はじまり
お立ち寄りいただきありがとうございます。
「こんにちはー。配達でーす。」
「おお、ご苦労さん。いつものところに置いといとくれ。」
「はーい。今日の分、いただいて帰りますね。」
「あいよ。あんたはいい仕事してくれるから助かってるよ。なんかね、騎士様たちがあんたが洗濯してくれたものを着ると体調がいいって言ってくれてるよ。どんな秘密があるんだい?」
「うふふ、ナイショ。でも、嬉しいな。ありがとうございます。またよろしくおねがいします。」
「気をつけておかえりねー。」
「はーい。」
手押し車にこぼれそうなほどの洗濯物を乗せて、少女はよっこらしょっと押して行く。
「おっ、きょうもご苦労だね。ほら、口開けな。」
騎士のひとりが少女の口に飴を放り込んで、頭をがしがしと撫でる。
ちょうど騎士団長と王子が居合わせ、それを見て王子が訊いた。
「あれはなんだ?」
「去年から騎士たちの服の洗濯を外の業者に頼んでいるのですが、これがとても安くていい仕事をしてくれて、大いに助かっています。」
「そうか。子供がひとりで配達に来ているのか?」
「はい、洗濯屋というわけでもなさそうで、あの子がひとりでやっているようです。」
「あの子が1人でか!親はいないのか?」
「それが少々訳ありなのか、訊いてもはっきり言わないのです。でも、実に真面目で、今まで一度もミスしたこともありません。」
「えらいな。」
王子は忍に子供の後をつけるように命じた。
「なにか不審な点でも?」
「いや、ほんの好奇心だ。もし病気の親でも養っているなら、少しは助けてやれるかと思ってな。」
「お優しいことでございますね。殿下はそのようにいつも民に寄り添っておいでで、敬服いたします。」
「たいしたことじゃない。」
しばらくして忍が戻ってきた。
「行ってまいりました。」
「ご苦労。で、どうであったか?」
「それが少々驚きました。まず、子供が入っていったのはブレイディ伯爵家でした。入ると屋敷の裏の小屋に行き、そこの井戸を使って洗濯をしておりました。洗濯をある程度干すと、おそらく風魔法と思われる魔法で乾かしておりました。洗濯には何か薬草のようなものを使っておりました。すべて終わると乾いた洗濯物を小屋の中に持って入り、すべてきれいにたたみ終わると今度は急いで顔を洗い、屋敷の裏口から入っていきました。」
「ブレイディ伯爵家か・・・」
「驚いたのは魔法を使っていたということと、とても楽しそうに歌いながら洗濯していたのですが、その歌がとても上手だったということと、顔を洗うと別人のようで、あれはおそらく子供ではないのではないかと思いました。」
「ブレイディ伯爵家はどんな様子だ?すこし調べてみてくれるか?」
「承知しました。」
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