8話 「特技コピー」
帰宅してログインすると、既に見慣れた初期村に視界に飛び込んでくる。
相変わらず、村の規模に合わないプレイヤーの多さで、日増しにどんどん増えて行っている。
「よし、まずはスライムの特殊な体当たりがコピー出来るかどうかというところから試していこうかな~!」
亜実と話した中で、コピー能力として確かめておきたいなと思った項目は以下の通り。
・特技を受けたら、すぐにコピー出来るのか(コピー成功率などが存在するか)
・特技をコピー出来たら、今後ずっと使っていけるのか
・特技によるダメージはある程度固定されるのか、はたまたステータス依存を受けるのか
・MP消費やモーション時間など、実用性はあるのか
と、気になる点はかなりの数が出てきた。
ひとまずフィールドを跳ねまわっているスライムに戦闘を仕掛ける。
ここから盗みを繰り返しながら、攻撃はせずにそのまま棒立ちしておく。
あとは、スライムが行う独特な体当たりを繰り返すので、それを受け止めてコピー出来るまで待つのみ。
このレベルになると、スライムからダメージを受けることはほぼないので、安心して待ち続けることが出来る。
「早く特技来いっ……!」
通常攻撃の割合が多めなのは、これまでの戦闘では散々知っているので、少し待つ必要はありそうである。
「あの子……。どうしたのかな?」
「botか何か?」
棒立ちして動かないプレイヤーにひたすらスライムが攻撃している光景は、近くを通り抜けるプレイヤーにとっては、異質に見えているの間違いない。
少し待つと、大きく跳ね上がってこちらに体当たりを仕掛けてきた。
「よしっ!」
それを1ダメージで受け止めて、ログを確認した。
しかし、スライムの攻撃ログが延々と表示されるのみで、コピーが出来たというようなログは表示されていない。
「うーん。失敗か」
すぐにコピーは出来ず、成功確率のようなものが存在するようだ。
また特技を使うまで、ひたすら棒立ちで待ち続ける時間が続く。
そして、二回目の特技を受け止めた時だった。
―特技をコピーしました。
バウンス・ストライク……大きくジャンプをしてそのまま体当たりをする。通常攻撃の1.5倍のダメージを与える。攻撃対象よりSTR値が10上回っていれば、ノックバック効果を追加する。
「遂に来たっ!」
ログを確認すると上記のように表示され、特技を習得することに成功したことを確認できる。
早速、その特技を発動させてみることにした。
「【バウンス・ストライク】!」
ジャンプで大きく跳ね上がって、そのままスライムに体当たりをした。
勢いよくスライムが吹き飛んで、そのままダウンした。
「うーん。すごい感覚だ!」
スーパーマンになったような気分で爽快感がある。
ただ、ああやって吹き飛ばせるのはスライムなどの最弱モンスターぐらいの物だろうから、ノックバックは期待できなさそう。
MPなども確認したが、特に消費された形跡は無し。
「普通に1.5倍のダメージでMP消費も無いなら、結構いいかも!」
問題は戦闘終了後にも、普通に使用特技の一覧の中に登録されていて、今後も使えるようになっているかどうかなのだが……。
「普通にある! これからずっと使えるってことか!」
今まで獲得した短剣と盗賊用の特技の中に、先ほどコピーした特技がしっかりと登録されている。
「他のモンスターの特技も獲得できるかやってみようかな~!」
特技が増えたことなどによる感動もあるが、フルダイブのVRMMOで現実離れした特技を行うことが出来るのは、想像以上の爽快感。
獲得できるスキルポイントも限られていて、プレイヤーが習得できる特技はそれほど多くない。
その中で、こうして特技をモンスターから獲得して今後自分の選択肢の一つとして使える。
「これは楽しくなりそう! こういう誰も出来ないことが出来るってなると、亜実が羨ましがるだろうなぁ! 後で自慢しちゃおっと」
スライムの特技で割と実用性があったということは、他のモンスターの中にはかなりの有効性のある特技や絶大な威力があるものもあるかもしれない。
そう考えた時点で、蘭のモチベーションはうなぎ上り。
「よっし! 今度はアイテム盗みならぬ、特技盗みをしていくとしますか!」
アイテム盗みを一休みして、獲得できる特技を色々と開拓してみよう。
蘭はそんなことを思いながら、先に進んでいくことにした。