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1.〈赤星 高美〉の今日という日

 「いってきま~す!」


首のタイの位置を直しながら紺色のブレザー制服に身を包んだ少女が玄関から元気に飛び出した。キュッと使いなれた運動靴が小さく鳴り学校に向かう方角を整え、長めのポニーテールが揺れる。小脇に抱えていた通学鞄を右手に持ち変えるとハイソックスの脚を踏みしめて、全力で駆け出し


「高美! お弁当は!!」


後ろから母の声が響き、つんのめりそうになりながら方向転換する。


 「忘れてた!? お弁当!!」


母の手から赤い包みの弁当袋を受けとると、今度こそ全力で学校へと向かった。

 「まったく」


娘の後ろ姿を見送りながら母はため息を吐いて、いつもの朝の行事を終わらせる。


 「あ、そろそろ開店準備急がないと」


母はそういうと自宅権喫茶店の我が家へと入っていった。




 「遅刻! 遅刻かも!?」


ポニーテールを振り乱しながら全力で通学路を駆け抜ける少女。彼女の名は高美。「赤星 高美」〈あかぼし たかみ〉十五才。これから始まる物語の最初の主人公である。




 高美は全力で走る。遅刻を避けるために風となる。稲妻のように人の波をジグザグにステップを踏み駆け抜ける。

 それは、素晴らしい反応速度で次々とかわしていった。

 全ては遅刻を回避するために。


 だがしかし、高美は気づいていなかった。途中から自分と同じブレザー姿の少年少女達がゆっくりと談笑しながら登校、もしくは唖然と走る去る女生徒の背中を見送る視線の数々に。


 「遅刻は、まずいよ!?」


既に彼女は遅刻ではなく誰よりも早く登校するように走っているように見えた・・・・・・知らぬは本人のみ。


 そして、そんな高美の無茶な反応速度と全力疾走は限界を迎えた。


 目の前に見えるは交差点。高い塀に隔てた曲がり角。だが、高美が目指すはまっすぐだ、このまま駆け抜けるのみ。

 そう安易に考えていた。


 「のっ!?」


だが、こういう場所では突発的に事故は起こるものだ。

 曲がり角からパッと人が現れる。その上着を見るからに高美と同じ学校の生徒だろう。だが、高美にはそれを確かめる程の余裕は無かった。その生徒はiPodらしきものをイヤホンで聴いており、高美には気づいていない。高美も急には止まれない状態だ。


 「だっ、めっ、トゥオオォッッ!!?」


それでも全力の急ブレーキを駈ける。運動靴が悲鳴を挙げて靴底が一気に磨り減り、猛烈な砂ぼこりが舞う。


 だが、それでも止まれないものは止まれないものだ。


 「うぉっ!?」


「でぅえっ!?」


物凄い音を起てて両者はぶつかり、転がりあって倒れた。



 「ってぇ~。なんだよもう」


頭を片手で押さえながら相手側の生徒が上半身を起こした。


 「ご、ごめんなさ~い」


高美も頭をクラクラさせながら体を起こして謝罪の言葉を述べた。


 「いや、こっちも曲の方に意識いってて前方不注意だった。ごめん」


相手側の生徒も自身の不注意だったと頭を下げた。

 高美は慌てた。こっちの方がずっと悪いと思っていたので頭を下げられるとは思わなかったのだ。


 「か、顔上げて下さい! こっちの方が全然悪いですから!?」


高美はワタワタと手を振りながら相手側の生徒に怪我が無いか確認する。

 

 「ん? いや、こっちの不注意もあったとはずだぜ?」


相手側は顔を上げた。別段顔に傷らしいものは無く。体も大丈夫そうだった。高美はホッとしてその生徒を見た。


 頭をポリポリと掻いているその生徒は元々なのかぶつかった時に乱れたのか解らないが適当に切り揃えたらしいボサボサの無造作ヘアーだった。そして、その服装は制服の上着を羽織っているが、その下は学校指定のジャージを着こんで何処と無くもっさりとした奇抜な服装だった。いつもなら、高美はその恰好について聞きたいところだったが、今はそんなことを聞くような時では無かった。


