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世界を脅かす毒になりました  作者: 悪戯小鬼
7/8

ご飯、食べてるかな?

まるで枯れ枝のような手足の痩せた女性、マヤが顔を赤くしながら中身が詰まっている少し汚れた布袋を重そうに抱えて部屋から出てきた。

すぐ近くには似たような布袋が積まれた代車が置かれており、彼女はふらつきながら代車に近寄っていった。

布袋から衣類が見えている為、今回は汚れた衣類の回収を行っているようだ。

正直なところ彼女は肉体労働と相性が良いとは言い難い。

しかし祝福と相性の悪い彼女には入れる場所が限られてしまっており、必然と仕事の幅も狭まっている。


「マヤちゃん!」


「うひぇ!?」


マヤはうんうんと唸りながら代車の側まで来て勢いを付けて布袋を持ち上げようとした。

しかし声をかけられたと同時に背後からマヤ自身が抱き上げられて思わず悲鳴をあげてしまった。

抱き上げられた拍子に布袋を落としてしまい中身が少しだけ飛び出してしまった。


マヤを抱き上げた者は落ちた布袋の存在も気にせずに嬉しそうにマヤを抱き上げたままその場をとても早くクルクルと回った。

あまりの速さに残像すら見える程だ。


その速さに目を瞑ればまるで小さな子供を楽しませようするような行動だが相手は痩せ細っているとはいえ成人を迎えた大人の女性。

それを重さを感じさせない勢いで抱えて回るのは側から見て異様だった。

そして、これは神の祝福を得た者だと説明されれば皆が納得してしまう範囲から外れてはいない。

さらに言えば討伐者で有れば誰でも可能だ。


「お、おろ、おろし、して!

サナさん!」


「あはは!

久しぶりだねマヤちゃん!

元気かな?

ご飯ちゃんと食べてる?

臭うけど水浴びしてる?………」


マヤは恥ずかしさや気持ち悪さで人様には見せられない顔色のまま叫ぶが抱えた軽装の女性、サナは嬉しさを隠そうともせずまさに子離れができない親を過剰に演じているのではないかと怪しまれそうな程、大興奮であった。

マヤが答える前に次々に質問を繰り返すせいで会話が成立していない。

せめて対面で有ればマヤの変化にも気付けただろうが久々に愛しい者に会えた喜びで冷静さを失ったサナには無理だった。


それからマヤが解放されたのは気絶してからだった。

サナが遠心力で付けた勢いのまま空中に投げて対面になるように抱き締めてようやく気付いたのだ。

アグレッシブ過ぎるスキンシップだった。

例え相手が幼く度胸があったとしても泣きかけない。

それよりも命に関わる危険な行為だった。


しかし不思議な事にサナは十数年経った今でも若々しく老けた様子がなかった。

迷宮でマヤを保護した時から変わらず若さを保っていて、見た目はマヤより少し年上にしか見えない。


マヤは目覚めたらサナに背負われていた。

どうやらマヤが気絶していた間にサナが布袋を積んだ代車を目的地まで運んで連れ出したようだ。

既に教会の敷地から出て街中を歩いていた。


「サ、サナ……」


「ママ」


マヤは話しかけようとしたがマヤは呼び方が気に入らなかったのか即座に訂正をいれてきた。

羞恥心か効率か。

マヤは葛藤した様子で数秒黙って再び口を開いた。


「……マ、ママ。

わ、私はまだ、し、仕事中、だから」


「アーチさんから聞いたわ。

また休まずに働いてるって。

だから一緒に出かけましょ?

もちろん、ちゃんと許可も得たわよ?

まずは水浴びに行って、それから理髪店にも行かなきゃ。

お揃いの服も買いたいわ。

そうそう…東区で新しいお店が開店してたわ!

聞けば海を越えた大陸の料理が出るそうよ。

夕飯はそこに行きましょ!」


会話を進める為に恥ずかしそうにママと呼び、教会に戻る為に使った『仕事中だから』という切り札を早々に破られ次々に行き先を決められてしまった。


「せ、せめて、降ろして。

あ、歩ける、から」


「働いて疲れたでしょ?

こんな時ぐらいママに甘えて欲しいわ」


これが幼子なら分かる対応である。

しかし、相手は成人の女性である。

既に周囲から好奇の目で見られている。

そんな周囲からの視線も気にせずにスキップでもするかのように軽やかに歩くサナ。

そんなサナから降りようともがくもガッチリと足を掴まれて離れられないマヤ。

あまりの恥ずかしさにマヤは顔を長い髪で隠すようにしていた。

それによって若い女性が痩せ細った亡霊に取り憑かれているようにも見えてしまい余計、視線を集めてしまっているのだからタチが悪い。


二人はそのままの状態で公衆浴場に向かった。

ここは迷宮都市の各地に設置された物と一つで神の祝福によって飲用にも用いられるほど清潔で綺麗な水がこんこんと湧き出る源泉から引かれており、迷宮で汚れる討伐者はもちろん、都民にも愛用している者は多い。


特に迷宮都市の外から来た者からは街中においてタダで水浴びができる、浴びれば運気が上がると評判だ。


「いやぁあああ!!

は、はな、離っしぃあああ!!」


「………まだ臭う、かな?

またかけるよ!」


「いやぁあああ!!」


サナは水浴び中もマヤを甲斐甲斐しく世話していたが側から見たら濡れる事を嫌う獣を洗うような攻防があった。

どうやらマヤは水浴びが苦手らしい。

人目も憚らずに暴れる様子はよっぽどだ。

それを強引に抑えつけて洗うサナも目立っていたが。


サナがマヤを逃がさないように足を掴んでいたのはこの為だったようだ。


その後、理髪店や服屋までは良かったが流石にマヤに食べる元気までは残っていなかったようでサナによって部屋まで運ばれた。


光源は見当たらないが不思議と部屋の中は明るく膨大な量のぬいぐるみが二人を出迎えた。

棚の上には今日買ったであろう新しい服が綺麗に畳まれて置かれていた。


ベッドの上にはマヤが綺麗におくるみにされていた。

どこからか持ってきたのかこれまた大量の毛布で顔以外をグルグルに巻かれて身動きができない状態にされていた。

一人では抜け出せないだろう。

白目をむいて気絶してしまっているマヤの意志が反映されていない事だけは確かだ。


「ケチルの実はここに置いていくわよ?

ちゃんとこれ以外にも食べてよね?

それと……今回はこれ!」


棚の上には以前マヤが噛まずに飲み込んだ小さな果実が入った袋と同じ物を棚の上に置いてさらに虚空から小さな子が喜びそうなぬいぐるみを取り出しマヤの顔の側にそっと置いた。

ぬいぐるみの送り主はサナだったようだ。


そっと頬にキスをするとサナは静かに部屋から出て行った。

マヤが明日、一人で起きれるか不安だ。

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