炎の剣13
王城・王の間
アルフレッドがアイを肩に担いで、王の間にやってきた。
腕を縛られて身動きの取れない王の隣に、乱暴に降ろす。
「きゃっ!」
「…アイ!無事だったか」
「…お父様!お父様もご無事でなによりです」
親子の再会も束の間、アルフレッドが口を開く。
「さあ、マカネの在処を教えてもらえませんか」
「マカネは私は持っていませんわ」
「宝物庫から持ち出したのはあなたでしょう」
「そうだとしても、あなたが乱暴に扱うから、どこかに落としたのではなくて?」
アイがプイッとそっぽをむく。
はあ、とため息をつくアルフレッド。
「言いたくないのなら仕方ありません。おおかた、一緒にいたあのお世話係が持っているんでしょう」
「少々面倒ではありますが、お世話係に聞きにいくとしますか」
「リンはわたしを守ってくれただけです!マカネとは関係ありませんわ」
アイが語気を強める。自分たちの命運は目の前にいる男に握られていると言うのに、一歩も引かないこの心の強さはさすが王族といったところか。
「まあ関係あろうがなかろうが、どっちでもいいんですが」
アルフレッドが窓から城の外を見渡しながら言う。
「…ほら、そうこう言っているうちに向こうからやってきたみたいですよ」
「!」
窓に駆け寄ると、城に向かってくるリンの姿が見えた。
少しホッとするその反面、リンだけ城にやってきたと言う事実に少なからず、落胆するアイだったが。
(リンも無事でよかった…ケイさんたちも本来ならわたしたちとは無関係の方ですし、これ以上巻き込むわけにもいきませんものね…ケイさんたちは無事なのかしら…)
「ケイなら来ないと思いますよ」
「!?」
アイが驚く。
アルフレッドはそんな様子を気に止めることもなく、昔話を始めた。
「ケイとは幼い頃からの友達でした。歳が近いこともあって、稽古の相手にちょうどよかったんです。昔のあいつはとても泣き虫で、稽古でも、私に勝てたことは一度もなかった。そんなあいつが、なんであなた方と行動をともにしてたかはわかりません。が、あいつでは私には敵わないでしょう。それはケイ自身もよくわかっていることだと思います」
「…全てお見通しですのね」
「ケイさんには、ボディガードをお願いしただけですわ。まさか、あなたとケイさんがそんな関係だったとは…」
「…そうですか」
「今の私を見ればがっかりするでしょうね、あいつも」
「なぜ?」
「自分で言うのもなんですが、私はケイの憧れだったようです。でも今は…」
「なにやってんだよ、って言われてしまうかもしれません」
「…少し喋りすぎました。とにかく私は私の目的を達成するまでです。そろそろここに着く頃じゃないですか?」
言い終わるのと同時に扉をドン!と勢いよく開けて、リンが飛び込んできた。
「…アイ様!王様も!よくぞご無事で」
2人に駆け寄るリン。アルフレッドが行手をはばんでいる。
「…おっと。きたばかりで悪いが、マカネ、持ってるんだろう?こちらに渡してもらえるかな」
「持ってるけど、先に2人を解放しなさい。マカネはそれからよ」
「…いいだろう」
解放したところで、リンが素直にマカネを渡すわけがないが、この小娘に自分をどうこうできるわけもない、とアルフレッドは考えた。
別に逆らおうがなにしようが、力ずくで奪えばいいのだ。
素直に渡すならそれでよし。そうじゃなくても面倒ごとが少し増えるだけ。
どう転んでもアルフレッドが優勢なのには変わらなかった。
リンの希望通りに2人を解放してやる。
「さあ、解放したぞ」
「わかってるわよ。これでしょ」
リンがポケットから袋を取り出す。マカネだ。アルフレッドにはわかった。オーラのようなものを感じる。
「えいっ」
窓に向かって袋を投げた。コツンとぶつかって転がる。
「なんの真似だ」
「あんたのことを信用してないだけよ。自分で拾って。あんたが剣を振るえば、わたしたちはなすすべがないわ。なるべく近づきたくないのよ」
「…ふ」
思わず笑ってしまった。アルフレッドからリン達のところまで、数メートル。この程度の距離、アルフレッドにとってはなんの意味ももたない。何か変なことをしても、一瞬でリン達を斬れる。
「わかったよ」
窓まで向かっていき、マカネを拾うためにしゃがんだその時。
窓の向こうからガラスを突き破って何かが飛んできた。
それはアルフレッドの顔面を直撃し、アルフレッドはその勢いで床を転がる。
「…よう、久しぶり。アル兄」
その声の主は、ケイだった。