小間物屋
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案の定、妹姫の手提げ袋はかなりの話題になった。
例の小間物屋には今度の納品はいつだ、と、問い合わせがひっきりなしだそうだ。
王子が洗濯に使っている薬草がなにか知りたいというので忍が調べているのだが、なかなか難しく、直接訊いたほうが速いので訊いてもいいかと言ってきた。
そこで、忍が騎士に変装して、訊いてみた。
「いつもご苦労さん。きみの洗濯物、なんかいい匂いがするけど、なんの匂いだ?」
「これですか?ふふ、ナイショです。」
「まあそう言わずに教えてよ。」忍はそう言ってシェリルのポケットに紙幣を入れた。
「うわ、そうですか。えっとね、ティーツリーっていう薬草なんです。肌にいいだけでなく殺菌効果があるんですよ。ナイショですからね。」
「へえーそうなんだ。なんかさ、君が洗濯するようになってから、体調がいいみたいな気がしてな。」
「そうですか!ありがとうございます。嬉しいです。これからも一生懸命やりますから、よろしくおねがいします。」
シェリルはペコリと頭を下げた。
そこに騎士団長がやってきた。
「君、名前を教えてもらってもよいか?」
「サニーです。」
「そうか、サニー嬢、いつもいい仕事してくれてありがとう。これ、ボーナスだ。」
「わあ、ありがとうございます!きょうはなんだか私、ツイてます。嬉しいな。」と、にっこり。
「次回からはいままでより少し余計に払おう。期待しててくれ。」
「ありがとうございます!」
シェリルはそれから手押し車を押して帰っていった。
3日後、シェリルはいつもより多く刺繍の製品を持って小間物屋に訪れた。
小間物屋は
「ああ、サニーちゃん、助かったわ。ちょっと待ってね。」
そう言うと、店先の鐘を鳴らした。
「なんですか、これ?」
「サニーちゃんの刺繍の品がとっても評判がよくてね、入荷したら鐘をならしてって、わざわざ鐘をつけてくれたお客様がいたのよ。さて、きょうのを見せてもらえるかしら?」
「へえー、有り難いです。きょうは、これ持ってきました。」
「まあきれい!」
手提げ袋に巾着、スカーフ、ハンカチ、サッシュベルト。
「素敵ねえ。あなたのはスカーフでもサッシュベルトでも、無地のシンプルなドレスにそれを加えるととっても華やかになって素晴らしいわ。またすぐ売れるわよ。」
「そうですか、ありがとうございます。楽しみです。」
そう言ってる間に、もうお客さんが来た。
ひょいひょいっと売れていく。
シェリルは有り難いやらもったいないやらで、お客さんひとりひとりにお礼を言った。
「まあ、あなたの作品でしたの。どれも素晴らしいわね。作るの大変でしょうけど、またよろしくね。」
「はい、ありがとうございます。がんばります!」
また別のお客さんは
「うちは、娘がもうすぐ結婚するの。貴女の作品をいくつか持たせたいのでよろしくおねがいしますね。」
「それはおめでとうございます。光栄です。がんばります。」
シェリルは店長に囁いた。
「他のお客さんにはナイショでお願いしたいんですけど、今のお客さん、娘さんが結婚なさるってことですけど、娘さんのイニシャルを訊いていただけませんか?結婚記念に娘さんのイニシャル入りの何かをサービスしようと思って。」
「あら、それは素敵ね。訊いておきますよ。サプライズが良いからナイショにするわ。」
「はい、ありがとうございます。」とシェリルはにっこり。
店長がシェリルに
「ねえ、サニーちゃん、あなたこれを1週間で作ってるの?」
「はい、いろいろ他にも仕事があるので、どうしてもこれが限界なんですけどね。でも、好きだから楽しんで作ってます。」
「すごいわねえ。こんなに手の混んだものを1週間で作っちゃうなんて。もう少し高くしても売れそうだけど、どうする?」
「そうですねえ、人気が出て値を上げるのって感じ悪いから、このままでお願いしたいと思いますけど、いかがでしょう?高くするなら違う商品にすると良いかと思います。たとえば巾着をやめて手提げ袋にするとか、ハンカチをやめるとか。」
「なるほど、それがサニー流のビジネスってわけね。」
「ふふふ、そんなに大それたものじゃないですけどね。」
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