ボートに二人で
「蝶に関係ないこともしたいって言うとは思わなかったな」
「あ、ごめんなさい……でも、先輩とのほかの思い出も欲しいなってなりまして」
「……ありがと」
すぐ隣でナチュラルにそう言われると普通に困る。
僕はそもそも女の子と出かけたことはあんまりないんだ。
幼馴染を除いてだけどな。
僕と舞花は、白鳥のボートを漕いでいた。
二人で息を合わせるのが難しいと予想していたけど、あんまりそんなことはなかった。
「先輩、お魚発見しました!」
「ほんとだな」
「あれ、なんかテンションが違う……恥ずかしい」
「いやいや、まあお魚だな」
たしかに予想以上に楽しそうだな、と思ったけど、そんな舞花を、予想以上に僕は見つめてしまっていた。
「ど、どうしたんですか? 髪が、乱れてます?」
「ううん。そんなことはない」
「そうですか」
どっちかと言えば乱れてるのは洋服の胸元あたりで、ちょっと見てしまうんだけど。
そんなことはいいや。
それにしても、これが日常か。
ゴールデンウィークの日常。
僕は舞花と一緒に時を過ごす。
それが楽しいのかと訊かれたら、絶対に楽しい。
だから、誰も周りにいない白鳥ボートの中で、のんびりぷかぷかと池の真ん中に浮いて、昼寝でもしたいなあ……なんて。
「先輩、居眠り運転はダメですよ?」
「あ、そうだよな」
いつの間にか目が閉じそうになっていたみたいだ。
ていうか危ない!
他のボートにぶつかりそうになっていた。
というよりも向こうのボートの方から接近してきたのか?
そう思ってたら、向こうのボートから知っている声がした。
「こんなところで秀映と会うとはね〜で、隣にいるのは……あれ? 虹原……菜々?」
花記がボートの運転をほったらかしにしてこちらを見ていた。
隣には幸せそうな写真部部長がいる。
そんな二人に、舞花は、低いトーンで返した。
「菜々の妹の……舞花です」