新種の蝶だったかもしれません
「あの時見つけた蝶は、きっと新種だったと思うんです」
少し小さめで、だけど美しい翅が生えた蝶のような存在感がある虹原舞花は言った。
僕は道を歩きながら、とりあえずうなずいた。
でも、新種の蝶ってそんなそうそう見つかるものではない気がする。
アマゾンの奥地とかなら別として、こんな東京近郊では。
「信じて、ないですかね?」
「まあな」
舞花が僕を悲しそうな目で見て、僕は肯定した。
「気分の話なんだから、許してくださいよ。それだけ私は、あの時、変われたんです」
「うん、そうだよな、ごめん」
「いえいえ、謝ることはないです。ただでも、新種の可能性もゼロではないと思います。そうですね……先輩の幼馴染さんが、先輩のことを好きな確率よりは高そうです」
「……なぜそこで別ジャンルの例を出してきた……性格悪いな」
僕はダメージを追った蝶のように、よろけた軌道で歩いてみせた。
それをおもしろい生き物を見つけた目で見て、そして舞花が言った。
「性格は少し悪いくらいでお願いします。あれですよ、先輩と話すのにもだいぶ慣れたということです」
「そうか、僕も慣れたかも」
「嬉しいです」
舞花は笑った。
その舞花の背後には、花が無数にある。
僕たちはゴールデンウィークに、花が綺麗に咲いている公園に来ていた。
なんのためかと言えば、蝶の写真を撮るため。
なぜ、僕と舞花は蝶の写真を撮ることにしたのか。
それはこのゆったりした公園を歩きながら、ちょっと昔のことを思い出せば、すぐわかることだ。
☆ ○ ☆
僕にはずっと親しかった幼馴染がいて。
幼馴染の影響で、高校に入る少し前、写真が好きになった。
高校に入学した時、そんな幼馴染と一緒に写真部に入ろうと思っていた。
しかし、そんな僕は、写真部には結局入らない。
それは、その幼馴染と写真部の部長が、あっという間に付き合い始めてしまったからである。
元々の部員は部長のみ。
新入部員候補は、幼馴染と僕だけ。
つまりは、明らかに僕が邪魔でしかなかった。
なので僕は写真部には入らなかったのだ。
そんな僕は、あるぽかぽかとした春に、舞花と待ち合わせることになる。
お読みいただきありがとうございます!
短めの話を多めに私は書いているのですが、今回はできたら長めの話にしたいと思っております。
もしよろしければお付き合いいただけたら嬉しいです。