 なにより高美は・・・・・・


「わぁっ! 遅刻してたんだった!?」


自分が遅刻していると思い込んでることを忘れていたのだった。


 「ごめんなさい!? 後でまた謝りにきます!?」


「え、あ、いや、別にいいんだけど」


「じゃぁ! 間に合えぇぇっ!!」


再び全力疾走で高美は駆けていった。後に残された生徒は唖然とそれを見送った。


 「遅刻って・・・・・・バスに乗り遅れるのか? あれ、でもうちの学校の生徒だよなあれ?」


服装は見間違えじゃないはずと首を傾げながら生徒は立ち上がった。



 「ま、なんにせよ変な〈先輩〉だったな。ん、でも〈オレ〉程じゃないか・・・・・・」


高美よりも背の高いこの生徒は、実は今年入学の〈新入生〉であのだが、高美はその事に気づく事は無かった。その女子生徒はは苦笑して高美と同じ方向へと向かい始めた。




 「あれ? れ? れ?」


そして、当の本人は教室に着いてまばらなクラスメートの数に目を丸くして瞬きを繰り返していた。


 そして


「あ、おはようございます高美ちゃん。今日も〈早い〉ですね」


後ろから時間差で登校してきた幼なじみ「青海 流香」〈おうみ るか〉の一言で、自分が既に〈遅刻〉では無い事に今更気が付いた。


 「うわ~、またこのパターンじゃん!!」


高美の悔しい叫びと共に、「矢神学園」〈やがみがくえん〉中等部 二年B組の平和な今日の一日が本格的にスタートするのだ。




 「うぇ~、お弁当がぁ~~~~」


お昼休み。仲の良い友人同士で食べるお弁当という物は格別である。気持ちの切り替えにお昼の補給はとても大事だ。

 と、心の中で赤星 高美は語り、友人達の彩り鮮やかなお弁当の数々に目を奪われながら、自分もみんなの前でお弁当をバカッとお披露目となったわけだが


「あら」


「おっ」


「これは」


「う~ん・・・・・・」


友人達は四人。口を揃えて高美の弁当へのご感想を述べた。


 『みごとに、混ぜご飯・・・・・・』


「あぁ・・・・・・もう、メチャクチャだぁ~」


高美は頭を抱えて机に突っ伏した。


 恐らく、今朝の全力疾走のせいだろう。今日のお弁当は運が悪いことにおかずに余分なスペースかあり、ご飯の上に転がり転がり、戻りに戻りを繰り返し、完全な混ぜ混ぜ状態が完成してしまった。


 昨日の晩に残してしまった酢豚の残りも、大好物のプチトマトの入ったサラダも、父のお手製自慢の「冷めても美味しいミニマカロニグラタン」も、ご飯の上で混ざりあい。


 ご飯の上のピカソ展や


と、なり、高美はますます名前とは真逆のテンションになってゆく。完全に自業自得とも言えるのでグーの音も出ない。


 「ま、まぁ、元気出して」


「一個一個は美味しいもんなんだから美味しいよ・・・・・・たぶん」


「あ~、そうだ。少しダイエットしなくちゃいけないから一つあげる」


「高美ちゃん。良かったらお弁当の交換しませんか?」


なので余計に友人達の優しい言葉が胸に痛かった。


 「うん、みんなありがとう・・・・・・そうだねちょっと形が崩れただけだし、ママとパパのご飯は美味しいもん。変わった中華丼だと思えば・・・・・・」


高美は覚悟を決めてマイ箸を手に取った。



 

「いただきます!!?」


目を瞑りハグッと口にした。モグモグと口を動かす。


 「ど、どう?」


「あんまり無理はしないで」


「ヤバかったらパン。パンあげるから!」


「じぃ・・・・・・」


固唾を呑んで見守る友人達の視線を前に、高美はGokuriと一口目の弁当を喉を鳴らして飲み込み、静かに感想を口にした。


 「レタスのシャキシャキ感と・・・・・・なんだか甘酸っぱいような、まろやかなようなのが・・・・・・混ざりあって・・・・・・少しだけ口の中にお肉が入っていて・・・・・・それが結構な歯応えで」


