入学
初めまして。
これから更新はゆっくりかと思いますけど読んでもらえたら嬉しいです。もし、気に入ってくれたら感想とかもお願いします。
王都シルヴィアントにある王立校シルヴィル。そこは平民から貴族まであらゆる身分の者が騎士になるための育成を行う学舎である。
「ここが、シルヴィルかあ。遠くから見てたけどやっぱりデカいなぁ。」
黒髪の青年が門を潜った後に立ち止まり校舎見上げる。その大きさは王城の次に広く大きい為在学中に全て見るのは中々骨が折れそうだった。
「(今日からここで騎士になるために鍛えるんだ!)」
すると背中から軽い衝撃が来た。立ち止まっていたのでどうやら誰かがぶつかってしまったみたい。反射的に振り返り今にも倒れそうになっている少女がいたので思わず手を握り倒れないよう起こした。
「ごめん!大丈夫だった?」
「い、いえ・・・私こそ前を見ずにすみません!」
完全に立ち止まっていた自分に非があるのに目の前の少女が謝ってきて何度も頭を下げていた。
黒髪のショートであるが目が隠れる位伸ばしており見えなかったが頭を下げる瞬間翡翠色の瞳が見えた気がした。
「いやいや!俺こそ立ち止まってたからごめん。」
よくよく見ると彼女の胸元には赤い花が添えられていた。その花を付いているのは今年の新入生である証であり青年の胸にも同様の花が付いてる。
「あれ?その花・・・君も新入生?」
「は、はい!貴方もそ、そうなんですね。あ、あの!もし良かったら、名前を・・・」
次の瞬間、周りの生徒達から声が上がる。その方向を見ると腰まで伸ばした金髪で洗礼されたプロポーションで少し強気な目の翡翠色した瞳が印象的な少女が歩いてきた。彼女の美しさや気品さにこの場にいる生徒が殆ど目を奪われていた。
「彼女があのレイウォール家の令嬢か。」
「美しい。」
「なんて素敵なのでしょう。」
その様な感想が続く中で少女も目を奪われていた1人であった。しかし、途中で我に返り先程まで話していた相手に声をかける。
「す、凄いですね!あんなに堂々として・・・て?」
振り返るとそこには先程までいた青年は居なくなっていた。暫く周辺を見渡してみたが彼は居なくなっており少女はそのまま校舎まで歩いて行った。
「そう言えば聞いてます?今年、名無しが我が学園に入学するって噂。」
「ええ。聞いた事ありますわ。」
「もし本当に名無しが入学してるとしたら学園は何を考えてるんだ?伝統と規律のあるこの学園に態々泥を塗る様な事をして。」
「ただでさえ我々貴族と一般市民が同じ机で勉学をしてるってのにも問題があると思ってるのに。」
名無しと言うワードが耳に入ると少女は少し緊張した様子になった。
入学式となり特に問題もなく進んでいき学園長の挨拶となった。
前にたったのは女性であるが皆憧れの目をしていた。それもその筈、彼女はこの国における守護者的存在『ロイヤルナイツ』の1人だからだ。この国には騎士、騎士たちを統率する聖騎士、そして、王族や絶対的な守り手であり剣であるロイヤルナイツの3つに分類される。そした、未来の守護者となりえる学生達を外敵から守る意味として配属されてるのが彼女、『ライラネック・セリアン』である。
「君達は未来の騎士、聖騎士、あるいはロイヤルナイツに抜擢されるかもしれない者達だ。君達には騎士とは何かをここで学んでもらいたいと思ってる。ここでは如何なる階級はないと考えて欲しい。貴族、平民、皆平等なのだ。中にはこれに異議を持つ者もいるかも知れない。もしその考えを変えられないと思うなら直ちにこの場を去るか自分の目で確かめて欲しい。平民出身の者達も自分の力を評価されて入学してきた事を誇りにしてどうか自分の道をまっすぐに進んで欲しい。簡単ではあるがこれで私の挨拶を終えたいと思う。」
その後、生徒は振り分けられた各教室に集まった。シルヴィルでは成績順で編成されるクラスが決まっておりA〜Eと5つのクラスになっている。入学時では入試の成績となっているがこれからは年末におかれる最終試験によって来年度のクラスが決まってくる。よって、Aクラスの者が下のクラスにされる事もありえるのだ。
全員が学友で全員がライバル。上位クラスで卒業又は優秀な成績を残した生徒は将来騎士として約束された様な者であり全生徒がやる気になっていた。
その様な中でAクラスになった者達の担任であるライラ・ミラネスはかなり緊張していた。彼女は新米教師であるが能力が高く今年のAクラスの担任に抜擢されたのであった。栗毛のセミロングで眼鏡をかけており年齢は二十代半ば位だがかなり童顔で今年の新入生とほぼ同じ歳と言われたら納得してしまうレベルであった。
