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一緒のお部屋

 舞花と僕は、それからも蝶を見つけては、写真を撮っていった。


 美しい緑色、青色、時には赤色に輝いているミドリシジミ。


 日陰を飛んでいた、種類の検討もつかない、茶色の蝶。


 池のほとりで水を飲んでいた、大きなミヤマカラスアゲハ。


 オオムラサキは結局見つからなかったけど、大満足の一日だった。


 きっとそれでいいんだよな。


 途中、園内のレストランで食べたパスタも予想外に美味しかったし。


 だからそこまで疲れも感じることなく、いつの間にかホテルにたどり着いていた。


 舞花がフロントに行く。


「鍵ゲットしました」


「おお、ありがとう……って、一つ?」


 え、え? 一緒の部屋ってことですか?


「お部屋は一つで、鍵も一つです」


「なるほど」


「鍵二つもらえないか訊いてきましょうか?」


「あ、いやそういうことではなくて、別の部屋かと思っていたもんで」


 僕が言うと、舞花ははっとして、


「あ、そうでした……そうですよね。でも私、学校行かない人なので修学旅行とか合宿も経験ないですし。だからアニメとかで温泉回とか合宿回とかあると、こんな風に夜まで楽しく過ごしたいなあと思って。先輩とも」


「そうか」


「お母さんには、女の子のお友達と行くって嘘をついてしまいました」


「なるほど。そういうことなら大丈夫。一緒の部屋にしよう」


「ありがとうございます……!」


 舞花は嬉しそうにして、そして鍵の輪っかを指に入れた。


 舞香の気持ちはとてもよくわかる。


 それと同時に僕は緊張していた。


 当たり前なんだよなあ。


 だって同じ部屋だもんね。女の子と。


 でも僕は、少し不思議な感覚を覚えてもいた。


 お風呂上がりの舞花とかをすぐに想像してしまったり、そういうことはあるのだけど。


 ただ単純に、舞花とたくさん喋っていたいという気持ちが僕にはあった。


 ついついエロいことを考えてしまう男子高校生を超越した新しい自分になっているのか僕は。


 いや、そんなはずもなく。


 だからきっと……。


「先輩、到着です!」


 舞花が止まった。


「端の部屋なんだね。もしかして他の部屋より大きいのかな」


「少し大きい気がします」


 舞花は鍵をさして回した。


 分厚い扉を二人で開ける。


 うおおおお。


 な、眺めがいい。


 これは予想してなかった。いや僕たちの部屋は八階だし、予想すべきだったかも。


 谷を傍観できるようになっていて、道、川、橋が、そのままずっと、街まで続いている。


 その周りには山々があって、すごい自然に囲まれてるんだなあ、と窓から見るだけで実感できた。


「うわあ……」


 舞花も窓辺から熱心に景色を眺めていた。


 その目は大人びていて、でも仕草は水族館で魚を見ようと水槽に手を当てる子どもみたいで。


 やっぱりそりゃあ一緒にいるとどきどきするよなあ。


 僕は改めて、そう思っていた。


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