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10:00

在宅で出来る仕事を朝早くからしていると明け方近くまで仕事していた夏が部屋に入ってきた。


夏「おはようございます。朝ごはんって食べました?」


来虎「あー…、そういえばまだだったな。」


夏「昨日の水炊きを味噌鍋にしただけなんですけど、食べます?」


来虎「食べる。きりのいいとこでそっち行くよ。」


夏「はい。莉李起こしてきますね。」


そう言って、夏は一緒に寝ていた莉李を起こしに行った。


2人は今年の夏にたまたま再会して復縁し、今は同棲している。


専門学生の夏は学費や生活費のために夜遅くまでバイトをしている事が多いらしいけれど、それでも莉李は夏のそばにいられる事自体が嬉しいみたいで愚痴の1つも吐いたことがない。


夏は俺が莉李の兄って事もあって愚痴を聞いたことはないけれど、クリスマスに何をしようかアイデアが生まれすぎるのが最近の悩みらしい。


そんな2人の愛の巣で2週間近くお世話になるのは忍びないけれど、ホテルに泊まるのは莉李が嫌と言うし、誘われた夢衣の家にはさすがに行けない。


だから申し訳ないながらもこの居心地が良い1人部屋をもらって過ごさせてもらっている。


そんな俺は手早く仕事を切り上げて味噌と中華スープが合わさったお腹の虫が騒ぐ香りを出すリビングに行くと、パジャマ姿の莉李が今にも外出しそうな服を着ている夏の腕に抱きついたまま、また眠ろうとしていた。


夏「莉李、来虎兄さん来たよ。起きて。」


莉李「ねむ…ぃ。」


来虎「莉李は冬眠するからな。はちみつレモンで起きるぞ。」


俺はそのままキッチンに向かい、すでにケトルで沸いていたお湯を使ってはちみつレモンを作り莉李の鼻先に持っていくと莉李は呼吸と合わせてゆっくりと目を開けてカップを持った。


夏「ありがとうございます。明日からははちみつレモン作るね。」


莉李「来虎兄さんのはちみつレモンすっごい美味しいの。夏も飲む?」


と、莉李ははちみつレモンに夢中で夏の言葉が耳に入らなかったらしく、夏の口元にカップを持っていく。


夏「そうなんだ。あとで教えてもらってもいいですか?」


来虎「いいけど、いつも適当だぞ。」


俺は2人のお椀に具材を盛ってから自分の分を取ると昨日はなかった大きめのエビがあること気づく。


それがなんだかおみくじで大吉を引いたみたいで心踊ってしまう。


しかも、莉李が頼んでくれたジャケットは明後日までに形を作って一旦試着するという流れになった。


その早さにプロの人が作るのかと思ったらまさかの中学生だという。


そんな才能は俺には備わったことがなかったので、その子も、絵を描ける夏も、歌を作れる莉李も、羨ましいと思うけれど、さらに羨ましいと思うのは恋心が分かること。


みんながみんな、その気持ちを理解出来ないことは分かってる。


けれど、俺の周りにいるみんなはその気持ちが分かっていてそれぞれ幸せな道も過酷な道も歩んでいる。


それは友達とはまた別の歩み方で、家族といても生まれない感情だし、ペットや今持っている箸とお椀に抱く感情でもない。


“恋人”


そのワードと意味合いは辞書で引いたり、友達に聞いたりして何度も考えてみたけれど生まれてこのかた一度も『ときめき』という恋心は趣味のバスケで使う道具程度しか感じたことがなくて、四半世紀を生きようとしている俺は感情がみんなより劣っているとずっと感じてしまう。


莉李は勝手に『好き』って言葉がその人の前で生まれたらそれが恋心と教えてくれたけど、今のとこその言葉は今口に入れたエビの甘みにしか感じない。


莉李「来虎兄さんは夜ご飯なしでいいんだよね?」


来虎「ああ。夢衣と食べてくる。」


夏「今日もデートなんですね。」


俺が夢衣と遊ぶことを2人は嬉しそうに目を輝かせるけど、俺は2人と一緒に遊ぶ時と同じ気持ちの高まりしか感じない。


それがみんなは知っている恋心を知らない俺という存在を思い知らされているようでとても劣等感を感じる。


莉李「夢衣さんとジャケットを作ってくれてる(てん)ちゃんは友達だから、好きなもの聞き出してお礼品買えばいいんじゃないかな。」


来虎「そうなのか。ちょうど買い物行く予定だったからそうするよ。」


俺は急にも関わらずジャケットを製作してくれる天ちゃんが喜びそうなものを夢衣に選んでもらうことにした。



環流 虹向/ココのさきには

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