1話 「予想以上の渋さ!」
飛び込む際の眩い光に思わず目を閉じ、次に目を開けた時には、海を望む事の出来る小さな村に降り立っていた。
「む、村の規模に対してプレイヤーが多いなぁ……」
初期の小さな村や街というのはRPGあるあるだが、それに見合わぬプレイヤーの数。
亜実がこうして話を持ち出す前から、ネットニュースでも話題になっており、プレイヤー数もすごい勢いで増えているとの話を聞いているが、ここの時点で十分に実感することが出来る。
「まずはステータス見てみようかな〜」
ちょっと人の居ない村の外れの浜辺に座って、自分のシステムログを開いて、ステータスを確認する。
【リア】 【♀】 盗賊Lv1
【武器】木のナイフ 【盾】装備無し
【頭】布のターバン
【体上】布の服
【体下】布のパンツ
【腕】皮の手袋
【足】皮のブーツ
【アクセサリー1】装備無し
【アクセサリー2】装備無し
【アクセサリー3】装備無し
【スキル】盗む、初級落とし穴
【HP21/21】 【MP4/4】
【STR 7〈+4〉】
【VIT 3〈+8〉】
【AGI 10】
【DEX 13】
【INT 2】
「まぁ、大体盗賊ってなるとこんな感じなイメージはあるかな」
VITやINTは見た目とイメージで低いのはだいたい想像がつく。
「しっかし、この装備はなぁ……」
初期装備なので、こうした軽装備であることは当たり前だとは思うが、体のラインが分かりやすい服を着ると、こんなファンタジー世界に来ても、自分の体の貧相さにため息が出る。
「リアルの世界なら、コーデ次第でまだマシなのになぁ……」
取り敢えず、どうにもならない事を文句言っても仕方がないので街を出て、さっそく戦闘とアイテム盗みについて実戦してみることにした。
街から出ると、一面草原のフィールドが広がっている。
そこにはスライムらしきモンスターや、可愛らしい兎などが徘徊している。
そして、戦闘をしているプレイヤーもかなりの数がいる。
「まずは、スライムからやってみようかな……」
まずはフィールドをゆっくりと跳ね回っている一匹のスライムに標準を定めた。
右手にナイフを構えて、斬りつけると5というダメージ数を表す数字とスライムの体力バーが現れた。
「っとと、倒す前に盗まないと……」
何も持っていない左手で、スライムをまさぐる。
その間、スライムも体当たりをしてくる。
時に大きく跳ね上がって、通常よりも勢いよく体当たりをしてくることもある。
レベルも低い上に、VITも低いのでそこそこなダメージを衝撃とともに貰ってしまう。
「な、何も取れないけど……!」
結局、左手に何かしら取れそうなものの感触はなく、失敗に終わった。
どうやら、盗みは失敗することもあるらしい。
「何か取れるまで根気よく続けるしかないのね……!」
物を盗むためにスライムに触れている間、こちらは無防備。
ちまちまと攻撃を喰らいつつ、左手で何か盗めるものがないか、捜索を続ける。
「これだ!!」
何か左手に当たる感触を感じ取った瞬間、それを勢いよく引き抜くと、小さな布袋を手にした。
「やっと取れた……」
中身をすぐにでも確認したいところだが、まずは攻撃を続けるスライムにナイフの斬撃を与えて倒した。
スライムは攻撃を受けて、ゴールドを落としながら吹き飛んだ。
「い、1G……。最初に戦う相手だから、こんなものよね。それよりもさっき盗んだアイテム袋には何が入ってるかなっ!」
落としたゴールドがたった1Gであることに、少しがっかりしたが、気を取り直して先程盗んだ布袋を開いた。
「ええー!? これも1G???」
中にはたった1Gしか入っていなかった。
これには流石にリアもがっくりとした。
「盗めばアイテムってわけじゃないの〜?」
そんなことを言いながら、改めてシステムログを開いてステータスからスキル部分をタッチして、【盗む】の説明を確認した。
スキル:盗む……一定の確率でGまたはアイテムを盗むことが出来る。盗みが成功する確率はプレイヤーと相手のDEXに依存。プレイヤーのDEXが盗む対象モンスターのDEXよりも高くなればなるほど、盗む確率が上がる。盗んだものの内容については一定の割合ずつになっており、DEXが高いほどアイテムドロップ率が高くなるわけではない。
「……なるほど。DEX上がっても、盗むの成功率が上がるだけで、外れのGって確率が減らせるわけでもないのか〜……」
盗む効率性が上がっても、盗んだ布袋からアイテムがドロップする確率が低いと、かなり辛い作業にしかならない。
「確かにこれはアイテム関係は厳しいねぇ……」
レベル上げをして、コンテンツを進めるにあたって、装備の刷新やアイテム充実は必須事項。
それが説明や、一通り戦闘してみて普通に面倒くさいことがよく分かった。
「これ絶対にRMTする人と、売る人たちがbotみたいなの作って収集作業したりするんじゃないかなぁ……?」
そんなことを考えながらも、リアは取り敢えずアイテムを一個盗んでみたくなったので、再び跳ね回るスライムへと向かっていく。
「スライムよ、アイテムをよこしなっ!」
※※※※
「お……。これは!」
盗みながら、スライムを10匹ほど倒したときだった。
すでに見るとがっかりする小さな黄金色ではなく、緑色のゼリー状の小さな玉が入っていた。
そのゼリー玉を取り出すと、ログが出てアイテムの説明が表示される。
ゼリー片……スライムが移動する際に飛び散ったゼリー状の破片。特殊な素材で、結合剤や家具に製作材料などに広く用いられる。
「ふぃーっ! やっと1つかーっ! お、意外とひんやり触感で気持ちいいっ!」
ゼリー片を指でプニプニと弄びながら、フーっとため息をついた。
10匹盗んで1匹がアイテムドロップ。
単純計算で、現時点でアイテムドロップ率は10%。
「普通にうんざりしそうな確率なのに、なんだろう……このアイテムゲット出来たときの達成感は……!」
ただのスライムの破片だというのに、獲得できたこのアイテムが神々しくさえ見えた。
「とりま、競売?でどれくらいの値段するのか見てみようかなー?」
こういったオンラインRPGでは、フリーマーケットというものが存在して、プレイヤー同士の売り買いが出来るシステムが存在する。
このシステムの呼び方は、ゲーマーによって異なったりもするが、リアは両親が競売と呼んでいたのに影響されてそのままそのように呼んでいる。
一度村に戻って、アイテムを広げているNPCに話しかけると、フリーマーケット一覧が出てくる。
「えーっと、素材……ゼリー片っと」
検索条件を整えて検索をかけてみると――。
「え、400G!? 初期モンスターのアイテムでこれ!?」
取引最低価格は400G。
出品時間を見ても、すぐに売れて循環していることが分かったので、かなりの需要があるらしい。
「確かに亜実がああいうのも、分かるかも……」
まだサービス開始直後で、レートが安定していないって言う可能性もあるけどしれないけど、盛り上がっているのがこのフリーマーケットからも伝わってきて、俄然やる気が出てきた。
とは言っても、亜実にあげるだけなので儲かるわけでもないのだが。
亜実も喜んで、自分もこのゲームの盛り上がりを体験出来る。悪くないような気がして来た。
「どうせ春休みでダラダラ過ごすよりは、こういう作業する方が楽しいし、明日から頑張るとしますかー!」