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舞花①

 幼い頃から、私とお姉ちゃんは、ずっと同じ夢を追っていた。


 それは例えるなら、全く同じルートを進む、二台の小さなトロッコのようなものかもしれない。


 でも当然、お姉ちゃんの方が先にすすんでいた。


 お姉ちゃんの方が年上だから先に進んでるのは当たり前だよねって片付けるのが厳しくなってきたのは、お姉ちゃんが子役として一躍有名になってからだった。


 お父さんもお母さんも、みんなお姉ちゃんを全力でサポートする様になった。


 私はまだあまりなんのためかもわからずオーディションを受けたりしていたけど、やっとなんのためかわかったような気がしてきた。


 テレビをつけたらお姉ちゃんが何かの番組に出ていた。


 ネットのニュースを見てみると、漢字はよくわからないけど、とにかくお姉ちゃんの写真があった。


 そう、とにかくお姉ちゃんは有名になっていて、きっと多くの人を楽しませていたんだと思う。


 そんなお姉ちゃんの後に続こうと思った、私は、すごくわくわくしていた。


 私もこんなふうになりたいな、と思った。


 しかし本当になりたいな、で終わってしまうことになるとは、まだこの時は思っていなかった。


 段々と私は、毎日が辛くなっていった。


 私が思う一番のつらさは、家族の幸せを願えない、悪魔のような自分が誕生してしまうことだ。


 私はもうそろそろお姉ちゃんには幸せになるのをやめてほしかったし、お父さんやお母さんにももう、お姉ちゃんのことで喜ぶのもやめてほしかった。


 もうとっくに「悪魔」の私のことが、あまり好きではないのはわかっていたけど。


 悪魔といえば、私はお姉ちゃんに比べたらあんまり可愛くないとも思う。


 ほんと、自分が大嫌いで、自己肯定感もない悪魔だった。


 せめてよくアニメに出てきそうな、やたら威張ってる、憎まれないタイプの悪魔がいいな、と思った。


 そんな私はオーディションやらレッスンやら何やらだけは受けていたので、友達も全くいなかった。


 だけどある日。


 私がオーディションに連れて行こうとしたお母さんを振り切って、逃げ出してきてしまった時。


 一人の女の子に出会った。


 それが、私を蝶みたいと言ってくれた女の子。


 私は自分は悪魔だと思っていたから、なんだか嬉しかった。


 だから私は空を舞う蝶みたいに、自由になりたいと思った。


 

 だから私はもう自分が嫌なことをしないことにした。


 みんなと一緒に勉強したり、運動したり、いわゆる普通のルートを歩みたいと思った。


 しかし、みんなが知っている女優の虹原菜々の、妹ってだけで、窮屈だった。


 みんながお姉ちゃんを褒める。


 そして褒めれば褒めるほど、私は蝶ではなくなっていく気がした。


 いつまでも蝶でいたかった私は、学校に行かないことにした。


 そしたらそこの世界は楽しかった。


 アニメやゲームやラノベのことしか知らない人の世界を見つけた。


 その人たちは、私のお姉ちゃんに、全く興味がなかった。


 よくわからないけど、次元が違うらしい。


 それに、私が誰の妹かとかも知るはずもない。


 最高の居心地だった。


 そんな新しい世界を羽ばたく蝶になっていた私は、ふと、ネットに上がっている写真に出会ってしまったのだ。


 水色の蝶。


 あの時の蝶だと思った。


 ☆   ○   ☆


 そしてそれから先輩に会って、今は公園に二人できていて。


 私は、先輩よりも少し先を歩いている。


 さっき、先輩は言った。


「どっちかっていうと有名になりたいから協力するってより、舞花と写真を撮るのが楽しいからするってことで」


 なんだか私は先輩の考えが、すごく変わった考えだと思った。


 私はずっと有名なお姉ちゃんをすごいと思っていて、だけどそれにひたすら嫉妬して。


 有名であることが、偉いと思っていたけど。


 もしも先輩が、有名になることより、こんな蝶にすがっている女の子と写真を撮ることに魅力を感じるのなら。


 やっぱり変わってるよ、先輩。


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