炎の剣5
翌朝。
「…よし」
荷物の準備が終わった。もともとそんなに用意するものもない。ちょっとした装備ぐらいなもんだしな。
女子たちの準備は終わっただろうか。
「おーい、準備終わったか〜?」
「ま〜だ〜!」
マリが大声で返してきた。あいつ、自分の家に帰るだけなのになに準備してるんだ。
まあいいや、マリの準備が終わったらすぐ出発できるようにしておこう。
自分の部屋を出て、居間の方へ向かうと、すでにアイとリンがいた。
「おはよう。もう2人とも準備終わったのか。早かったな」
「おはようございます。わたしたちはそれほど荷物もありませんので…」
アイが答える。
それもそうか。よく見ると、2人の着ている服が昨日と比べて地味になっている。
それでも気品の良さというか、上品さはあるが、これなら俺たちと一緒にいても、貴族の娘とは思われにくいだろう。
「服、マリさんに貸していただいたんですよ」
俺の視線に気づいたのか、アイが教えてくれる。
「そっか、それなら目立たなくてよさそうだな」
と思ったままのことを言うと、
「あなた、もっと気の利いた感想とかないの?似合ってるな、とかかわいいよ、とか」
とリンに突っ込まれる。こちらもアイと同じく、おとなしめな格好に着替えている。
か、かわいいよって。そんな恥ずかしいセリフ言えるか。
かといって似合ってるというのも変だ。だって普段、これよりいい服を着ている訳だし。
「動きやすそうでいいな」
なんとか絞り出した、当たり障りのない感想を伝えると、リンがはあ、とため息をついている。
「いつもこんな調子なの?マリもかわいそうね」
と、呆れた様子のリン。
マリは自分から「似合ってる〜?」と聞いてくるタイプだから返答には困らないんだけどな。
貴族なんかはそういうのが普通なんだろうか。庶民とお金持ちとのギャップだな。
「ごめ〜ん、遅くなった〜」
くだらないことを考えていると、マリの声が聞こえてきた。準備が終わったようだ。
居間に来たマリは大して荷物が多いわけでもない。
「何の準備してたんだよ」
聞いてみると、
「えへへ〜」
としか言わない。
「あ、マリさん、かわいいですね!その服、とても似合ってますよ!」
とアイがほめる。さすがお嬢様。お手本のような返しだ。
感心していると、リンがこちらをにらんでいる。
さっきのことを踏まえると、服装についてなにか言えってことだろう。
「おまえ、自分の家に帰るのに、いつもよりおしゃれしてどうす」
バシッと頭をはたかれる。なんで…?
「さ、こんなやつはほっといて、いきましょう」
リンが(こいつが犯人だろう)2人の手を握って外へ出る。
ほっといてって。車の運転も、ボディガードも俺がするのに。こんな扱いでいいのだろうか。まあ報酬は出るし。貧乏人は大人しく黙って従おう。
俺も3人について家を出る。
「アイとリンは後ろの荷台にのってくれ」
「わかってるわ。こっちの方が姿が隠れるしね」
リンはここまで、アイを連れて逃げて来ただけあって、その辺りのことは、理解しているみたいだ。
荷台には野菜も積んでるので、カモフラージュにはちょうどいいだろう。
「しゅっぱ〜つ!!」
助手席に乗り込んだマリが元気よく拳を空に突き上げる。
後ろの2人も、
「おーっ!!」
と同じポーズ。こいつらほんとに逃げてるのか?旅行気分じゃねーか。
車のエンジンをかけて、出発する。