まさか王子が
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「実は、うちの魔導師たちがきのうの君を見て、誰だ、誰だ、と騒いでいてな。」
「あら、お暇なんですね。」
「ははは、まあ、若い男も多いからな。そこにキレイな女性が入ってくれば目を惹く。」
「ああ、枯れ野原に咲いたドクダミ草って感じですか。」
「あはははは、またそういうことを言う。・・・とにかくだ、そこから出てきた話なのだが、このごろ騎士団のほうで洗濯屋が注目されているんだそうだ。」
「えっ。」
「なんでも、王子が目にしてな、興味を持って内偵させ、ブレイディ卿の令嬢ではないかと言われているんだそうだ。」
「ええっ」
「そして、王子が調べさせて刺繍を売っているのも調べ上げ、王子がお忍びで店に行って刺繍の手提げ袋を買い、妹姫がそれを見せびらかしているんだそうだ。」
「そんなあ。」
「噂ではそろそろ王家からブレイディ家に見合いの話が行くのではないかと言われている。」
「いやです。いやです。どうしましょう。」シェリルは涙目になっている。
「そんなに嫌なのか?」
「嫌なんてもんじゃありません。だって私、そもそも貴族が嫌いなんですよ。・・・って、すみません、オマリー様は良い人で好きですけど、でもその、貴族のあの何考えてるかわからない、嘘を平気でつく、言ったことをさらりと覆す、基本的に身分だけで人を見下す、っていうようなところが、全く信用できなくて。しかも高位貴族とか、まして王族なんて言ったらもう、そういう貴族の権化みたいな人たちでしょう?無理です。無理。それにそういう人たちって、側室とか当たり前に持ってるじゃないですか。ああ、私、平民になりたいです。本気でどこかに失踪しようかしら。転移魔法できるようになったんだし・・・」
「そうか・・・まあ、わかる気はするな。ちなみに俺は貴族ではないので心配するな。」
「え?そうなんですか?ネイトおじさまも貴族じゃないんですか?」
「違うぞ。爵位を賜る話はよく出ているようだが、そのたびに辞退しているそうだ。」
「わあ、かっこいい!いいなあ、私、もうちょっと年上だったらなあ、ネイトおじさまの奥さんになりたかったのになあ。残念ながら私、枯れ専じゃないし。」
「ははは、団長、喜ぶぞ。でもその、枯れ専ってなんだ?」
「うーん、喜んでもらえても、今この危機を回避する力にはならないですからねえ。あ、枯れ専っていうのは、枯れたくらいの年齢の人がタイプの人のことです。」
「はははは、団長が枯れてるかどうかはわからんぞ。」
「このことって、だいぶ切羽詰まってますよね?」
「そのようだなあ。」
2人とも無言で考えている。
「あの」
「それなら」
「あ、すみません、お先にどうぞ。」
「ああいや、シェリルが先に言いかけたから。」
「そう・・・ですか。では。その・・・ご迷惑を承知で言ってみるだけ言ってみます。あの、私と結婚していただけませんか?そしたらもう他の人と結婚できません。あ、もちろん形だけです。恋人の方には私が謝って説明します。指先すら触れなくて結構ですので。・・・ってまた寂しい発言をしてしまったわ。自分で自分が情けない。」
「ははは、こんな時に面白いことを言うな。実は、そのことを俺も提案しようかと思ったのだ。結婚していればもう結婚しようとは言われないだろうからな。言われても結婚しているという理由で断れるだろう。俺は恋人はおろか、全く誰もいないから、そういう心配はしなくていい。」
「えっ、オマリー様も寂しい人間だったんですか。」
「わははは、寂しい人間で悪かったな。」
「もしかして、私が彼氏いない歴イコール年齢なんですけど、オマリー様もですか?まさかね。」
「ぶははは、そうだ。そのまさかだ。悪かったな。」
「あははは。そうですか・・・きょうね、このあとネイトおじさまと一緒にお茶することになってるんです。その時相談してみます。あ、そうそう、あのね、ゆうべネイトおじさまとオマリー様にと思ってクッキー焼いたんです。これ、よかったら。」
シェリルがクッキーの袋を差し出してにっこり笑った。
「おお、そうか。ありがとう。正直、女性から手作りの菓子をもらうなんて、人生ではじめてだ。」
「またそういう寂しいことを。」
そう言って2人で笑った。
「うん。うまい。うまいな。」
「ありがとうございます。でも、ローストビーフの合間にクッキーなんて、合うとは思えませんけど。」
「いいのだ。人生初の手作りクッキーだからな。」
「ふふふ、なんだかオマリー様、だんだんおもしろい人になってきましたね。」
「そうか?それはシェリルに鍛えてもらっているからだな。」
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