パッと目を開いて真面目な表情で高美は

「意外と美味しいかもです」


グッと親指を上げてニッと笑った。


 「ぷっ」


『アハハハハッ!!』


真剣な顔で聞いていた友人達は高美の言動に思わず笑ってしまった。


 「なに、不意討ちってやつ?」


「ま、マジ、やら、れた~」


「おのれ、卑怯な、あ~か~ぼ~し~」


「わ~、みんな面白いです」


友人達はそれぞれの反応で高美のテロ行為なネタを返した。


 友人のひとり、幼なじみの流香からは拍手を貰った。


 「は~、みんなの笑いで気持ちの充電完了~だよ」


ニンマリ笑ってそれほど悪くも無かった混ぜ混ぜな弁当をパクパクと高美は食べ始める。


 そのニコニコとした表情の高美を見て友人達は優しく微笑んだ。


 「やっといつもの高美だわ」


「ま、いつもの事ながら沈む理由も何でもないことだけど」


「何でもないことで持ち上がるほうが早いから良いよね。元気になったらマジ無敵だし高美」


「うんうん、ですよね」


そんな友人達の声に高美は顔をあげる。


「ん? なに?」


友人達は声を揃える。


『高美は元気だなって話だよ』


「ん~、んんむ?」


高美は良く解らず首を傾げた。







 「そういえば、高美は今日どうすんの?」


お昼を食べ終わった後、友人の「南」〈みなみ〉がそんなことを聞いてきた。


「今日?」


「ほら、運動部の助っ人よ」


それを聞いて、高美は ああ と声を漏らす。


高美はたまにその運動能力を活かして運動部に助っ人の出張をやっている。結構引っ張りだこなちょっとした有名人なのだ。勧誘の話もよく来るが、どれか一つに絞り込みたくない高美は全てを断っている。


 「今日は・・・・・・ないかな? うん、無い無い」


今日の助っ人の予定は自分の聞いてる範囲では無い事を頭の中で確認する。


 「あら、今日は高美ちゃんのフリー日ですか?」


綺麗な長い黒髪を揺らし、お人形のような朗らかな微笑みで流香が高美の顔を覗き込んでくる。


 「だったらうちのスイミングスクールに来ませんか?」


綺麗な容姿と丁寧な言葉使いの流香は人からは何処かのお嬢さまと間違われるが、彼女の家は両親が「スイミングスクール・イルカコミュニケーション」を営む至って普通の中流家庭である。丁寧な口調は祖母の影響からくる癖で幼なじみの高美にも普通に使ってくる。本人は友達間では治そうと目下努力中である。


 「イルコミでなにかあるの?」


「いえ、ちょっと永くんがたまには連れて来いと言うもので・・・・・・」


「永ちゃんが? なんのようだろ?」


永ちゃんこと「青海 永梧」〈おうみ えいご〉は流香の二歳離れた二番目の兄であり、もちろん流香と同じく幼なじみの一人である。昔はよく遊んだものだが、永梧が高等部に進学してからは高美とはあまり会わなくなってしまった。

