体育祭の出し物が尻文字だった
第4回下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞応募作品です。テーマは「体育祭」。
なんだこれは。
秋晴れの十月。
息子の小学校の体育祭、6年生の今年の演技は「創作体操:少年少女の主張」の筈だ。
してその実体は。
6年の生徒全員が笛の音に併せピタリと揃った動きで尻文字を描いている。
先月。
息子の機嫌が酷く悪かった。妻が俺に耳打ちする。
「ダンスが中止だって」
体育祭の花形は6年生のダンス。流行の曲を使い衣装や振付も凝っていて息子は楽しみにしていた。
が、PTA会長から横槍が入った。
親が衣装を作るのは負担。残酷なアニメの主題歌は相応しくない。そもそも曲の使用許可は? 等々、攻撃的に抗議され学校はそれを呑んでしまったのだ。
翌週。
子供達が自分で考えた体操をする事になったと顔を腫らした息子が報告してきた。
「俺と幹貴と、あと4人が代表になって決めた!」
幹貴とは確かPTA会長の子だ。あのババアの子ではつまんねぇ体操だろうなと思ったが息子が楽しそうなので良しとした。
当日。
朝礼台の上の息子は首に笛をかけマイクを持っている。
俺はスマホを構えた。
「僕達は、先生や大人の力を借りずに自分達だけで考え、練習し、この日を迎えました。僕達の成果を見て下さい!」
息子を誇らしく思うも、視界の端に捉えたPTA会長の満足気な顔に虫酸が走る。
「それでは始めます。め!」
息子は笛を口にし、背中を向け両手を水平に広げた。
6年生全員も同じポーズを取る。
ピッ
次の瞬間。父兄からざわめきが起きた。
ピー、ピ~~イイッ
子供達が尻を突き出しクネクネと文字を書き始めたのだ。
先生の方を見ると少し不思議そうにしていた。PTA会長は慌てている。
息子から次の子に交代しても尻文字は続く。
「し」
「が」
「ま」
PTA会長が何か叫んだ。が、尻文字は止まらない。
「ず」
最後に朝礼台に立った男子が幹貴君か。
「い」
ピー、ピーイッ
彼は最後にマイクを手にした。
「“めしがまずい” これが僕の主張です。親はダンスへの文句より、美味しいご飯を作る方が先だと思います」
PTA会長は泡を吹いて倒れた。彼の「でも僕は親が好きです」という言葉が彼女に聞こえなかったのは残念だ。
その後。
幹貴君は母親と大喧嘩し家出した。今は息子とうちで遊んでいる。
先生は尻文字は知っていたが違う文字を書くと子供達に騙されていた。幹貴君の母親への反逆に6年生全員が協力したのだ。
インターフォンが鳴る。訪問者は憔悴した様子のPTA会長夫婦だ。
俺はドアを開けた。
幹貴君の気持ちを理解してくれと願いながら。
お読み頂き、ありがとうございました!
↓のランキングタグスペース(広告の更に下)に「5分前後でサクッと読めるやつシリーズ」のリンクバナーを置いています。もしよろしければそちらもよろしくお願い致します。