手作りクッキー
お立ち寄りいただきありがとうございます。
オマリーがドアをノックする。
「誰だ?」
「オマリーです。」
「入れ。」
部屋にはリチャードとマーフィー師団長が楽しく語らっていた。
「お父様。」
「おお、戻ったか。どうだ?できそうか?」
「わかりません。きょうは転移魔法がどんなか体験させていただきました。あした実際に魔法を練習します。」
「そうかそうか。がんばってな。」
「はい・・・ネイトおじさま、ありがとうございます。あしたまた教えていただきます。」
ネイトおじさまという言葉で、オマリーがぴくりと反応した。
「そうか・・・あしたは私は長い会議があるので、残念だが一緒にはできないが、がんばってくれ。オマリーはどうだ?失礼なことはないか?」
「オマリー先生はとても良い方ですね。お忙しいのに私のわがままにつきあってくださって、とても感謝しています。
「オマリー先生か。わははは、お前、ずいぶん出世したものだな。」
オマリーが真っ赤になってしまった。部屋の隅にシェリルを連れていき、小声で言った。
「シェリル嬢、どうか先生はやめてください。」
「えー、お師匠様がだめっておっしゃったから先生にしましたのに、困ったわ、なんとお呼びすればいいですか?」
「いや、オマリーで」
「いくらなんでもそれでは」
「ではオマリーさんで」
「わかりました。オマリー様、これでよろしいでしょうか?」
「・・・はい、お願いします。」
ふたりは師団長のところに戻り、
「それではあしたはお迎えに上がりますので、何時ならよろしいですか?」
「あ、いえ、それは、えっと・・・私がオマリー様のところに伺います。何時ならよろしいですか?」
「いや、でも・・・」
「そうしてくれたまえ、オマリー殿。」
「はい、では朝9時でよろしいですか?」
「はい、あの・・・あしたはちょっと違った見た目で伺いますので、驚かないでください。」
「ああ、そうですか、わかりました。」
シェリルはネイサンとオマリーに、にっこり笑って帰りの挨拶をした。
なぜかネイサンとオマリーが共に顔を赤くしていた。
帰りの馬車の中で、シェリルは髪を後ろに縛りながら、
「お父様、ネイトおじさまもオマリー様も、良い方ねえ。」
「そうだな。ネイトは本当に良い奴だ。ネイトが言っていたが、オマリー君は孤児だったそうで、ネイトが街で拾ってあまりの魔力の高さに驚き、それからネイトが育てたのだそうだよ。」
「まあ、素敵。ネイトおじさまは本当に良い方なんですねえ。」
「オマリー君もその恩を忘れず、真面目に勉強し、訓練も人一倍やって、ここまでになったのだそうだ。」
「偉いわねえ。私なんか、ぼんやり生きてて恥ずかしいわ。」
「シェリーだっていつも一生懸命じゃないか。自慢の娘だよ。」
翌日は、シェリルは洗濯屋の変装でもない、新しい変装で出かける。
髪は三つ編みにし、そばかすをつけ、眼鏡をかけた。
ゆうべ焼いたクッキーを2包み鞄に入れた。一つはネイトに、一つはオマリーに。
父の部屋のドアをノックする。
「お父様、これから行って参ります。」
「ああ、行っておいで。ネイトによろしくな。」
「はい。これ、きょうのお父様のおやつ。」
「おっ、これはうまいんだ。ありがとう。」
「ふふふ、どういたしまして。」
魔法師団に着き、マーフィー師団長を訪ねる。
マーフィーは自らドアを開け歓迎してくれた。
「ネイトおじさま、おはようございます。きょうはこれからオマリー様にご教授いただきます。」
「そうか、時間をかけて無理せず学ぶのだぞ。」
「はい、ありがとうございます。」
「オマリー様のお部屋はお隣ですか?」
「ああ、たぶんいると思うぞ。」
「それからおじさま、きょうは1日中お忙しいですか?」
「午前中はずっと会議と来客なのだよ。」
「午後は?」
「午後はいくつか予定があるのだが、何か相談事でも?」
「いいえ、ただゆうべおじさまに召し上がっていただきたくてクッキーを焼いたんです。それで、もしできたらおじさまとご一緒させていただけたらと思っただけです。」
「おお、それは嬉しい。では昼食は残念ながら来客と取らなければならないのだが、そのあとで良ければ1時にここでどうだろうか。」
「はい、ありがとうございます。でも、予定が変わったり、お忙しいようなら別に次回で構いませんので。」
「ありがとう。」
「ではこれ。」
そういって、シェリルはクッキーの包みを差し出した。
「オマリー様のもあるんですよ。ほら、ね。」オマリーへの包みも見せてくれた。
「あ、だけど、一緒に食べるのはおじさまと私です。」
そう言ってにっこり笑うとくるりと向きを変えて部屋を出ていった。
お読みいただきありがとうございます。
ご感想、評価、いいね、などいただけますと幸いです。




