4話 「ボスなのに……」
青年の話に言われ通りに西に向かっていくと、鬱蒼とした大きな森が視界に入ってきた。
「おー、いかにも何か出てきそうって感じするね」
「でしょー! 先に進むとワクワクするでしょっ!?」
「うむ。この森で徘徊しているモンスターがどんなアイテム落として、どれくらいの値段で取引出来るのかワクワクしてきた」
「ワクワクする観点が違うと思うんけどなぁー……」
森に入ると、大きな芋虫や蜂といった昆虫系の生き物から鳥や兎、犬と狼を混ぜたようなモンスターまでいる。
このモンスターそれぞれが、通常ドロップとレアドロップが存在する。
どんなアイテムを落とすのか。はたまた需要が高くて価値が高い、あるいは今後高くなる可能性はあるのか。
一つのアイテムを入手するだけで、それだけ色んな要素で楽しみが増えていく。
その上で、高く売れればゴールドをたくさん稼ぐことが出来て、アミの支援も出来る。
「もうなんかさ、小さな子がバイキングに来たときみたいな視線でモンスター目で追うのどうなのよぉ……」
「あの犬みたいなやつの牙とか、取れそうじゃない?」
「うん、そうだね。でも、先にボス倒しておこうか」
欲しい物を見て、ねだるように「〇〇があるよ」という子供が親に引きずられて行くように、リアはアミに引きずられて道に沿って、森の奥へと進んで行く。
しばらく森の奥へと進んで行くと、道が少しだけ左右に広がって小さな広場のようになっているところが見えてきた。
「いかにも出て来ますよって感じするね」
「うん。後ろで回復してあげるから、取り敢えず持ってるスキルで攻撃してー」
「え? 攻撃スキル何一つ覚えてないんだけど」
「あれ、スキル振り分けてしてないの?」
「何に振ったらいいのか、分からーんってなったから放置してる〜」
「んー、それは正解かも。未だにどれに伸ばすのが正解なんて出てないからね〜。はっきりした方向性出るまでしなくていいかも」
「オッケー。じゃあ、武器でちまちま攻撃しようかな〜」
そんな話をしながら広場に入ると、ざわざわと森が風で木が揺れる音に包まれた。
「ウラヤマシイ………」
そんな低い声が響いたかと思うと、リアたちの目の前に大きなスライム状のモンスターが現れた。
ただ、スライムのようにしっかりとした形をしているというよりは、ドロドロとしたスライム状の物質に目と口がついている。
はっきりと言って、気持ち悪い。
「カレトケッコンデキルナンテ……ワタシモコンナニキレイナノニ……!」
「いやぁ、どこもキレイじゃない……ってえ!?」
そんなリアの反応に合わせるかのように、ゆっくりとスライム物質がうごめき、そのまま形作る。
その形作ったのは、きれいな顔をした女性。
それも武器や防具に見を包み、美しくて凛々しい。
相手の名前はアイディールマンと名付けられており、いつも通りHPバーが表示された。
「カレハヨワイ。マモッテアゲナクテハ……」
「要するに、あの気弱な青年が一番憧れそうな強くて美人な女になれるから、私にしろってことで邪魔してるってことねー」
「そういうことだねー」
ひとまずは話の流れを、理解していく。
「とりま倒しますかー」
ボスという緊張感0で、そのまま相手に向かっていく。
5分後。
「グエエェ!!」
淡々としたナイフを指したり、切りつけたりする非常に地味な攻撃を繰り返して、悲しくもボスは崩れ去っていった。
「……おかしい。ここで特技を使ってハラハラとした戦いをするはずなのにっ!」
「いやー、レベル30近いヒーラーいると楽だねー!」
「そりゃそうでしょ! 傍観してる方が良かったかな……?」
「よしよし。じゃ、盗んだアイテム……♪」
当然だが、盗むは実行済みである。
早速、リアは盗んだ布袋を開く。
「あー、ゴールドかぁ。つまんなぁ」
入っていたのは普通のモンスターよりは少し多めのゴールド。
なお、21ゴールド。
ゼリー片の10分の1以下。
「ボスなのに、貧乏だなこいつー」
「いやいや、ボスにそんなこと言う?」
「いやー、3桁くらいは持っててもいいんじゃない? ま、これからはアイテムをしっかりと奪わせてもらおうかな!」
「え? 先に進まないの?」
「こいつのレアドロップが何なのか見たら、街に行くわ」
「嘘でしょー……」
リアにとって、この初めてのボスから何が得られるのか。
そして、その得られたアイテムがどのような価値があるのか。
それが今一番興味があることであるため、それを知るまでは他ごとをする気にならない。
これから、先程倒したボスであるアイディールマンのアイテム奪取作業が始まる。