のんびり観光
「ほら、結局歩くので、食べても問題なしです」
「そういやそうだったな」
僕と舞花はホテルを出て、ふもとの街へ向かって歩いていた。
下り坂なので、昨日めっちゃ歩いた時よりは楽である。
だから時折、蝶がいないか探したり、川が流れていたら魚がいないかみてみたりと、割と余裕がある感じだ。
街まで降りたら、松本方面へのバスに乗り、松本城に寄るというのが今日のプラン。
松本城の歴史的背景とかはよくわかんないけど、まあ松本の観光スポットらしいのでせっかくなので行こうということになった。
ふもとの街のバス停まで無事に着いた。
途中、何匹か見たことのない蝶がいたので写真を撮ったり、舞花の脚が道の脇の溝に入ってしまったりした。
だから乗りたいバスよりも一本遅くなってしまうかもしれないなと思っていたんだけど、そもそもバスも遅れていたみたいで、ちょうどやってきて、そして舞花と僕を乗せるためだけに止まった。
バスの乗客は数人。
のどかなBGMがつきそうな雰囲気で山と山の間を走り抜けていく。
段々と平らな部分が広くなっていき、盆地に入って行っているのが実感できた。
そのままバスに乗り続けて、人もたくさん乗ってきて。
松本城の最寄りのバス停までやってきた。
舞花と僕以外にも結構たくさんの人が降りる。
「うわお、先輩、大きなお城です」
「そうだな、立派じゃんすごい」
高さもそれなりにはあり、もしお城の一番上くらいの高度に蝶が飛んでいても気づかないと思う。
「あっ、忍者がいます!」
「マジで?」
舞花に言われた僕はお城の壁にでも張り付いているのかと思って探したが、実際にいたのは、松本城の門をくぐってすぐのところだった。
なんかネズミがとても人気な遊園地に入るとネズミのキャラが出迎えてくれるもんなのかな。
実際、忍者は隠れるどころか存在をアピールしまくりで、観光客の人たちとノリノリで写真をとっていた。
「そこの幸せそうなお二人さんも私と写真撮らない?」
やはり、門をくぐったらすぐに忍者のうちの一人に話しかけられた。
女の子の忍者だ。くノ一だ。
「じゃあ……お願いしようか?」
「はい」
「ありがとうございます〜では忍者のポーズから教えますね」
そう言って手を組んで僕たちに見せる。
僕たちはまねしてやってみた。
「先輩違いますよ、こうです」
そう、ごく自然に、舞花が僕の手を握ってきた。
そして舞花は繋がった手を少し見つめ、
「ほら、こうしたらできました」
僕の手をそっと離した。
なんか自然だったなあ。
舞花の手って、小さいんだけど、優しく包まれる感じ。
もう一回忍者のポーズを間違えたらまた握ってくれるのかな。
そうなふうに考えたりしてしまった。
お読みいただきありがとうございます!
二章はあと二話の予定です。