 そんな永梧が高美をイルカコミュニケーションに連れて来いとはこれいかに。

 「特に、理由もなにも無いと思うのですけど・・・・・・」


なんだか流香の様子を見ると、無理に来なくてもいいと行ってるように見えた。


 「用事が無かったら行ってみようかな?」


高美はとりあえずそういっておいた。


 「うん、わかりました。それでは何も無かったら一緒に帰りましょう」


「うん」


二人の間の会話を聞いて、友人の鈴木が顔を突っ込んできた。


 「なに! 男の話し!? 流香ちんの兄貴? イケテる!」


そんな鈴木の首根っこを捕まえて間弓〈まゆみ〉が鈴木を持ち上げた。


 「はい、邪魔しないでね~」


「なに! ちょっと、流香ちんのお兄さんの話をもっと!?」


「ごめんねうちら」


退場するからと苦笑いを浮かべてジタバタする鈴木を持ち上げて教室の後ろにフェードアウトしていった。


 残された高美、流香、南は笑ってそれを見送った。


 「まったく、オトコオトコって鈴木には困ったもんだわ。ありゃいつか合コン開くって言うよ」


南はため息を吐いてヤレヤレをした。


 「う~ん、そんなに男の人とお話ししたいんでしょうか?」


「いや、真面目に聞かなくて良いって。麻疹みたいなもんだから」


ポンと流香の肩に手を置いて、南は首を左右に振った。流香はよく解らず首を傾げた。


 あまりにオトコの単語を聞いたせいか。高美は今朝の出来事を思い出していた。


「今朝の人大丈夫かな?」


「それもオトコの話!」


いつの間にかこちらに戻って来ていた鈴木はポツリと言った高美の一言を拾って食い付いてきた。


 「ち、ちがうちがう。今朝わたしがぶつかっちゃった人の話!」


高美は慌てて訂正をする。ちゃんと言っておかないと鈴木はオトコの話になると変な方向に話をねじ曲げてしまう事があるのだ、その為に彼女と付き合いの長い間弓が目を光らせてくれているのだが


「その人カッコイイの!」


どうやら間弓の目から掻い潜ってきたようで、そして高美の訂正の半分も鈴木の耳には届いていないようだった。


 「う~ん、顔はあんまり見てないよ。ええと、頭がボサボサの無造作ヘアーだったのと、制服の下にジャージ着てたのが印象に残ってるかなぁ。あ、あと、わたしより背が高い気がする」


あれ、結構見ているなと思いながら高美は今朝ぶつかった生徒の特徴を並べて言ってみた。


 「あ~あ、余計なエサを」


南が額に手を当てて首を振っていた。言われて高美もしまったと口元を押さえた。


 だが、時は既に遅しである。瞳を輝かした鈴木がズイッと詰めよってきた。


 「その感じ、イケメンの確率高しと見た! 〈センサー〉がビビっと来た!」


〈センサー〉とは、鈴木曰く自分にだけ感じる。イケメン感知能力らしいが・・・・・・信憑性はかなり低いし、判断基準もよくわからないので友人間ではあまり信用していない。


 「お願い! もう少し情報を、主に顔のパーツ関係を!!?」


しかし、本人は自分の直感を信じており、段々とテンションがギアチェンジの如く上がってくるので始末に終えないのだ。


 「うえっ! そんなこと言われてもよく覚えてないって!?」


さすがの高美もタジタジとなる。


 「よく、よ~く思い出してみよ! ね!?」


完全に背中と壁がピッタリとなって、ちょっと怖くなってきた。


 そのとき


「くおらっ!!」


「ぬなっ!?」


救世の手が、暴走した鈴木の体を羽交い締めにした。



 「あたしが目を離した隙に! あんたは!!」


「は、離して! これは指命なんよ!?」


「指命だったら自分でやれ! 他人を巻き込むな!!」


「そんなの当たり前じゃない。あたしはもっと情報を確実なものにしたいんだい!?」


ジタバタと手足をバタつかせる鈴木をひょいと持ち上げて間弓は荷物を運ぶように後ろに下がる。


 「ごめん。今度こそ落ち着くまでちゃんと見張ってるから」


「も~、〈まゆまゆ〉の裏切りいぃっ!?」


「あたしは誰の味方のつもりはない。あと、人前で〈まゆまゆ〉はやめな」


「くっそー、男子の前でそのおっぱい揉んで日焼けの下着跡を見せてやる!」


「やれるもんならやってみな」


「ぐぅ・・・・・・あたしは諦めの悪い女なんだあぁっっ!!」


「わかったから、外でゆっくり話そうね」


こうして二人は嵐のように去っていった。


 「す、鈴木・・・・・・怖すぎだよぅ」


「ほんとに、あのエネルギーは集中した時の高美なみだわ」


「わたし、あんなにパワフルだっけ?」


「うん、割りとマジで」


「ハハハ、まっさかぁ・・・・・・ええと」


少し、自分の行動は自重しようと高美は思った。



 そして、放課後。

高美はイルカコミュニケーションに行くと流香に伝える暇が無かった。

なぜなら


「それらしいイケメンは矢神には見当たらないんだけど! もうちょっと詳しく聞かせて!!」

「だから、イケメンかどうかなんて知らないってばあぁっっ!!?」


第二ラウンドが始まったからだ。



 高美は早く校門から出ようとダッシュした。さすがの鈴木も学校の外に出れば諦めてくれるだろうという淡い期待からだった。


 全力疾走で高美は自分が負けるとは思って無かった。身体能力には自身があるのだ。伊達に遅刻ぎりぎりと思われる時間に起きて、いつの間にか優等生クラスの登校時間になるほどの全力疾走をほぼ毎朝行ってはいないのだ。


事実、本当は走ってはいけない廊下を稲妻のような反射神経で障害物を回避し、良い子はやってはいけない階段の一気跳びを駆使し、鈴木をぐんぐんと引き離し校舎を出た。


 (やった! 勝った!)


