなんて、凄い少年がいたもんだ」

「なんて名前なの」

 ギルド入口の大扉をくぐり一歩外へ出ると、昼前の日射しが視界を白く霞ませるほどに照りつけた。フリッサは手のひらで額にひさしを作り紅眼を細める。ギルド正面のハルジオン広場を埋め尽くす無数の人々。大扉から三人の姿が現れて、騒めきは歓声になり地鳴りのように轟く。フリッサ様、シャルクス様、ルーデシア様――三人の名前を合唱のように繰り返して、ベヒーモス討伐へ送り出す。

「名前はウルエ。ウルエ・ナです」

 これから歴史に刻むかもしれない少年の名前をフリッサは小さく口ずさんで、歓声のなかを歩み始めた。

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