少し小さな、綺麗な蝶
「〜♪、!」
「うお、いきなり止まった」
「先輩、あそこにほら……」
舞花が指さした先には、紫色の蝶。
あれは……。
「オオムラサキ、よりは小さいな」
「やっぱそうですか」
「でも綺麗。あれはコムラサキだと思う」
オオムラサキよりも小さな、紫の蝶が五匹も飛んでいる。
といってもほとんど茶色に見えるものもいるけど。
それでも時折、紫色がこちらに主張する。
その中心にあるのは、花ではなく、なんとゴミ箱。
缶とペットボトルを捨てるゴミ箱だ。
どうやらジュースを吸いにきているみたいだ。
昆虫にとっても美味しいのだろうか。
よくわからないけど、とにかくジュースに夢中なのですごいシャッターチャンスだ。
まあしかし、止まってるのがジュースなのが綺麗さを失わせてしまっている。
いやでもこれはこれで面白い写真になるのでは……。
僕はゴミ箱の近くでカメラを構えた。
すると後ろから笑い声が。
「え、どうした。あんまり逃げないから近くにおいでよ」
「あ、今行くんですけど、先輩がなんかぱっと見、ゴミ箱にこだわる癖のある写真家に見えて」
「マジかよ」
「はい」
まあそうだろうなたしかに。
ゴミ箱を撮る写真家、確か聞いたことがあるような気もするけど。
舞花が隣にきた。
おそらくこの瞬間、女の子とゴミ箱を幸せに眺めているのは、世界で僕くらいだと思う。
舞花もコムラサキの写真を撮っていた。
そんな舞花の横顔を見ながら思った。
歌声、綺麗だったな。
「先輩、ほら」
ふと舞花と目が合い、そして舞花は自分の指先に目線を送った。
指先に、コムラサキが止まっていた。
僕はそれを写真に撮った。
まだ少し子供っぽい手に止まる、オオムラサキよりは小さな、紫の蝶。
「私的には、コムラサキ、結構好きですね」
「僕もだな」
僕たちは考えてることは同じかもしれない。
オオムラサキは、とても有名な蝶だ。
日本においては国の蝶にもなっているから、実際はモンシロチョウとかの方が有名だとは思うけど、一番「有名」な蝶だと言うこともできると思う。
そんなオオムラサキと比べて、きっとあんまり有名ではないコムラサキ。
そんなコムラサキがとても綺麗だということ、あんまり逃げないということ、ジュースが好きだということ。
そして、そのコムラサキを手に止まらせる舞花に、僕は見惚れてしまっていたということ。
そんなことを知れたのが、すごくよかった。
もしかしたら舞花と僕は、そういうことを知るために、ここに来たのかもしれない。
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