炎の剣4
机には4人分の温かいスープとパン。それにスクランブルエッグとウインナー。質素だけど、毎日食べるならこういう料理の方がいいのだ。ちなみにマリの手作りである。
「いただきます!」
と4人で手を合わせ、食べ始める。
俺は腹が減ってたから、かきこむように勢いよく食べる。
「いつも2人だからなんか新鮮だね!」
マリが嬉しそうにいう。
「まあな」
とだけ、短く返す。アイとリンの2人はというと、なんか食べ方も上品だ。いいところのお嬢さんとかなのかな?
「ふう、ごちそうさま」
さっさと食べ終わって一息つく。4人全員が食べ終わったところで本題にはいる。
「なんでおまえら、俺ん家にいたんだよ」
できるだけ、いらない圧をかけないように、何気なく疑問をなげかける。
「それは…」
と少し言いにくそうなリン。アイの方を見て、様子を伺っているよう。
アイはこくっとうなずく。
「実は…」
と話し出したリンを遮るようにマリが喋った。
「さっきわたしも聞いたんだけどね」
「まず、アイは王都の方のお金持ちの娘さんで、リンはその家のメイドさんらしくてね」
ふむふむ。やっぱり。さっきもアイ様って言いかけてたしなあ。ていうかメイドさんてほんとにいるんだ。
「それで王都でクーデターが起こったんだって」
クーデターね。はいはい。
「クーデター!?」
思わず流しそうになったわ!まるで「隣の家の人達、旅行行ってるんだって〜」みたいなテンションで言われてもさ!
「いやわたしも最初聞いた時は驚いたのよ」
そりゃそうだ。今日行って帰ってきたばっかだしな。
「そもそもそんな雰囲気なかったろ、いつも通りって感じだったぞ」
「マリさん、クーデターが起こったんじゃなくて、クーデターが起こりそうって言う情報を掴んだだけなの」
リンが口を挟む。
クーデターってなんとなく、平民達が不当な扱いに耐えかねて貴族の家を襲ったりするようなイメージがある。
まあ、襲う目的はいろいろあるだろうけど、金とかな。そもそも暴力を振るうこと自体が目的かも。
「あ、そうだっけ。ごめんごめん。でね、王都が安全じゃなくなるからって、アイだけでも逃そうと、リンを護衛につけて2人で逃げてきたって」
たしかに、集団が暴走し始めれば、標的もなにもあったもんじゃないだろう。
格好がお嬢様っぽいってだけでも襲う理由になりうる。
それ以外に気になることが一つ。
「護衛て。リンは武術かなんかならってたのか?」
リンに話を振ると、コクッ。うなずいた。
どうりで…。やけに鋭いパンチだと思ったよ。リンはメイド兼ボディガードてわけね。
まあ王都に住むような金持ちの娘だもんな。護衛の1人や2人いて当たり前か。
「ケイが起きる前に聞いた話はここまでかな。あとはガールズトーク的な?」
そう言ってマリが話をしめる。ん?
「それがなんで俺ん家で風呂入ってたんだよ」
当然の疑問である。
「そこからはわたしが」
リンが口を開く。
「王都をこっそり抜け出したまではよかったんだけどお嬢様の身分がバレるわけにはいかなかったの」
「お嬢様の正体がバレると悪いやつがよってくるでしょ?だから人目につかないようにしていたんだけど」
「顔、体は汚れるし、汗もかくし、リフレッシュも兼ねて一旦休憩したいと思っていた時に、ちょうど留守だったこの家を見つけたの」
「悪いとは思ったんだけど…ほんとにごめんなさい」
アイとリンはすまなさそうな顔をしている。
「…まあもういいけどさ」
泥棒というか、悪いやつじゃなさそうだしな。
あ。
「もし」
思いついたことをボソボソと喋る。
「もし俺たちが悪い奴らだったら?」
「も〜、勝手に人を悪くしないでくれる?」
マリが口をとがらせていう。
でも、ほんとに俺たちが悪人だったなら。アイとリンを捕まえて、親に金を要求することもできる。
2人はなんでこんな話を俺たちにしたのだろう。
「たぶんそれはないと思った」
リンが答えてくれる。
「家の中を見たら、だいたいその人の性格とか見えてくるのよ。わたしメイドだし」
あ〜。なんか納得。まあ家が片付いてるのは、マリのおかげなんだけどな。
「実は、こんな話をしたのはケイさんにお願いがあって…」
アイが言いにくそうに切り出す。
「風呂に入って、飯も食った上にお願い?あんたら意外と図々しいな」
ゴスッ!とマリにお盆の角で殴られる。痛い。
「冗談なのに」
俺が言い訳すると、
「笑えないのは冗談じゃありません」
めっ、と注意する仕草のマリ。
「ぷっ」
とアイが吹き出した。
「お二人とも仲がいいんですね、うらやましいです」
と微笑むアイ。
「で、お願いってなんだよ」
照れくさかったので話を元に戻す。
「人を探してるの。そもそも王都からこっちに逃げたのも、その人を頼ってきたのよ」
