手提げ袋
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パーティーの日。結局シェリルは現れなかった。ブレイディ家が挨拶に来た時は、娘はビビアンだけだと言っていた。忍が探ったところ、シェリルはその日1日働いていたそうだ。どうやら洗濯で得た金は家に入れ、一部を使って刺繍材料を買い、それで作った品を小間物屋で売り、その収入は隠しているようだ。王子は小間物屋に行ってみることにした。
「殿下、最近洗濯娘にご執心ですな。」
「面白いではないか。何をしようとしているか、探ってみたくなった。」
小間物屋は女性向けの手提げ袋や巾着、ショールなど、刺繍を施したものがいろいろあった。王子はそのなかの目を惹く出来のものを手に取り、作者は誰か訊いてみた。
「それが、サニーさんって人なんですけど、いつも出来上がったものを直接持ってきてくれるので、どこの工房の人かわからないんです。今お手に取ってご覧のものは、たしかにうちでは一番の出来で、この人のものはすぐに売れてしまいます。今日はたまたまさきほど納品に来てくれたので、まだ少し残っていました。」
そう話していると、横から従者のような者が、
「失礼ですが、それはお買い求めになりますか?」
と訊いてきた。近くに貴族風の女性が立っている。
「あ、ああ、これは買うつもりだ。」
王子はそう言って、急いで代価を支払った。
貴族風の女性は店主に
「せっかくきたのにもう売り切れだなんて!もっとたくさん仕入れてちょうだいよ。」
と文句を言っている。
王子が
「今度はいつ納品に来るだろうか?」
と訊くと
「さて、不定期ですのでなんとも。でも週に1回は来てくれます。」
「うーむ、謎の姫君だなあ。」
王子が執務室で手提げ袋をくるくる振り回していると、妹姫が通りかかって
「きゃーお兄様、それ、どなたへの贈り物なんですか?お兄様もやっと想い人ができたのね。」
「おい、勘違いだぞ。これはたまたま買っただけで、誰に贈るとも決まっていない。」
「あら、だったら私にちょうだいな。」
「なんだよ。」
「だってこれ、今すごく話題のものですわ。みんな欲しくて血眼になって探してますわよ。でも、なかなか買えなくて、大変な思いをしてるんです。」
「ほんとか。俺は運がいいんだな。」
「そうよお、お兄様、だから私に頂戴。」
「ふむ、やってもいいが、条件がある。」
「なになに?」
「これをやったら、持ち歩け。お前が持っているともっと人気が出る。」
「そんなことでいいの?だったらお安い御用よ。そもそも持ち歩いて自慢したいから欲しいんだもん。」
「そうか、じゃ、これ、やる。」
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