炎の剣19
前回の投稿からかなり期間が空きまして、申し訳ないです…。今後もがんばっていきますので、お付き合いいだたければとおもいます。
広間を出て、廊下の窓で一息つく。
はあ。いろいろなことが起こりすぎて頭がついていかない。最近同じことばかり考えている気がするなあ。
俺は勢いでここまで来たけど、その後のことなんて考えちゃいなかった。
王様やアル兄はああ言ってたけど、俺にはこの国の平和とか世界のバランスとか、そこまでの責任は取れないし、覚悟もない。
当たり前だが、人は自分ができる以上のことをしようとすると必ず破綻する。たまに、それは自分の可能性に蓋をしているだけだ、ということを言う人がいるが、それこそ無責任だと思う。
断って正解だ。窓にもたれかかって、星空を眺めながらぼーっとしていると。
「…大丈夫?」
リンだ。
「なんとかな。ケガもそこまでしてないし…」
「それもだけど、さっきの話のことよ。…あ、その前に」
「…今回はほんとうにありがとう。おかげでアイ様も王様も、そしてわたしも助けられた。感謝してもしきれない」
リンが深く頭を下げる。
「気にすんな。報酬目当てでやったことだ。あ、そういえば、まだ指輪もらってなかったな。早くくれよ」
少し照れくさいので話を逸らす。
「そのことなんだけど…」
とリンが言いかけた時。
「…おい、ケイ」
今度はアル兄がやってきた。
「お、アル兄。どうしたんだよ」
「私もお前にお礼をしなきゃと思ってな。…私の暴走を止めてくれてありがとう。でもまさか、ケイに負ける日が来るとはな」
アル兄がさっきまでの硬い表情から顔をほころばせる。
「普段のアル兄だったら絶対無理だったな。やっぱりマカネのせいでおかしくなってたんだよ」
王様がそばにいないからだろうか、俺のよく知るアル兄の雰囲気だ。
「どのみち私の未熟さが招いたことだ。…鍛錬は続けてたのか?」
「うーん、親父がいなくなってから畑仕事はしてたから、筋力とかはある程度ついてたかもな」
「畑仕事?それだけか?」
「ああ」
「もしかしたら、それが鍛錬になるように親父さんが仕掛けてたんじゃないのか?」
「あの親父がそこまで考えているとは思わないけど。思いつきで行動する人だし」
「いやいや、意外とわからんぞ」
ハハ、と2人で笑い合ったところで、今度はアル兄がリンに話しかける。
「…リンもすまなかったな。怪我はしてないか?」
「いえ。わたしとアルフレッドさんとでは差がありすぎたので。逆にそれが幸いしました」
「…そうか。父さんも無事だっただろうか?」
「まあ少し怪我してたけどピンピンしてたよ。不思議なくらい」
「よかった。父さんにも謝りに行かないとな。…?」
アル兄が暗い廊下の奥の方を見つめてる。
「…どうしたんだ?」
「シッ。…おい!何者だ?」
突然、廊下の奥の方へ大声で叫ぶ。
「あれ?クーデターは?もしかして失敗しちゃったの?なぁーんだ、期待はずれ。英雄様も大したことないんだね」
少女の声だ。それもかなり幼い。
「…ケイ。構えろ」
アル兄が腰の剣を抜く。
「なんだ、誰かいるのか?」
「わからん。少なくともこの国の兵ではないようだ」
アル兄からピリッとした雰囲気が漂ってきた。
まじかよ、これ以上また何か起こるのか?
「あれれ?いつもの炎の剣は?あたしもなめられたもんだね〜」
…月明かりで、俺にもその声の主がみえてきた。その声の通り、幼い少女だ。10歳前後に見える。
それとその横に並んで歩く人物。こっちは普通に大人のようだが…
おかしい。やけに黒い。というか暗い。体の大きさ、形的に人、それも大人というのがわかるくらいで、男か女かもわからない。少女の方ははっきりと、見えるくらいなのに。
「マカネか?あんなものに頼らずとも、私にはこの剣技がある!」
アル兄がいきなり少女の方へと斬りかかる。
ギイィン!!
