炎の剣20
廊下で少し休んでから、アル兄と2人で広間まで戻る。
あっちの様子も気になるが、さすがにヘトヘトだ。
「おっと…」
足に力が入らなくなって、ぐらっとする。
「大丈夫か、ケイ」
アル兄がすかさず肩を貸してくれる。
アル兄もボロボロだが、さすがに英雄なだけはある。まだ余力がありそうだ。
「助かる」
いつもなら強がるところだが、俺にはそんな元気もない。アル兄の好意をありがたく受け取ろう。
体を支えてもらいながら、やっとのことで広間に戻ってきた。
リンたちには逃げろ、と言っておいたから、さすがにもういないだろうが、念のため確認しにきたのだ。
「おーい」
呼びかけると、広間の置物の陰からゴソゴソ。リンたちが出てきた。
「…おい、逃げろっていったのに…」
「…えへへ、下手に逃げるより隠れてた方が良いかなと思って。それに…」
リンが少し気まずそうな顔をした後、ニコッと笑って、
「ケイならなんとかしてくれるかもって」
そんなに期待されてたのか?なんとかってほんとによかったよ…。
「お前な…」
少し照れくさい。
「ほとんどアル兄のおかげだったけどな」
俺は謙遜なしにそう思ってる。
「さすがにもう、一件落着か?」
と、王様。
「はい。おそらくこれ以上襲撃はないと思います。そもそも私がクーデターを起こしたことを、あの少女はどのようにして知ったのか。人払いはしましたが、私の部下にもこのことは話していなかったので」
「そうか。…今なんと言ったのだ?」
王様の顔が険しくなる。
「マカネ使いとは少女のことだったのか?」
「ああ、ガキンチョのくせに生意気で、自分は戦わず、人形を操って戦わせてたよ」
「ふむ。そのようなマカネ使いがいるとは聞いたことなかったな。これから何も起こらなければいいのだが…」
コホンと王様が咳払いする。
「…話は変わるが、アルフレッドよ。お主には今回の件の責任をとってもらわねばならない」
「…はい、もとよりそのつもりです。覚悟はできております」
責任をとる、ということは。
「…まさか処刑なんてことはないよな?」
「…」
アル兄も王様も何も喋らない。
許してやってくれないか、なんてことはそう簡単には言えない。王様だって命の危機に晒されたんだ。
だけど、このままだとアル兄が…
みんなが黙り込んでしまう。
数分間続いた沈黙を破って、考えたことを話す。
「…あのさ、王様」
「?」
「さっき王様が言ってた、あの、世界を見てきてほしいってやつ。それ行くからさ、処刑とかはなしにしてもらえませんか?」
頭を下げてお願いする。
「おい、ケイ。それは…」
アル兄が口を挟んできた。
「さっきのやつと戦ってわかったよ。望もうが望むまいが俺はもう、ああいうやつらと戦える力を持ってしまってるんだよな」
手甲を見ながら話す。
「アル兄はさっき、もうマカネを持ってなかったのに、俺たちを逃がそうと戦った」
「あの時はそれが一番の方法だったんだ。それに、私が言ったことなら気にするな。私の考えを喋っただけだ。ケイが私の処刑と引き換えに無理にやる道理なんてない」
「まあ最後まで聞いてくれよ」
「力のあるなしなんて本当は関係ないんだ。それに立ち向かえる心があるかどうか。それが重要なんだよな」
俺はアル兄のそういうところが眩しかった。
「最初はさ、なんで俺が、って思ったよ。だけど今はこれでアル兄が助かるならって思えるよ」
「ケイ…」
アル兄は納得がいかないような顔をしていたが、もうそれ以上は何も言わなかった。
「お主の話はわかった。…でも残念だが、これだけのことを起こして、お咎めなしというわけにはいかんのだ」
「そんな…」
「アルフレッドよ」
「はい」
アル兄が王様に跪く。
「お主の騎士団の任を解く。そして…」
「王様!」
大声をだして王様を睨みつける。
「…うるさいのお。お主も最後までわしの話を聞け」
「そして、ケイと一緒に世界中をまわってくるがよい。それをお主への罰としよう」
「!?」
アル兄が驚いた顔をして顔を上げる。
「この国を救ってくれた、もう1人の英雄に免じてな。もちろんお主の今までの功績も考慮してだが。表向きには国外追放ということにしておく」
「…はっ。ありがとうございます」
アル兄が深く頭を下げる。
「…王様!ありがとう!」
「なに、礼には及ばんよ」
ホッとした。でもそれならそうと言ってくれよな。王様ももったいぶっちゃって。
はあ〜、でもこれで全部解決か。そう思うと突然体から力が抜けていき、景色が斜めになっていく。
「…ケイ!」
誰かが俺の名前を呼ぶ声が聞こえたが、返事をすることはできなかった。
ーーー
『…い』
何か聞こえる。
『…おい』
これは、誰の声だ。わからない。
『おい!』
突然聞こえた大声にびっくりして、起き上がる。
ん?ここはどこだ。一面真っ白じゃないか。というより俺は今まで寝てたのか?
…少し思い出してきた。安心したら体中から力が抜けて倒れたんだっけ。
『やっと起きたか』
後ろを振り向くと、真っ白な空間にポツンと、声の主がいた。
そいつは、一言で言うなら鎧。詳しくいうと鎧の腰から上のパーツだけが空中に浮かんでいる。
胴の部分だけでなく、腕の部分と、あと兜も。
「…お前誰だよ」
目の前の不思議すぎる出来事はスルーして、とりあえず聞いてみる。
『誰って、さっき散々助けてやっただろうが』
…この声。聞き覚えがある。アル兄との戦いの決着の間際に聞こえてきた声だ。
「…まさか、マカネなのか?」
『そうだ、しかしただのマカネじゃねえ。俺様にも名前ってもんがある』
「名前?」
『ああ。××××ってんだ』
「…なんて?」
他はしっかり聞こえてるのに、名前らしき部分だけ聞き取れない。
『…まだ早いか、まあいい。本題に入るぞ』
どういうことだ?
『いいか、お前に力を貸してやったんだ。次は俺様の言うことを聞け』
『ーーーをーーーろ。わかったな?』
『とりあえず言いたいことはそんだけだ、また機会があれば会うこともあるだろうが。じゃあな。せいぜい頑張ってくれや』
鎧が手を振って離れていく。
「おい、待てよ、もうちょっと説明をーー」
そう言いかけたところで突然視界が眩しくなって、思わず目を閉じてしまった。
ーーー
「はっ!?」
ガバッと起き上がる。ここは…。
見たことない部屋だが、雰囲気でなんとなく、城の部屋の内のひとつであることに気づいた。
どうやらベッドに寝かされてたみたいだ。
ということはさっきまでのは夢?
「…マカネを集めろ?」
鎧の名前はわからなかったけど、最後に鎧が言っていたことを思い出した。
いったいどういうことなのだろうか。
頑張ると言っておきながら前回の投稿より1ヶ月以上も空いてしまい、スイマセン…。
一応、次の章から新しいマカネのお話を始めていこうと思います。
ここまで読んでいただいた方、ありがとうございました。
よろしければこの先もよろしくお願いします。