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世話係の本音

 私は椅子に腰かけ、アリスの入れてくれた紅茶を一口飲んだ。覚悟を決めて本当のことを言わないと。私は隣に立つ彼女の目を見据えた。

「アリス、実はさっきお父様が言っていたことは全部事実なの」

「知っていますよ」

「嘘!?」

 アリスは不敵に微笑んだ。

「お嬢様の行動は手に取るように分かりますよ。伊達に十年以上、お嬢様のお世話係を務めていませんからね」

 それはそれでちょっと怖いくらいだけど……

 でも、私がリアナに嫌がらせをしていたという事実を知っていたのなら、どうして庇ってくれたんだろう。

「失礼ながら、私はジキウス様のことがずっと苦手でした! お嬢様が優しいのをいいことにいつも高圧的な言動ばかりして! お嬢様はそれでもジキウス様のことをお慕いしていた様子だったので今まで言えませんでしたが、もっとふさわしい方がいるはずだと思っていました!」

 突然興奮し始めたアリスに私は若干押され気味だった。そんな風に思ってたのね……

「私はコーネル家のご令息がお嬢様にピッタリだと思います! 整った顔立ちで成績優秀、おまけに性格も温厚だと聞きます! お嬢様が大事にされているあのネックレスもその方からいただいたのではないですか?」

「そ、それは……」

 図星で言葉に詰まった。なかなかに鋭い。

 アリスは申し訳なさそうな顔で目を伏せた。

「ジキウス様からの態度が冷たくなって気を落としていたことも、誰かを恨んで嫌がらせ行為をしていたことも気づいていました。そんな風に変わっていくお嬢様に、私は何もすることが出来ませんでした。その代わりというのもおかしいですが、コーネル家のご令息との関係は応援していましたし、旦那様の耳に入らないようにうまく立ち回っていたつもりでした。しかし、私のそう言った行動が裏目に出てしまったのかもしれません……」

「アリスは何も悪くない。嫌がらせをしていたのは事実だし、ルイスと仲良くしてたのも事実。まあ、ルイスとのことについては父親だからってとやかく言われる筋合いないけど」

 それにしても、シルバになんて説明しよう。

「嫌がらせはしてないって嘘をついても、学園の生徒に話を聞けばすぐにバレるからな……」

 後々、国王に嘘をついたなんてバレたら国外追放は免れないだろう。それなら……

「国王に直談判するのは? 確かに一度は悪に身を落としてしまいましたが、今では改心しています。どうか考え直してくださいって。直接話したら解決の糸口が見つかるかもしれないし」

 アリスは頷いた。

「その可能性に賭けるしかなさそうですね。旦那様は今回の件で国王様に呼ばれていると思いますので、お嬢様も同行させてもらえるように頼んでみましょう」


 約束の三時間後、私達はまたあの部屋に戻ってきた。

「さて、答えを聞こうか」

 目の前に座るシルバは鋭い目つきで私を見た。

「はい。私は確かに嫌がらせをしてしまいました。しかしその後は反省し、被害者の子は私の謝罪を受け入れて今ではかけがえのない友人になりました。ですから、そのことを国王に私から直接説明させてください。そうすれば……」

「話は分かった。だが、お前が国王に会う必要はない。説明には私一人で行く」

「ですが……!」

「勘違いするな。国王が求めているのはお前が嫌がらせをしたのか否かという事だけだ。それ以上の説明は見苦しい悪あがきにしかならん」

 シルバの冷たい瞳には私の言葉なんて一つも届いていないみたいだった。

「お前の答えを受けて、我々一族の国外追放は決定したようなものだ。お前にはこれから責任を果たしてもらう……入れ」

 シルバの言葉に部屋の扉が開く。振り向くと、入ってきたのは執事服に身を包んだ若い男だった。

「ノア、自己紹介を」

 シルバに促されて、ノアと呼ばれる男は私達の前にやってきた。

「初めてお目にかかります、エマお嬢様。|私≪わたくし≫、ノア・クラムと申します。今日からお嬢様の教育係を務めさせていただきます」

 そう言って恭しく頭を下げた。

「教育係……?」

「お前の返事を聞く前から、国外追放になる可能性が高いと考えて声をかけておいたんだ。お前はノアから一族再興のために役立つ知識を学べ。それが今お前に出来る唯一のことだ」

「でも! まだ国外追放になるって決まったわけじゃないですよね!?」

 私の言葉にシルバの目つきがさらに鋭くなる。

「いつから口答えできる立場になったんだ? すべてはお前の行動が招いた結果なんだぞ」

 そう言って立ち上がった。

「私は国王に会いに行ってくる。あとはノアの指示に従え」

 そして扉に向かう。私も後を追った。

「私も一緒に行かせてください!」

「捕まえておけ」

 ノアは私とシルバの間に立ちふさがった。

「お嬢様、私達は他にやるべきことがございます」

「ちょっと! 通してよ!」

 その間にシルバの背中は遠くなっていく。

「ほんとに邪魔!」

 私はノアの腕を押しのけた。するとノアは私の手首を掴んで後ろへ引き上げた。

「うわぁ!?」

 私はいつの間にか床に倒されていた。体はどこも痛まないから手加減されていたんだろう。

「お嬢様!」

 アリスが悲鳴のような声をあげて私に駆け寄る。

「お嬢様に手荒な真似をしてしまいました。申し訳ありません」

 そう言ってノアはシルバに頭を下げた。

「いや、それでいい。エマを頼んだ……それとアリス、お前は今後一切エマとの接近を禁じる。他の使用人と同じように働け。お前はエマの教育にとって邪魔だ」

「そんな……」

 思わず声が漏れる。この家で唯一心を許せるアリスも奪われて、一人ぼっちになってしまった。

「いい子にしてるんだぞ、エマ」

 そう言い残してシルバは部屋を後にした。

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