再告白
「おいしいですか?」
「……んっ」
神官様が帰ったのも束の間、誰が部屋の中に居るのかすら分からない中、私はお腹の音を盛大にならせてしまった。あの時は、顔から火が出るかと思ったわ。
でも、そのおかげで、部屋の中にはレオンハルト様と第二王子、第三王子しか居ないことがわかった。……なぜ、わかったかって? みんなして大笑いしたからよ! 恥ずかしい!
「良かった。味が濃い薄いありましたら教えてくださいね」
「んっ、んぅ……」
「ゆっくり召し上がってください」
それから、レオンハルト様の癒しの異術で喉の痛みを取っていただき、今に至る。
話せるようになった私は、目隠しをしたままベッドの上でメイドさんが持ってきてくれた食事を口に詰め込んでいた。もちろん、前回注文したのに食べられなかったパンとお魚のことは謝罪したわ。「持ってくるのが遅くなったこちらの不手際です」って言われたけど……悪いのは私だもの。食べ物は粗末にしちゃダメなのよ。今日は食べられてよかったわ。
喉の痛みもないし、今食べてるパンも抜群に美味しい。温かい食事なんて、いつぶりだろう? こんな柔らかいものを食べられるなんて、やっぱり生きててよかった。
……でも、そろそろ現実に戻っても良いかも。あのね、さっきからちょっと困ったことが起きてるの。
「あ、あの……」
「なんでしょうか、ステラ嬢」
「……ひ、1人で食べられますので、その」
「? ……ああ、お気になさらず。趣味なので」
「趣味……?」
パンは手で食べられるから、両手で持って口に入れれば問題ないのだけど……。
先ほどから、多分レオンハルト様だと思うのだけど、なぜかスープとかお魚とかを食べさせてくれてるの。パンを食べようと口を開くと、ヒョイッて感じで。上手すぎて、「趣味」って言われても納得するけど……どうして、この方は私に時間を使ってるの? はっきりと、私の素性を話したでしょう?
とはいえ、空腹には勝てない。
口に入れられてしまえば美味しいから、咀嚼しちゃうし飲み込んじゃうし拒めないわ。今口の中にあるピクルスも絶妙な塩加減で食欲が湧き出てくる。
「ふはっ、レーヴェ楽しそう。僕もやりたい」
「ダメだ。遊びじゃないんだぞ」
「では、診察もしないといけないし、私が代わろうか。レーヴェは仮眠でも取ってきなさい。ここ3日寝てないでしょう」
「眠くない。ステラ嬢のお食事の邪魔をするな、俺だって少しなら診察できる」
ピクルスを飲み込んでパンを食そうとしたところ、何やら騒がしいことに気づいた。
話を聞いてると、誰が私に食べ物を食べさせるかの相談なのかしら? 別に、どこに何があるのか教えてくれれば1人で食べられるんだけどな……。さっきも、レオンハルト様にそう言ったし、みんなわかってると思うんだけど。
それに、みんな仕事はどうしたの?
なんて、聞く暇はない。
それよりも、レオンハルト様が3日も寝てないって? 私は、3日もぐうぐう寝てしまっていたのに。
「……あ、あの。眠れてないんですか?」
「そうだよー。こいつ、ステラ嬢が気絶して3日起きなかったから大変だったんだー。ねえ、レーヴェ」
「……心配だったんだ。また、起きなかったらと思うと」
「レーヴェ、2日目の夜泣いてたよね」
「うううううううるさい! 泣いてない!」
「2日目の夜に何かあったのですか?」
「何もないよ。ステラ嬢が起きなくて泣いてたの。ねー?」
「……ステラ嬢にはフラれたけど、でも、大事なんだ。幸せになって欲しいのに、目が覚めなかったらと思うと「え、ま、まっ!?」」
パンを口の中に入れていなくて助かった。多分、入れていたら吹き出してしまったと思う。
私がフった? え、「ステラ嬢にはフラれたけど」って聞こえたけど、気のせいじゃないよね?
フったつもりはない。辞退しただけなんだけど……だって、レオンハルト様をフるなんて烏滸がましいでしょう。
あれ、でも辞退と何が違うのかしら。ん、ん、よく分からない。
でも、フってない。恋人の枠を誰かに譲っただけで……。
「わ、私、別にレオンハルト様をフったつもりはないです。それで眠れなくなってしまわれたのなら、申し訳ございません」
「……え?」
「私は、以前お話した通り、貴族として相応しくない人間です。いえ、人間以下のゴミです。それを隠して貴方様とお会いしていました。嘘つきです。なので、他の女性に恋人の場所を譲るつもりで辞退させていただきました。誤解させてしまってすみません」
「……私のことを嫌いになったのでは?」
「そんな! 愛しております。これからも、見えないところで陰ながらご活躍を応援させていただきたいと思っております」
いけない、誤解させてしまったわ。今ので、ちゃんと伝わったかしら。
多分、声のする方からしてこちらにレオンハルト様がいらっしゃると思うのだけど……。なぜか、返事は聞こえてこない。
逆方向に居た? そっちを向くと……なぜか、ルワール様の「やあ」という声が返ってきた。一応、「どうも」って返事をしておいたわ。頭を撫でてくるのは、きっとルワール様の癖なのね。
レオンハルト様はどこに消えたのかしら?
私は、丸パンを両手に持ってキョロキョロとレオンハルト様を探した。外野から見たら、結構変だったかも。
すると、目の前にあった食事たちがカチャンと小さな音を立てて遠ざけられてしまった気がする。いつの間にか、持っていたパンも消えちゃった。あと一口は食べたかった……。
「ステラ嬢」
「ひゃ、ひゃい!?」
「私も、貴女を愛しております。もし、私のことを好いてくださっているのであれば、もう一度チャンスをください。今度こそ、ステラ嬢をお守りいたします」
「……?」
「うわー、レーヴェ僕たち居るのわかってる?」
「ラフ、茶化したらダメだよ」
パンの柔らかさを思い出しているところに、爆弾級の発言が飛んできた。
しかも、手の甲を引かれ、何か柔らかいものが触れた気がする。そこだけ、異常に熱い。
今、レオンハルト様の声で「貴女を愛しております」と聞こえたけど……。もしかして、他に女性が居たかしら? って思って周囲を見渡したところで、「今度こそ、ステラ嬢をお守りいたします」の言葉……。もしかしなくても、これって私に言ってくださってるの?
「返事は急ぎません。それまでは、こうしてお側に居てもよろしいでしょうか」
「……は、はひ」
「ありがとうございます。食事の続きをしましょう。中断させてしまって申し訳ございません」
「はひ……」
私は、考えることをやめた。
それよりも、手元に戻ってきたパンを口に入れるので精一杯だったから。
そんな私に向かって、レオンハルト様は「ゆっくり召し上がってくださいね」と頭を撫でてくれる。
第二、第三王子までもが「ゆっくりしていってね」と言って頭をポンポンッて……どうして、みんな頭を触るのが好きなの?
余談だけど、その日の夜、私は「ネガティブ発言を連発してたのでどうぞ」と言ってニコニコ顔をするルワール様から薬草茶を2杯も受け取った。……もう一生飲みたくないわ。