小さなガッツポーズをして鈴木のしつこさに勝った事を確信した。


 だがしかし、アクシデントというものは誰にでも起こるもの。それは高美も例外ではない。


 「え?」


なぜだろうか? 高美の進行方向にサッカーボールがコロコロと転がってくる。


 (ちょっ! まっ!)


声をあげる暇もなかった。


蹴り上げる。そんな芸当ができる余裕はなかった。転がってきたボールを思いきり踏んづけて、高美はグルンと一瞬空を見た。

 一瞬、一瞬だった筈だがそれが少し長く感じる錯覚に高美は陥った。空の青さがよく見えた。雲の白さもよく見えた。

 そして、それらの間に細く〈赤い〉光が空から落ちてくるのがよく見えた。


 (え? なにあれ? 隕石?)


一瞬の中の一瞬でそんな感想を頭に過らせると同時に、高美は一回転して顔から地面に落ちた。



 「お、おい、やばいぞ!?」


「い、一瞬・・・・・・白」


「言ってる場合かよ!!」


「きゃあぁっ! 高美大丈夫!?」


色んな声が高美の元に心配する声が集まってくる。

 だが、高美はそれが遠くから聞こえる気がする。それよりも、高美は空のあの〈赤い〉光が気になった。

 高美は腕を突いて一気に上半身を起こした。うぉっ!? と周りからどよめきが起こるが、高美は急ぎ空を見た。


 空には青と白の美しいコントラスト。だが、そこに〈赤い〉光は見えなかった。







 ケガは擦りむき程度で、ケガとも思わないケガだったが体をぶつけた場所が場所だけに、特に高美は女の子であるから周りの人達が心配するので一応保健室で見てもらった。

 特に異常は無いようで赤チンとバンドエイドの応急処置で帰された。

 鼻の頭のバンドエイドを鏡で見て間抜けなもんだと思いつつ、高美は空を見た。

 あの一瞬だけ見えた〈赤い〉光の事を考えていた。

 あれは見間違いだったのだろうか? 起き上がった時に、周りの人達に聞いてみたが、そんなのは見ていないと言うのだ。けど、高美は光を見たと何度も言うので、周りの生徒達は本当に大丈夫かと聞いてくる。騒ぎを聞きつけた鈴木は青くなって何度もごめんと言っていた。


 高美は大丈夫を繰り返し、その場は保健室に行くことで納めたが、ヘタをしたら救急車を呼ばれていたかも知れないなと高美は笑った。


 笑いながら、またあの光の事を考えていた。気になって、気になって、仕方がなかった。なぜここまで気になるのだろう。


 「あれ、なんだったんだのかな? わたしの見た幻? けど・・・・・・何か空から落ちてきたなら」


 方角的にこの矢神学園の裏にある「夢見高台」〈ゆめみたかだい〉に落ちたはず。こんな近くに落ちたなら自分意外にも誰か気づきそうなものだと矛盾を感じるが、高美は自分の勘を信じてとりあえず行ってみようと思った。 高美は鞄を手に取ると真っ直ぐ夢見高台を目指した。




 高台に着くと、とても静かで高美意外に人はいなかった。何かが落ちた形跡も見当たらない。


 「ん~、やっぱりわたしの見間違いなのかなぁ・・・・・・」


何も無いと証明されても高美はまだ納得は出来ていなかった。確かめないと気がすまない性格が、もうちょっと辺りを見てみようという結論に達し、高美は探索を始めようとした。


その時


「ん?」


後ろの木から、何かが茂みに落ちるガサリという音が高美の耳に聞こえた。

 急いで茂みに近づき、ガサガサと掻き分けると、高美の目に両手程の大きさの赤い何かが見えた。


 「・・・・・・鳥?」


それは、まるで〈炎〉のような綺麗な赤い色をした鳥だった。



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