炎の剣9
「マカネ?聞いたことないな」
「わたしも」
マカネ。俺たちには馴染みのない言葉。
ヨセフさんの方を見ると、予想が当たっていたのだろうか、特に反応はない。
「で、このマカネって石が何になるんだ?」
リンに石を返しながら聞く。リンはそれをまたポケットにしまった。
さっきこの石が国の力だとか象徴だとか言っていた。の割には宝石のように見えない。何か歴史的な価値のあるものだろうか。
「マカネはね、不思議な力を持っていて、マカネに選ばれた人間だけが、その力を引き出し、扱えるようになるの」
静かに話しだす。
「正しい持ち主がマカネに触れると、マカネが何かしらの武器の形に変化するらしいんだけど…そうね、例えばマカネが剣になったとするわね。その剣を振るうと、魔法のように風を起こしたり、水を操ったりすることができるらしいわ。わたしも実際目にしたことはないんだけどね」
…石が武器に変化するっていうのも十分、非現実的だが、魔法ときたか。
「だからマカネと、それを扱える人は、国の大きい戦力になっているの。普通の兵士じゃとてもじゃないけど、マカネ使いには敵わないから」
「マカネの中でも強いのと、それほどでもないのがあるんだけど、大国はどこも強いマカネを保有していたり、そもそも保有しているマカネの数が多かったりするわ」
「小さいこの国が、他の国から侵略や戦争を仕掛けられないのも、強いマカネを持っているからなんだ」
それまで黙っていたヨセフさんが解説を入れてくれた。
なるほど。
「とりあえずマカネのことはわかった。わかったところで、信じられるようなことでもないけどな。それで、今回のこととどう繋がるんだ?」
「ごめんなさい、話がちょっとそれたわね。ここからが本題なんだけど、クーデターの話を覚えてるかしら」
「ああ。クーデターが起きたから、アイとリンはヨセフさんを頼って逃げてきたんだよな」
「そうそう。で、そのクーデターの首謀者というか、起こした人がマカネ使いだったの」
ふむ。
「わたし達はなんとかそのクーデターをしずめられないかって、必死に考えたわ」
たしか、マカネを持つ人には、そこらへんの兵士じゃ歯が立たないって話だったな。
「あ、だからスゲー強いヨセフさんを探してたってこと?」
リンがうなずく。
「そういうことになるわね、王宮の方でも、国で一、ニを争う実力者じゃないかって噂されてたわ」
「でもおじさんってマカネ持ってるのかよ?」
「いいや」
ヨセフさんが答えた。
「そのためにこのマカネを持ってきたの。国で一番の剣士に、マカネの力が合わさればなんとかなるんじゃないかって」
さっきリンがポケットにしまったマカネを取り出す。ヨセフさんの方にマカネを差し出しながら、
「ヨセフ殿、改めてお願い申し上げます。あなた様のお力で、どうかこの国を救っていただけないでしょうか」
深く頭を下げる。
「……」
おじさんは無言。少しして口を開いた。
「…リンさん。申し訳ないが、私では力になれん」
リンが驚いたように頭を勢いよく上げる。断られるとは思ってなかったのだろう。
俺も意外だ。アル兄の父親だけあって、ヨセフさんもかなり正義感の強い人だ。まさか断るとは。
「理由はいくつかあるが…まあそうだな。とりあえずここからは私の話を聞いてもらえるだろうか」
そうだった。リンの話とおじさんが襲われたことが繋がってるとかなんとか、そんな感じのことを言っていたな。
そしておじさんが、耳を疑うような言葉を口にする。
「…私は破れたんだよ。私の息子、アルフレッドにな」