アル兄と少女の間に、謎の黒い影が割り込み、攻撃を防いだ。
「マカネはマカネでしか対抗できない。まさか忘れたわけじゃないよねえ?」
今度は影が腕のようなものを振りかぶってアル兄を殴ろうとするが、アル兄はそれを回避。距離をとりながら一撃いれたみたいだが、それもガギィン!と弾かれる音が聞こえたのみ。
「…チッ」
アル兄が悪態をつく。よく見ると攻撃を回避したはずのアル兄の服が削り取られてる。これは俺との戦いでできたものじゃない。
服だけではなく剣もだ。あの黒い影に触れた部分がボロボロに朽ちている。まさか…
「ケイ!リン!王たちを連れて今すぐ逃げろ!」
「アル兄は!?」
「私はここで時間を稼ぐ!早く!」
「そんなことしてる暇があるのかなあ?」
少女がおかしそうに笑う。
「もったいぶってないで、マカネを使えばいいのに」
影がまた腕を振るった。その大振りの攻撃をアル兄は剣で受け止めず、大きな動きでかわす。
「コイツには剣が通じない!早く行け!長くは持たない!」
「でもアル兄は!?」
「いいから!行け!」
アル兄が叫ぶ。
「いきましょ!わたし達がいても足手まといだわ」
「…クソッ」
リンと2人で広間の中へと駆け込む。
「どうした?」
王様とリンがキョトンとしている。
「城にマカネ使いが!今アル兄が戦ってる!早く…」
王様の手をふと見ると、さっき王様に返したマカネの手甲がある。
「…リン」
「…なに?」
「リンは2人を連れて逃げてくれ」
「あんたはどうするのよ!」
「…ここにマカネがある」
そうだ。マカネはマカネでしか対抗できない。アル兄はマカネを持ってないが、俺はこれが使える。迷ってる時間もない。
王様の手から手甲をもぎ取り、装備する。よし、アル兄のもとへもどろう。
足元にさっきの戦いで折れた、炎のマカネの剣も転がっている。ついでにこれも持っていこう。
「ちょっと!」
リンの声を無視して、廊下に出る。
「アル兄!」
「ケイ!?なんで戻ってきた!」
そういうアル兄の服はボロボロ、剣も形をなしていない。
マカネの剣をアル兄にぶん投げる。
「…これは」
「ないよりマシだろ」
「…でも」
「またおかしくなったらぶん殴ってやるよ」
「…そうだな、頼んだ」
折れたとはいえ、マカネの剣。さっきまでの剣よりはずっと戦いやすいだろう。
アル兄は剣に炎を纏い、折れた部分を補うように、剣を炎でかたちどる。
2人で構えをとった。
「なあんだ、マカネを使わないんじゃなくて、壊れて使えなかったんだ!」
バカにしたように笑う少女。
「それに、2人になったところであたしに敵うと思ってるの?」
少女はかなり余裕そうだ。
「うるせえ、戦ってるのはお前じゃなくてそっちの影だろ。偉そうにすんな」
「…ふん。弱いくせに。やっちゃえ!」
少女の命令により、影の動きが激しくなった。
「ケイ、見てわかっただろうが、あの影に触れるとどうやら侵食されるみたいだ」
「…ああ」
わかってなかった。だけどその侵食がマカネの力なら、俺の手甲で対策できるはず。
俺たちのおしゃべりを遮るように、影が大振りのパンチを繰り出してくる。俺は手甲でうまく影のパンチをいなし、カウンターで影の腹の当たりーこの影を人間に例えるならだがーパンチをお返しする。
「!?」
少女は驚いた様子だ。
影が少しよろめく。その隙を狙ってアル兄が炎の剣で追撃に入るが、浅い。
影はそのまま少女のところまで後退する。
「…あんた、おもしろいマカネを持ってるのね」
「今だけの限定でな」
「…ふーん。まあいいや」
影がヒョイっと少女を持ち上げる。そして肩車状態になった。
「いいものも見たし、今日は帰るわ」
「おい、待てよ。逃げんのか?」
「やめろ、ケイ」
「強がっても無駄だよーだ。英雄さんはよくわかってるみたいだけど」
本当のところ、俺もアル兄も、もうこれ以上は戦える状態にはない。
相手が退いてくれるなら、それに越したことはないけど、少女の余裕がむかつく。
「じゃあね、ケイ。また会おうね!」
バイバイ、と手を振る少女。逃げられる前にぶん殴ってやろうと影に近づいたが、少女と影は暗闇にとけるように消えてしまった。
なんだったんだ、あいつ。
「なあ、あいつもマカネ使いなのか?」
「おそらくな。クーデターのことをどこで聞きつけたかは分からないが、混乱に乗じて、なにか企んでたんじゃないか」
「…もうさすがになにも起こらないよな?」
廊下にへたり込みながら聞く。
「起こらないでほしいな」
アル兄が苦笑いする。
とりあえず一件落着。としたい。