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僕に少し時間をくれない?

 シルバの足音が聞こえなくなったことを確認して、私はその場に残ったみんなを見回した。

「えーっと、うちの面倒な男達の世話で遅くなってしまいましたが、助けてくれてほんっとうにありがとうございました!」

 勢いよく頭を下げると、誰かの手が肩に乗った。顔を上げるとそこにいたのはミーシャだった。

「まあ、協力したのは女神様に頼まれたからだけどね」

「はいはい、別に私のためじゃなくてもいいですよ」

「エマは先輩に対する礼儀もわきまえないじゃじゃ馬だけど、僕にとっては唯一、異性で友達と言える存在だからね。大事にしないと」

 そんなことを真顔で言ってくるんだから反応に困る。

「……ありがとう。もう友達なら気を使わなくて大丈夫そうね」

「今までだって十分気遣いなかったよね!?」

 私はテムルに目を向けた。

「私のこと嫌いなのによく来てくれたね」

 私の言葉にテムルはグイっと顔を寄せてきた。悪人顔で私を見降ろす。

「もちろんリアナさんに頼まれたからに決まってるよね? 別にあんたが国外追放になろうと僕はどうだっていいけど、それでリアナさんが悲しむのなら話は別だ。大体あんたが自分一人で何とか対処できれば……」

「テムル、待て」

「はい!」

 リアナの一声にテムルはいい返事をして下がっていった。反対に近づいてきたのはジキウスだった。

「エマ……その、今回の件はすまなかった」

 珍しくバツが悪そうな様子で言った。

「ジキウス様が私の肩を持つなんて意外でした」

「エマとは色々あったが、国外追放なんかで割り切れるほど簡単な関係じゃない。前に助言も貰ったしな。そのおかげでリアナと前よりもいい関係になれた……それは感謝してる」

 ジキウスは考えるように口元に手を当てた。

「今回の件はどうもおかしい。俺は許嫁解消の理由をエマ以外には言っていない。それにエマがリアナに対する嘘の噂を流した騒ぎも、口止めされて学園外には情報が漏れていないはず。だから父上が突然エマを国外追放にすると言い出したことに疑問を持ったんだ」

 そうだったんだ……てっきり、ジキウスが国王に私とエマのことを話したんだと思っていた。それなら、一体誰が?

 お祝いムードだったみんなの表情が曇る。私はパンと手を叩いた。

「まあ詳細は今度調べるとして、今日はみんなのおかげで国外追放を免れたんだからそれで大成功じゃん! 改めて、今日は本当にありがとう。みんなも疲れただろうし、帰ろっか」

 私の言葉にその場の空気が少し明るさを取り戻した。私のために頑張ってくれたんだ、今日はいい気持ちで帰ってほしい。

 出口に向かうミーシャたちの背中を見ながら、私とリアナは後ろに続いた。リアナが口を開く。

「昨日エマが学校に来なくて、ルイスと『変だね』って言ってたところにジキウスが来たんだ。エマが国外追放になるかもしれないって教えてくれて、それから人を集めて頑張ったんだよ。一番頑張ったのはルイスなんだ。私が弱気になってる時もルイスは励ましてくれたし、率先してみんなを引っ張ってくれた」

「そうだったんだ……」

 ルイスとはまだ話せていない。ちゃんとお礼を言わないと。そう思って前を歩く背中を探すけど、ルイスの姿は無かった。

「あれ、ルイスは?」

「いないね。ちょっとテムルに聞いてくる」

 そう言ってリアナは前を歩いて行った。

 その時、後ろから手を引かれた。振り向くとそこに立っていたのはルイスだった。

「あ、ルイ……」

「来て」

 そのままルイスに手を引かれて私達は柱の陰に隠れた。一体どうしたんだろう。

「エマ、僕に少し時間をくれない?」

 そう言うルイスの表情からは感情が読めない。

「うん、いいけど……」

 私の返事を聞くと、ルイスは懐から杖を取り出した。そして地面に向かって杖を振り下ろす。

「トランシス」

「それって……」

 私達の周りは白い光に包まれた。何だか温かい。数秒ほどで光が消えると、私達はどこまでも広がる草原の中に立っていた。青空の下、所々に白い花が咲いている。

「わぁ……」

 私は近くの花に駆け寄ってしゃがみ込んだ。

「綺麗だね」

 すると、後ろからルイスが抱きついてきた。

「ル、ルイス!?」

「エマにもう会えないんじゃないかと思うとずっと苦しかった……! もうどこにもいかないで……!」

 そう言うルイスの声は震えていて、どうしようもなく愛しく思えた。

「エマのことが好きだ」

 耳元でルイスの声が響く。その言葉で体の熱が上がった。

 ルイスはそっと体を離した。後ろを振り向いて、やっと目が合う。ルイスはいつもの穏やかな笑顔を見せた。

「返事は今じゃなくていいよ。むしろ、たくさん僕のことを考えて決めてほしい」

 そう言うと私の手を取った。そして手の甲にそっと口づける。

「ふぇっ!?」

「好きになってもらえるようにアピールしていくつもりだけど、いいよね?」

 そう言ってルイスはいつもと違う大人っぽい笑みを浮かべた。ルイスの言葉も仕草も全てが私をドキドキさせて、上手く言葉が出てこない。

「えっと……その、ルイス……」

「赤くなっちゃって可愛い。本当はずっとここでエマを独り占めしていたいけど、そろそろみんなのところに戻らないとね」

「え、あ……」

 ルイスが再び杖を振り下ろすと、景色は城の中に戻っていた。こっちを振り向いたリアナと目が合う。

「ルイス、後ろにいたんだ。あれ、エマなんか顔が赤いよ? 熱ある?」

 そう言って心配そうに近づいてくる。

「いや……その……」

 困ってルイスの方に視線を向けると、口元に人差し指を当てていたずらっぽく微笑んだ。

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