炎の剣15
「…そりゃあ、あれから時間もたったしな。そういうアル兄こそ、ずいぶん変わったみたいじゃないか」
いいのか悪いのかダメージはほとんどなさそうだ。
俺は会話を続ける。
「…なんでこんなことしたんだよ」
「…こんなこととは?」
とぼけやがって。
「クーデター起こしたり、おじさんを襲ったりしただろ!」
「ふむ…」
顎に手を当てるアル兄。何か考えているようだ。
「昔、人々を守るんだって言ってたろ。なんでこんなことになってるんだよ!」
「ケイ、お前は勘違いをしている」
「私のその思いはずっと変わらないよ。そこにいる王と、父さんがそれを邪魔しようとしたから、排除しただけさ」
排除って…
「なんでそうなるんだよ…全然わからねえ」
「わかってもらわなくても結構。…だがケイ、お前が私の邪魔をするというなら、容赦はしないぞ」
アル兄が腰に下げていた、鞘から剣を引き抜いた。ピリッと空気が張りつめていく。
あれがアル兄の持つマカネなのか?
「心配しなくても、お前程度に本気は出さんよ」
俺の疑問を感じ取ったのだろうか。
「これはほんの挨拶がわりだ」
アル兄が剣を構える。…くる!
パッと姿が消えた。と思ったら俺の目の前に現れた。速い!
剣が、上から下へと振り下ろされた。
俺は両腕を頭の上で交差しとっさに防御する。
ギギンと金属同士がぶつかり、火花が散る。
(…重っ…!)
俺は横に飛んで、剣から逃れた。アル兄から距離を取る。
すかさずアル兄が剣を横に薙ぎ払ってきた。もう一度腕を交差し防御する。
だが、俺の体勢が悪く、そのまま部屋の壁まで吹き飛ばされる。
「カハッ…」
一瞬呼吸が苦しくなる。
今追撃されたらやばい。
けど、アル兄はさっきの位置から動いてない。
「…なるほど。いいものを持っているな」
アル兄としてはさっきの一撃でほんとに終わらせるつもりだったのだろう。これがなかったらやばかった。
実は自分の家にあった、おそらく親父が使ってたであろう、手甲を装備してきた。
手の甲から肘近くまである。つけた感じはそこまで重くなかったけど、結構丈夫みたいだ。
ないよりはマシか、と思ってつけてきておいてよかった。
今のうちに呼吸をととのえる。
「今ので終わらせるつもりだったんだがな。成長したじゃないか」
余裕の表情のアル兄。くっそむかつく。こっちは受け止めるだけで精一杯だってのに。
今度はこっちから仕掛けてやる。
剣でも槍でもそうだけど、武器を持つ相手には思い切って近づいてしまった方が安全なこともある。
中途半端に距離を取る方が危ないのだ。
背中の壁を蹴って、その勢いのままアル兄の懐に飛び込む。
一瞬で距離を詰める。顎を狙って下から上へと拳を突き上げた。だが。
パシッと片手で簡単に受け止められた。強い力で握られて離れない。
アル兄がもう片方の手に握っている剣を無造作に振り下ろす。
このラインだと二の腕からぶった斬られる。ここは手甲では守られてない!
「おおおおおお!!」
俺は手を握られたまま体を半回転させ体をアル兄の下に潜り込ませる。
そしてそのまま、力任せに背負い投げをする。
アル兄が投げられながら剣を振るうが、ここはガードが間に合った。
…あぶねえ。腕を切り落とされるところだった。
アル兄も綺麗に着地した。くそ。追撃をする暇もない。
「…お前は」
アル兄が喋り始める。
「…お前は、この国をどう思う?」
「?」
質問の意図はわからないが、この間に作戦でも考えるか。
「…考えたことないな」
「まあ、それが普通だろう。それだけこの国が平和ってことだ」
「だがそれは表面上の話だ。…マカネの話は聞いたか?」
「ああ」
「そうか。それなら話が早いな」
「私は騎士になってから、この国の、いやこの世界の現実を見たよ」
「各地ではマカネを手に入れるための争いが頻発してるんだ」
「騎士や兵士だけでなく、なんの力も持たない国民が巻き込まれることもある」
「人々を守るには力がいる。マカネが。マカネ使いが!」
口調がどんどん荒くなっていく。
「アル兄?」
「世界を平和に導くためには、マカネを集めなければならない」
「なのに!そこの男は!マカネを破壊するなどと!馬鹿なことを言い出した!」
「そんなことをすればこの国がどうなるか!」
「…だからクーデターを起こしたのか?」
「クーデターではない!むしろ私がこの国を守ったのだ!」
「その王では国は守れない。だから私が代わりに守っていく」
「父さんにも一緒に国を守ってもらえないか、協力を頼んだがダメだった」
「父さんも自分の力を高めることしか頭にないような男だ」
「そんな奴らは全て私の敵だ。この国の敵だ」
「…だからおじさんも斬ったのか」
拳をギュッと握る。
「そうだ」
「…アル兄がしたことで、誰かが泣いても、誰かが傷ついても、お構いなしかよ」
「そんな目先のことに囚われては私の目的は達成できない」
「ふざけるな!」
つい叫んでしまった。
「ふざけてなどいない。世界を平和にするためにはどうしてもある程度の犠牲は必要なんだよ。それくらいわかるだろ?」
「わかんねえよ。自分の家族までもを、犠牲だなんて言い切れるような奴の考えなんてな!」
「アル兄がマカネを集めたいってことは、また争いが起きるんだろ?守りたい人々を傷つけてまですることかよ!」
「それは仕方のないことだ。未来のことを考えれば少しの犠牲ですむ」
「アル兄ッ!ほんとにどうしたんだよ!」
「お前は現実を見ていないだけだ。今こうしている間にも苦しんでいる人々は大勢いるんだ。痛みを少しでも減らしたいなら、どうしたって犠牲はでるん
「うるせえ!!」
力任せにぶん殴る。アル兄の顔に拳がめり込んだ。
「だからっておじさんを斬っていいわけないだろ!マリを泣かせていいわけないだろ!なんでそんなことがわからないんだよ!」
感情のまま殴り続ける。
「だいたい自分の家族も守れないやつに世界を守れるわけないだろ!」
「なあアル兄、なんで変わってしまったんだよ…」
なぜか涙が出てくる。
とうとうアル兄がよろめいて、膝をついた、その時。
アル兄の周りから炎がゴオッと巻き上がる。
炎の熱さに思わず後ずさる。
「…私の邪魔をするというなら」
アル兄がさっきとはちがう、炎を纏った剣を手にしている。
まさか、あれがアル兄のもつ、炎のマカネなのか?
「お前も斬ってやろう」