歌う舞花
だんだんと登りがきつくなってきて、そしてその後緩やかになった。
そして見えてきた自然文化園は、森の中にある高原のような場所だった。
「やっと見えてきました……途中で蝶飛んでました?」
「飛んでたけど写真を撮る余裕もいろんな意味でなかったな」
タイミング的にも、体力的にも。
僕もなんだかんだで体力を割と消耗してしまっていた。
入り口までついた。小さな建物があるのでそこに入る。
入場料とかはなし。無料。
見た感じ家族連れの人とかが結構多くて、普通に地元の憩いの場となっている気がした。
「先輩……」
「うん、休むか」
僕が言うと舞花は首をふり、
「あ……えーと……お手洗いに……」
「あ、ごめん。そこにあるな」
「は、はいっいってきます」
舞花は急いで消えた。いや、気遣いが皆無だったな僕。
反省しながら周りを見ると、壁全体に、この辺りの自然の写真が貼ってあった。
知らない変わった綺麗な花。
霧がかかった時の風景。
そんな様々な写真の中に、オオムラサキの写真もあった。
「先輩……お待たせしました」
「ううん、ごめんね」
「先輩は何にも悪くないです。私が、何故だか言うのが恥ずかしくなってしまって。あれですね、おうちにひたすらいた時にお手洗いに行くのが億劫になっていたのとはまた別の気持ちですね」
「それは別だろうな」
僕は笑った。
僕も行っておくか。
そう思って僕もトイレに行き、その後二人でしばらく椅子に座って、壁に貼られた写真を眺めていた。
「先輩、だんだん体力回復してきました」
「よかった。僕も回復してきたよ」
「じゃあ行きますかそろそろ。オオムラサキを探す旅です!」
「だな」
僕はもう一度オオムラサキの写真を見て、そして立ち上がった。
「なんか歌を歌いたい気持ちになりますね!」
歩きながら舞花が明るく言う。
「わかる」
天気が良くて本当によかった。
気候も圧倒的ちょうど良さで、体力も回復。
歌いたくなる気持ちがわかりすぎる。
「ああ……でも最近の私の好きな歌アニソンばかりなので恥ずかしくて歌えません」
「大丈夫だよ、そこまで周りに人いないし」
人が全くいないなんてことはないけど、明らかに都会と違う人口密度。
快適すぎる。
「え、じゃあ歌おうかな。思いっきり。あ、でもちょっと声が大きいかもです」
「大丈夫。ここの自然はもっとでかい」
「じゃあ、歌っちゃいましょうかね」
舞花が歌い始めた。
めちゃめちゃ上手い。
聞いてるのは僕と、そこらへんの生き物たちだけだ。




