蝶の楽園に出発
体育大会の代休の一日目。朝七時。
何という早さだというレベルの時間に早起きをして、僕と舞花は、新宿駅にいた。
ここから特急あずさに乗り、松本駅まで行く。そこからもバスなどもろもろで頑張って向かうのが、今日の目的地だ。
「あ、あずさ、ラベンダー色みたいな感じなんですね。むらさきですね」
ホームにやってきた誰も乗せていないあずさを見て、舞花は言った。
「そうだな、えーと、五号車だから、ここでいいはず」
僕はチケットとホームの表示を確認した。
ドアが空いて、僕たちは乗り込んだ。
僕たちの他にも、サラリーマンのような人や、登山リュックを背負っている集団など、思ったよりも人はいた。
「好きな方の席、どうぞ」
「え、あ……ありがとうございます」
舞花は窓際の座席に腰を下ろした。
今日は動きやすい格好をして来なければいけないということで、舞花は可愛らしいジャージを着ていた。
ニートみたいになっていたのでジャージが一番動きやすいんだとか。
本格的な登山をするわけではないので、いいんじゃないかと思う。
僕は思わずジャージを着たまんま部屋でゲームに勤しむ舞花を想像してしまった。
「そういえば先輩。私、少し痩せました」
「え?」
言われてみればそんな気もする。
初めて会った時の舞花は、太ってるってことは全然なかったけど、ちょっとむちっとしていた。
まああれですね、僕は結構好みですね。
しかし今見ると、結構すらっとしている気もする。
まああれですね、僕はこちらも好みですね。
というか胸はジャージの下にしっかりと、「そこにある」という感じなので、やっぱりスタイルがいい。いやそう言えばまだ中三だったな、という感じである。
「先輩と出かけるようになってから、運動不足が解消されて、それで痩せたんです。私的にちょうどいいくらいになりました」
「おお、そうなんだな、おめでと」
僕の言葉と同時に、列車が動き出した。
このまま乗っていけば、長野まで連れていってくれる。
そしてそれから僕と舞花は、蝶が沢山いる、穏やかな里山に行くのだ。
「暇だし……トランプでもする? 二人だとなにがあるんだろ、スピードとかしかないかもしれないけど」
「トランプ!」
「え、え、どうした?」
「ごめんなさい、生のトランプを見たのが初めてで……ネットゲームでしかトランプをしたことがないので」
「おお、そうか」
僕はトランプをシャッフルしながら思った。
そうだよな。舞花は色々、窮屈な家庭にいたのかもしれない。
いや、いたのかもしれないんじゃなくて、いるのかもしれない、か。




