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お可哀想ですね

「リアナ！　大丈夫か！」

　ジキウスはそう声をかけた後、私の方を振り向いて睨みつけてきた。

「おい、エマ！　リアナにはもう近づかないって約束だろ！」

「近づかないなんて一言も言ってないですけど」

「お前……！　いいから離れろ！」

　そう言ってジキウスは私の手首を掴んで無理やり立たせようとする。純粋な力比べでは敵わない。

「やめてくださ……！」

　その時、強引なその手をリアナが掴んだ。

「私の友達にひどいことしないで」

　まっすぐな目でジキウスを見つめる。

「リアナ……なんで……」

　ジキウスは心底不思議そうに呟き、私の手を離した。

「エマとは友達になった。私達の邪魔をしないで」

「そんな……俺はただリアナを……」

「あなたは関係ない」

　リアナの正直すぎる言葉がジキウスにクリティカルヒットする。ジキウスの肩を持つつもりは全くないけど、一旦二人を引き離さないとジキウスの精神がやられてしまいそうだ。

「ごめんリアナ、ジキウスと話があるから先に行っててくれない？」

「それなら私も……」

　さっきのやり取りで心配したのか、リアナも残ろうとする。

「大丈夫。すぐ行くからさ」

「それなら、分かった」

　渋々、リアナは席を立った。リアナの背中が遠くなって、私は放心状態のジキウスに目を向けた。

「関係ない、ですって」

「ぐぅ……っ！」

「全然眼中になくてお可哀想ですね」

「お、お前……俺を嘲笑いたくてわざわざ残ったのか！　とことん悪い女だな！」

「あら、元はと言えば、許嫁がいる身でふらふらと他の女に目移りするからいけないんじゃないですか？　それとも、エマ(私)は根っからの悪役令嬢でしたか？　幼いころから私と許嫁のジキウス様であれば、よくご存じですよね」

「そ、それは……」

　そう言って目を泳がせた。思い当たるところはあるらしい。

「確かに、以前までの私はリアナに嫉妬して酷いことをしてしまいました。そのことは反省していますし、謝罪もしました。リアナは私の謝罪を受け入れて、今では友人になりました。だから、リアナの友人として言います。彼女をあまり困らせないでください」

「困らせるって……俺が何したっていうんだよ！」

「リアナは『見つかるとなかなか開放してもらえない』って言っていましたよ。たいして親しくもない人から長々と会話を求められたら、誰だってうんざりしますよね」

「だって俺のことをもっと知ってほしいから……」

「そうやって自分の話ばかりしてるからダメなんですよ。大体、きちんと『好き』って伝えてるんですか？」

　私の問いかけにジキウスは顔を真っ赤にした。

「す、好き……！？　そそ、そんなこと言うわけないだろ！」

　動揺が隠せない様子のジキウス。俺様キャラのはずなのに恋愛偏差値が低すぎて、この残念な有り様だ。

「はぁ……ジキウス様はヘタレですねぇ」

「へ、ヘタ……え？」

「甲斐性なしだって言ってるんですよ。好きなら好きってはっきり言わないと、あの鈍感リアナには一生伝わらないですね」

「どうしても言わないとだめか？」

「はい、だめですね。ジキウス様に駆け引きはまだ難しいでしょうから。リアナに自分の気持ちを正直にぶつけてみて、反応を見ましょう。それで引かれたら打つ手はないですが、もしそうじゃなければ現状から大きく進展する可能性があります」

「わかった。やってみる」

　そう言ってジキウスは去っていった。どうなるかはリアナ次第だけど、まあせいぜい頑張れ。

　ん、あれ……私、なんでジキウスにアドバイスなんかしてるんだ？　ルイスのライバルでしょ！？　エマの因縁の相手でしょ！？　あああ、もう！　私のバカっ！