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突然の呼び出し

 ルイスとの模擬デートが終わって、その翌日は一日家でぼんやりと過ごしていた。今頃ルイスとリアナは二人で会ってるんだろうなとか、お洒落なレストランで楽しく話してるのかなとか、色々考えていたら何も手につかなかった。明日学校で二人の話を聞いたらこのモヤモヤも晴れるはず、そう思って眠りについた。


 翌朝、いつもより早く目が覚めた私は部屋で身支度を済ませた。そして、小物入れを開く。その中には桜色のネックレスと水色のリボンが入っていた。

 リアナへのプレゼントも今日一緒に持っていこう。そう思って、私は手を伸ばした……

「失礼いたします、お嬢様!」

 勢いよく部屋に入ってきたのはメイドのアリスだった。

「どうしたの、そんなに慌てて」

 アリスは申し訳なさそうに頭を下げた。

「お嬢様……旦那様がお呼びです」


 アリスに連れてこられた部屋には本棚と彫刻の施された木の机があり、書斎のような作りだった。机の奥には身ぎれいな男が厳しい表情をして座っていた。私達と目が合う。

「エマ、久しぶりだな」

 平坦な声でそう言った。エマの父親、シルバ・リーステンとはこれが初対面だった。

 どのくらいぶりの対面なのかは知らないけど、ひとまず話を合わせておこう。

「お久しぶりです、お父様……」

「ここへ呼んだのは、ジキウス第一王子がお前との許嫁を解消した件についてだ。もっと早くお前の口から詳細を聞くべきだったが、仕事が立て込んでいてな」

 許嫁という言葉でドクンと心臓が跳ねた。そうだ、あのゲーム内で悪役令嬢のエマはジキウスから許嫁を解消された後、一体どうなったんだろう。途中でジキウス編のシナリオを辞めてしまったからその先の話は知らない。

「解消理由について王子は今まで口を閉ざしていたが、どうやらお前が一人の生徒に嫌がらせをしていたことに嫌気が差したからだという情報が入った。そのことについて国王から説明を求められている。性悪な娘が育つのは一族も性悪であるからだというお考えだ。お前の返事によっては一族揃って国外追放の可能性も十分にある」

 国外追放……悪役令嬢にはやっぱりそういう結末が用意されているんだ。今まで能天気に過ごしてきた自分が馬鹿みたい。やっと悪役令嬢という自分の置かれた状況を理解して、血の気が引くのを感じた。

 シルバは威圧するように私をじっと見る。

「一度しか聞かない。お前が嫌がらせをしていたというのは事実か?」

 このままじゃ最悪のシナリオになってしまう。何か言わないといけないのに震えて上手く声が出ない。

「沈黙は肯定とみなすが、いいな?」

「旦那様!」

 その時、アリスが声をあげた。

「僭越ながら、お嬢様は昨晩遅くまで勉学に励まれていてお疲れでいらっしゃいます。体を休ませるお時間をいただけましたら、お嬢様は明瞭な説明をされると存じます」

 シルバはじろりとアリスに視線を向けた。

「アリス、いくら長く働いているからと言っても口の利き方には気を付けたほうがいいと思うぞ。お前の代わりなんて、いくらでもいるんだからな」

「……承知しております」

 そう言ってアリスは頭を下げた。

「まあ、いい。私はこれから予定があるから三時間後にまたここへ連れてこい。その時に質問に答えられないようなら、出過ぎた真似をした責任は取ってもらうぞ。話は以上だ」

 そしてシルバは机の上の書類に目を落とした。

「失礼いたします」

 そう言ってアリスは再び頭を下げた。そして、二人のやり取りを茫然と眺めていた私の背中に優しく触れる。

「お部屋に戻りましょう、お嬢様」

「ええ……」

 鉛のように重たくなった足を何とか動かして扉へ向かう。この部屋の空間全てがシルバの威圧感で満たされているみたいで息苦しかった。

「そうだ、エマ」 

 もう少しで出られるというところで後ろから声が掛かった。怖くて後ろを振り向けない。

「コーネル家の息子と親しくしているという話も耳に入っている。お前が第一王子との関係を解消されたせいで、うちは大損害だ。好きなように生きられるなんて思わないことだな」

 動けない私の代わりにアリスが頭を下げた。そして私達は部屋を後にした。


 自分の部屋に戻った私は、緊張の糸が切れてベッドに倒れこんだ。

「お嬢様!?」

 慌てた様子でアリスが駆け寄る。

「アリス、ありがとね……アリスがいてくれなかったら、ちょっとダメだったかも……」

 アリスが嘘をついてまで私をあの場から連れ出してくれたから、自分の運命を選択する余地がまだ残されている。

 ベッドの側に跪いたアリスは、私の手を優しく握った。

「私はいつでもエマお嬢様の幸せを願っていますから」

 そう言って微笑む。その言葉に目元が熱くなるのを感じた。

 アリスは立ち上がった。

「今、温かい紅茶を入れますね。それを飲んで落ち着いたら、これからの話をしましょう」

 その背中が遠ざかっていくのを見送って、私は目元をぬぐった。

 泣くのはこれで終わりだ。好きに生きるために、強く生きていかないと。

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