リンがお願いを口にした。
親の親戚か知り合いだろう。避難先としては少し不安が残るが王都にいるよりはマシか。
「昔、王宮で剣術を教えてたみたいで、名前しか聞いたことなくて。ここの近くに、ヨセフって人、住んでない?」
名前を聞いてマリと顔を見合わせる。ヨセフ。それにここの近くといえば…
俺たちの様子を見て、アイとリンが期待のこもった表情になる。
「待ってくれ。ヨセフという名前は知ってる。けど、王宮で剣術を教えてたなんて話は聞いたことない」
無駄に期待させるのも悪いので、俺が知っている事実を全部話す。
「ただ、鬼のように強い剣士でもある。確実とは言えないけど、俺たちが知らないだけの可能性もあるし」
「いえ、ありがとうございます。それだけでも、十分です。その人の居場所をご存知ですか?」
「居場所というか…なあ」
「…ねえ」
マリと2人で頷き合う。
「?」
アイとリンは不思議そうな顔をしている。
「わたしのお父さん。ヨセフって名前で、ものすごく強い剣士なの」
とマリ。
「え!!?」
目をまん丸にさせてアイとリンが驚く。
そりゃそうだ、探し人が意外にも早く見つかりそうなんだから。
「わたしの家はここからちょっと離れてるけどね。よかったら家まで一緒に行く?」
「ぜひ!お願いします!」
おお、アイがすごくくいついてる。
「ついでにもう一つお願い聞いてもらってもいいかしら。もちろん、お世話になったことも含めて、お礼はするわ」
リンが俺の方を見てる。
ここでお礼ときたか。今まで一切そういう話出なかったのに。なんか怪しい。
「なんだよ」
一応聞く。お礼に釣られたわけではない。
「ケイ、あんたボディガードしない?わたしたちの。クーデターがおさまるまで」
ポカンとする。ボディガード?
「なんで?リンがアイの護衛役じゃなかったのか?」
「そうよ。でも女子だけだと不安なこともあってね」
ああ、なるほどな。
「あんた、武術かなんか習ってるでしょ?」
「…まあ」
「お風呂場の時、あんたが手加減して、手を止めてくれなければ気絶していたのはわたしの方だったわ」
「……バレてたのか」
「それに体もよく鍛えてあるみたいだし?」
たしかに風呂場で鉢合わせした時、顔面めがけてパンチしてきたリンに合わせるように、カウンターでリンのお腹に一撃、こちらのパンチが入るところだったのだ。
リンのパンチが案外鋭かったので無意識に体が動いてしまったのだが、ギリギリのところで止めることができた。(マリのチョップのおかげもあるが)その代わりに俺がパンチをもらうことになったわけだが。
「あんたみたいに、腕に覚えのある人がいてくれたら助かるわ。どうかしら」
「うーん…」
あんまり気が進まない。ボディガードって俺に務まるもんなのか?その辺のやつらなら追い払うくらいならできるが…。
「別にそれでいいのよ」
そんなもんかなあ。それに2人の話。なんかちょっと辻褄が合わないところもあったような…
俺たちを騙すつもりでの嘘はついていないと思うが、なにか隠し事でもありそうな感じだ。
俺が悩んでると。
スッ。俺の考えを遮断するように、アイが身につけていた指輪を外して、俺たちの前におく。高そう。さすがお嬢様は身につけるものが違うな。
「こちらがお礼です。わたしの家の宝物の指輪です。売れば1000万ほどにはなるかと…」
「1000万!?」
マリと2人で驚く。まじか。これだけ稼ぐのに何年かかるか。計算しても虚しくなるのでやめた。
気が変わらないうちに受け取ろう。
「ありがと…」
指輪を受け取ろうとすると、アイが指輪をバッと取る。
「ただし、ボディガードも引き受けていただけたら、の話ですが」
「……」
コイツ。お嬢様のくせに抜け目ないな。意外としっかりしている。
「ねえケイ。ボディガードくらい、いいじゃない。してあげなよ」
マリの目が¥マークになってる。だめだこりゃ。
「…はあ。わかったよ」
しぶしぶお願いを聞いてやる。まあ実際、マリの家まで案内するだけだからな、それだけで大金が手に入るなら楽勝だろ。あの辺は治安もそんな悪くないしな。
「ほんとですか!?それではよろしくお願いしますね!」
アイが喜ぶ。なんか上手くのせられた気がしないでもないが…まあいいか。
ーーーその夜。
マリのお父さん、ヨセフさんに会いに行くのは明日ということになった。というのも、今すぐにでも行きたいというのがアイとリンの考えだったのだが、2人ともかなり疲れているように見えた。家の方が不安なのもわかるが、休める時に休んでおかないとな。
今は2人ともベッドで休んでいる。
俺はというと寝るところがなくなったのでソファーに寝っ転がっている。
俺も今日は疲れた。明日に備えて早く寝ようーーー