炎の剣8
「…はあっ、はあっ…」
ヨセフさんを抱えて、家から脱出する。少し離れたところに草むらがある。あそこまで行けば大丈夫だろう。
後ろを振り返ると、まるで燃料が尽きたかのように火の勢いが弱くなっている。なんでかはわからないけど、これ以上燃え広がる心配もなさそうだ。
草むらにヨセフさんを横に寝かせて、様子を見る。怪我はなさそうだが、とりあえず医者にも見てもらわなきゃな。
あ、アイとリンを車に置き去りにしたままだ。
2人にも状況を説明しなきゃいけない。なんせ、ヨセフさんを頼りにここまできたんだから。
「マリ、医者を呼んでくるよ。ついでにアイとリンの様子も見てくる。おじさんを頼むな」
ヨセフさんの顔を心配そうにのぞいていたマリが、コクッ。静かに頷く。
先に車の方から行くか。
それにしてもなんでこんなことになったんだ。考えながら歩く。
今日もしここに来なかったら、ヨセフさんがどうなっていたかわからない。
いや、むしろ、俺たちがここにきたからか?王都のクーデター絡みでアイを狙う奴らの仕業ってことはないだろうか。
だけど、ヨセフさんはその辺のやつに遅れをとるような人じゃない。
考えれば考えるほどわからない。
2人とも何か隠してそうだったし、この際全部説明してもらうか。
考えてる間に、車まできた。
「おーい」
呼びかけても反応がない。ぐるっと回って荷台を確認する。あれ、いない。
そのまま車を一周して、反対側まで来たとき。
リンが倒れているのを見つけた。
「おい!大丈夫かよ!リン!」
駆け寄って肩を揺さぶる。反応はない。呼吸はしているようだが…
「…アイはどこいったんだよ…」
そのあと周囲を探してもついにアイは見つからなかった。
いったいなにが起こってるんだ。
ーーーーー
その夜。
意識のない、ヨセフさんとリンを一旦、自分の家まで連れて帰った。
俺たちも相当疲れたし、休む場所が必要だろう。2人が目覚めたら事情を聞いて、アイも探しに行かなきゃならない。無事だといいが。
リンはマリの部屋で、ヨセフさんはソファーで休んでもらっている。マリはそのソファーにもたれかかるようにして寝ている。ヨセフさんが起きるのを待っていたみたいだが限界だったな。
俺は1人、椅子に座ってコーヒーを飲んでいた。
ボケーっとしていると。
「…どうやら助けてもらったようだな」
声が聞こえた。
声の方を見ると、ヨセフさんが目を開けている。
「おじさん!…よかった、あ、まだ横になってた方が…」
ヨセフさんが体を起こそうとする。
「いや、もう大丈夫だ。起きるくらいなんともない」
「それにしても、いったいなにがあったんだよ」
「私も聞きたい。私が倒れたあとなにがあったのか」
俺たちの会話で目が覚めたのだろう。マリがハッと飛び起きる。
「お父さん!!…よかったよ無事で。なにかあったらどうしようかと…」
ヨセフさんに抱きつく。
突然のことに驚いていたヨセフさんだったが、
「心配かけてごめんな。ありがとう…」
マリを抱きしめ返す。
ここは少し親子2人だけにしてやろう。リンの様子を見に行くついでだし。
リンのところに向かうと、すでに起き上がっていた。
「おいリン。大丈夫なのかよ」
「…なんとか」
顔色が悪い。
「おじさんもさっき目が覚めたんだ。病み上がりで悪いが、なにがあったか話聞かせてもらっていいかな」
「…ねえ、お嬢様は?」
「俺が戻った時にはもういなくなってた。探したけど見つからなかった」
ボディガード失格だなこりゃ。あのとき気が動転して色々考える余裕もなかった。
「…それもそうよね、私の目の前でさらわれていったんだもの」
「…さらわれた?誰に?」
リンが静かに泣いている。
「こういう時にお嬢様を守れるようにって、今までやってきたのに…!あいつの前じゃなんの役にも立たなかった…!」
「おい、自分ばかり責めるな。元はと言えばボディガードを放棄した俺が悪いんだろ」
「…ッ…!」
リンの涙がポタポタと、頬を伝ってシーツに落ちていく。
俺もどうしていいかわからず、しばらくリンの、声にならない涙を眺めていた。
「…ごめんね」
まだ涙目だったが、ひとしきり泣いて落ち着いたのか、リンが口を開く。リンのごめんねがなにを指しているのかはわからなかったが。
「いや。俺も悪かったな、すまん」
俺も謝る。
「なんでケイが謝るのよ」
ふふっと微笑むリン。
「実際俺が悪いだろ、肝心な時にボディガードもできなかったわけだし」
「…ありがとね」
感謝されてもな。女の子はよくわからん。
「ヨセフさんも目覚めたんでしょ?話しに行きましょう」
「…もういいのか?」
「おかげさまで。いつまでも落ち込んでられないしね」
そう言ってベッドから立ち上がる。
2人でヨセフさんとマリのところは向かう。
「あ、ケイ。リンも!よかった、体は大丈夫?」
マリがほっとした顔をする。
「心配かけてごめんね」
「なんでリンが謝るのよ。けどほんとによかった」
「はい、2人ともその辺で。早速で悪いがなにがあったか話を聞いていいか?ヨセフさんも」
俺が無理やり会話をきる。放っておくといつまでも続きそう。
「ああ、私もマリからある程度話は聞いたよ」
ヨセフさんがうなずく。
「それでなんだが、先にそちらのお嬢さん…リンさんの話からが、私達になにが起こったのかを把握しやすいと思うんだが」
ということは。
「アイ達がおじさんを探していた理由とおじさんが襲われた理由が繋がっている、ということ?」
先ほどより重くうなずく。
「…全てお見通しのようですね」
と、リン。
「確信ではないがな」
ヨセフさんが答える。
「ちょっとちょっと、俺たちにも説明してくれよ」
置いてけぼりだ。
「まあそう焦らないで。段階を踏んでひとつずつ話すわ」
「でも、その前にケイとマリには謝らなきゃいけないわね」
「?なんだよ」
「わたし、あなた達に嘘をついてた。ごめんなさい」
リンが深々と頭を下げる。
マリと2人で顔を見合わせる。たしかに怪しいところがあるにはあったけど。
「わたし達、お金持ちのお嬢様とそのメイドじゃないの」
「え?じゃあ本当は?」
「それは今からの話でわかるわ」
もったいぶるなあ。
「とりあえずわたし達の目的から話していくわね」
そう言ってリンはポケットの中から、袋に包まれたなにかを取り出した。
「開けてみて。なにかわかる?」
手のひらでにぎれば隠せてしまえそうなそんな大きさの袋。
開けてみると、なんだこれ。石ころ?しかもぼろぼろというか、古いものに見える。
「ぼろぼろな石じゃねえか、お宝か何かか?」
そうは見えないけどな。マリにも見せるが、
「うーん」
反応はイマイチ。
「おじさんは?」
見せようとすると、
「いや、いい」
これがなんだかわかっているみたいだ。
石ころをリンに返す。
「で、これなんだよ」
「これは、この石はこの国の象徴でもあり、強大な力なの」
よくわからない。抽象的すぎる。俺のそんな顔を見て、リンが答えを教えてくれた。
「この石は“マカネ”。聞いたことある?」




