高慢
あと幾つの屍を越えてゆけば、"目的地"に辿り着くのだろうか。
屍、屍、屍。全部、”自分”の亡骸だと思うようにしている。
なのに、不思議なことに自分の手には、"自分”を斬り殺したその時の感触がずっと残っているのだ。何かを訴えかけてくるような、それでいて無機質なような悲鳴が。
その感覚を消してしまおうと、忘れ去ってしまおうと、頭をよぎることもある。だが、それをした時に、今までの自分の努力が報われないことが確定してしまう。眼の前に広がる屍は、本当の"屍”になってしまう。
”彼ら”の死に意味を与えてやるのは、紛れもない、生きて戦い続ける、自分の役割だ。
……なのに、なぜ迷っている?
なぜ自分は今、屍の山を築き上げる行為に対して、憎悪を抱いているのだろうか。
「お前は、つまらなかったな」
そうつぶやいて、一刀のもとに胴を切り裂く。そうして、一歩前へと進む。
「あと一歩で、俺を楽しませてくれたのだろうがな」
胸を突き刺す。
「……お前は、嫌いだ。二度と会いたくない」
「お前は出直してこい」
「あとちょっとだったな」
後ろを振り返れば、淡々と屍が地平線まで並んでいるのは分かる。だが、そうじゃない。
――俺が知りたいのは、そんなことじゃない。
「その点、お前は俺の乾きを満たしてくれそうだ」
その時に初めて、自分の背後にある亡骸が頼もしいと思った。いつか役に立つのだろうと漠然と思っていた存在を、初めて心から肯定できると思った。
――その時初めて、刀を振るうことに愛しさを感じた。意義を見いだせた。
「……残念だ」
だが、眼の前から“それ”が消えた瞬間に、すっかり上がりきっていた体温は冷めきってしまった。
「また、会えればいいのだがな」
再び、名も知らなければ、顔も定かに見えぬものを、切り刻み続ける。背後には、意味もない死屍累々が広がっている。
「俺は、何のために」
闇雲に刀を振るい、自分に立ち向かってくる何かの胴に、雑な切り口を与えてやる。
「……あ」
しまった、と思った。
"雑"な切り口は、自らの信条に反することだ。
はっと後ろを振り向いた。
そこには死屍累々が、無機質に広がっている。
――その時初めて、その屍たちに嫌悪を抱いた。自分が確信していたはずの意義を、見失った。
ふと、刀を見やった。
「……なんてことだ」
美しい一文字の刀が、毀れている。どころか、真っ直ぐに向いていた切っ先は曲がってしまっている。
「俺は」
いつから、自分の本当の目的を忘れてしまっていたのだろうか。
「……また、その剣技か」
自棄になって眼の前を切り裂いた。また、屍が増える。
――いったいいつから、自分は一人一人の"屍”と語らうのをやめてしまったのだろうか。
際限なく続く道に嫌気が差したのは、果たしていつごろだっただろうか。
後ろを見ても、きっと分からない。自分にとっては有象無象の、けれど全てかけがえのない存在であったはずの、屍の山が続いているだけだ。
「……お前、名は」
「――」
ああ、やはり聞き取れない。
だが、顔は覚えた。間の抜けた、いかにも善人ぶっているような顔。
気が向いたら思い出してやらんこともない、と、一刀のもとに斬り伏せた。