「皆さん!これから皆さんの担当となったライラ・ミラネスです。どうぞよろしくお願いしますね。先ずは皆さんの事を知りたいと思うので1人1人自己紹介をお願いします。」
そして、1人1人の自己紹介が始まった。貴族出身の者から平民出身の者達、学園長が話していたそう言った垣根は此処では無いのであると実感する感じではある。しかし、中ではそう言ったのを好んでない者もいる。
「俺の事は知ってると思うがシルヴィアント騎士団第一部隊隊長、ガレス・ノートの嫡男サウル・ノートだ。俺は頂点に立つ者だ。平民達は部をわきまえて欲しい。俺と話せる者は限りある人物だけてあると。」
そう言い何人かの平民出身の者を睨む様に見渡す。その者達は気が少し弱いのか目を逸らし怯える様にしていた。
「(ガレスさんが言ってた息子か・・・確かにちょっと気が強いって言うか何というか・・・)」
そんな彼を見て納得してると次に立ったのはレイウォールの令嬢であった。
「ミィナ・レイウォールよ。よろしく。」
それだけ言って直ぐに着席してしまった。しかし、それだけでも周囲の人達は「可憐」だの「素敵」だのとヒソヒソしていた。
「あ、あの・・・レティシア・メーブル・・です。15歳の平民出身です。よ、よろしくお願いします。」
今朝出会った少女が自己紹介もして同じクラスだったのかと少し驚きはしたが最後は自分の番となり立ち上がる。そして、臆する事なく自分のことを告げた。
「俺は名前の無い『名無し』だ。年は皆んなより高い20だ。元々は平民出身だがよろしく。」
名無しと聞いた瞬間生徒全員に衝撃が走った。一気にざわつき何人かは明らかに不機嫌な顔をしてこちらを睨んで来た。
「おい!何故名無しが此処にいる!!馬鹿にしてるのか!」
「いや、俺はみんなと同じ様に試験を受けてその結果此処にいるんだが。」
「ふざけるな!そもそも、名無しの分際で試験だとぉ!おい教師!どう言うことだ!!!」
1番突っかかっていたサウルは担任であるライラに怒鳴り付けた。それだけ、名無しと言うのは特別なのだから。
『名無し』又は『ノーネーム』この烙印を押された者は自分の名を呼ぶ事が出来ない。魂に呪印魔法によって刻まれ名を呼べば魔法が発動し魂を苦しめるのだ。そもそも、この呪印を付けられるのは大罪人が殆どでその処置をされた者は人権は無いものと同義である。しかし、ごく稀に例外で名無しとなる者も存在している。
「彼の言った通り正規の手続きを行なって真っ当な試験を受けました。そして、その成績でこのクラスに編成されたのです。これは学園長であるライラネック様も認めてられます。」
学園長の名前を出されてしまいこれ以上言う事が出来なくなったサウルは名無しを睨み付けて着席した。他の生徒も納得した感じでは無いがロイヤルナイツが認めてる時点でこの場では何も言えなくなっていた。
「(まあ、こう反応するよな。)・・・取り敢えず、よろしく。」
これ以上話すと余計にややこしくなると思い名無しは挨拶を切りやめて席に座った。
本日は入学式とホームルームだけで終了し名無しはこれから住む寮へと来ていた。荷物は少ないが既に部屋に届けられており割り振られた部屋の前までやって来てそのまま入った。
「おっ!来たか。」
そこには1人の男子生徒がいた。髪は茶色に近い赤髪で髪質が硬そうであった。その顔は見覚えがあり同じクラスの平民出身の生徒だったはず。
「改めて自己紹介だ。俺の名はフリット・アノウ。よろしくな。」
「よろしく。俺の事は名無しでもノーネームでも好きに呼んでくれ。」
フリットから差し出された手を握り握手をしながら再度自己紹介を行なった。そして、名無しら思った事を口にした。
「と言うか、フリットは良いのか?名無しと仲良くなろうするなんて物好きと思ってしまったんだが・・・」
「ああ・・・その事か。先生も言ってたがあんたはきちんと俺達と同じ試験・・・いや、俺達より厳しい試験を受けて合格したんだ。それをライラネック様も認めてるのなら俺としては名無しだろうが尊敬に値するさ。」
その言葉からは嘘偽りなく本心であると彼の目を見れば一目瞭然でありその言葉が嬉しくなった名無しは笑みが浮かんでしまい少し握る手に力が入ってしまった。少し痛そうな顔をしたフリットを見て名無しは咄嗟に手を離して謝罪した。
「すまない。少し嬉しくて力が入ってしまった。」
「気にするな・・・いや、気にしないでくださいか?一応、歳上だし。」
「いや、敬語じゃなくていいぞ。その方が嬉しい。」
「じゃあ、よろしくな!名無し!」
そして、名無しはこの日から生涯までに渡り信頼し合える友人と出会いその1日目が始まったのであった。