書くことのない学校生活
次の日の朝。
僕は高校への道を歩いていた。
蝶を見つけると思わず反応してしまう癖が残っていて、ちょうど今も、アオスジアゲハを目で追ってしまっていた。
というかいまだに撮る写真の結構な割合が蝶を占めているし。
アオスジアゲハが飛んでいく方向は、ちょうど中学校の方角だった。
舞花、ちゃんと登校できたかな。
僕はポケットの中でダンゴウオのぬいぐるみを握って、楽しそうに笑う舞花のイメージをした。
「えらい早いな秀映」
後ろから声が。
クラスメイトの野球部の人だった。
「まあな」
「なに、もしかして野球部入ってくれるのか?」
「いや無理だってそれは。肘痛めてんだから」
我が高校の野球部は弱いというわけではないけど、部員不足だ。
まあだから暇そうな人によく勧誘している。
決して僕が、実は最近やってないのにも関わらず野球が上手いとかいうわけではない。
また僕が、この人と特別親しいわけでもない。
「あそうだ秀映、昨日女の子と焼肉食ってただろ」
「え、なんで知ってるの?」
「部活終わりに行ったら見かけた」
「そうなのか」
「彼女?」
「まあそうっちゃそうだけど……」
「おいー! うらやましいな。教室の隅でのんびりしてるように見えて楽しそうなことになってんな」
やっぱり僕、教室の隅でのんびりしているように見えるのか。
ように見えるというかそうなんだけど。
「あ、俺時間やべえ。じゃあイチャイチャしとけよ!」
そしてクラスメイトで野球部の彼は行ってしまった。
そして今日もいつも通り教室の隅でのんびり。
楽しそうに喋る女子グループが最も近くにいる集団だった。
花記もその中にいる。
女子の人間関係ってどんな感じなのだろうか。
まじでわからない世界だ。
舞花はクラスの女子たちの関係に、うまく適応できるのだろうか。
学校では本当に特になにも起こらないので、特に書くことがない。
なにもイベントを略さずとも放課後の描写に移れる。
素晴らしい。
どこも素晴らしくなかったわ。
というわけで放課後なんだけど、スマホをなんとなく確認したら、舞花から連絡が来ていた。
『うちに遊びに来ませんか?』
その20分後。僕は舞花の家の前(敷地に入ってからは少し歩く)に来て、大きな建物を見上げた。
相変わらずでかいなあ。
特に日が出ている時に行くと、なおさらでかいのがよくわかる。
インタホーンまでボタンを壊したらやばそうな高級なもので、だからすごく丁寧に押してみた。
すぐに扉がかっこいい開き方をして、そして舞花が出てきた。
「あ、秀映」
「おお、学校はどうだった?」
「思ったよりは……人間関係は大丈夫だった」
「よかった」
「あ、でも」
舞花は割と深刻そうに、
「お勉強が、まっったくわかりません!」
だけど堂々と宣言した。




