お泊まりに行きましょう
「先輩! 蝶の楽園を発見しました」
そんなふうに舞花から言われたのは、ゴールデンウィークを過ぎてすぐ。
いつものように蝶の写真を撮る放課後を過ごしていた時。
「蝶の楽園?」
「はい! ほらご覧ください!」
舞花が見せてきたのはいろんな蝶の写真が載っているサイト。
一番目立つのは、大きな、茶色と紫の蝶。
オオムラサキという蝶だ。
「すごいな、でかい」
「そうなんです! オオムラサキ大きいです。私の予想の中の一つに、水色の蝶はオオムラサキの変異個体なのではないかというものがあります」
「たしかにその可能性あるかもな」
しかしオオムラサキの生息地ではないんだよなこの辺。
いやでも、蝶は飛べるんだ。
どこにいたって、おかしくはないだろう。
「先輩、ここに行ってみませんか?」
「おお、行こう行こう。でも結構遠い……のかな」
「そうですね、行くとしたら……お泊まりですかね」
「と、泊まりかいな」
いや美少女と泊まり? まじ?
そんなことが僕の身に起こってしまっていいのか。
水色の蝶よりもレアなことなんじゃ……わからないけど。
「先輩。もしかして乗り気ではなかったりしますか?」
「ううん、すごく行きたい」
「よかったです。私も、すごく行きたいので。先輩と」
うおおおおお。
はい。セリフと相まって可愛すぎる。
あれ、なんかテンションおかしくなってんな。
「それで、いつ行く?」
僕は一旦呼吸と脳内を整え、そして舞花にそう訊いた。
「どうしましょう。私はいつも暇なんですよ、学校に行っていないので。先輩は、いつなら時間ありますか?」
「僕も割とあるよ。そうだな……体育大会の代休が五月末にあるから、そことかはどう?」
「いいですね」
舞花がはずんだ声を出した。
こうしてあっという間に日程は決定。
後は宿の予約などだ。
宿の予約は舞花がしてくれるというので、僕はただ交通手段を調べて、結局長野方面の特急に乗るのが一番いいなと結論づけただけだ。
「特急あずさ……乗ったことがありません。新幹線ならありますけど」
「あんまり新幹線と雰囲気は変わらないと思うよ」
電車乗換検索の結果が表示されている僕のスマホを覗き込む舞花に、僕はそう答えた。
なんか、舞花との距離も縮まったのかもしれない、と思ったりした。
僕ももうほぼ、話すのに緊張したりしなくなってるし。
だから二人で旅行に出かけるみたいなのって、すごく楽しみだ。




