炎の剣12
一旦頭を整理しよう。
アル兄がクーデターを起こす。
アイとリンが、おじさんを頼りに王都から逃げる。
アル兄がおじさんに協力を求めにくる。で、断られておじさんを襲う。
アイがアル兄にさらわれる。
まとめてみたはいいけど、どれも信じられない。
ほんとにアル兄の仕業だとして、なにが目的なんだろう。
「あ、そういえば、なんでアイはマカネを持っていたんだよ?持ち出した、とか言ってたけど」
「…これは王宮の宝物庫に保管されていたものなのよ。このマカネには言い伝えがあって、『救世のマカネ』と呼ばれてるの」
しまったマカネを取り出しながら説明してくれる。
「これを使える人ももう何十年と現れてないみたいだから、実際どんな力があるかはわからないんだけど」
「救世って言うくらいだからね、危機的状況でしか反応しないのかも」
「私も以前、それを手にしたことがあったが、なんの反応もなかったな」
「…そうでしたか。また状況が変われば違う結果になると思ったのですが」
「アルフレッドにも負けてしまったしな。力になれず申し訳ない」
おじさんが頭を下げる。
「いえ、そんな、こちらこそ…。身勝手なお願いをしてごめんなさい」
リンも慌てて頭を下げた。
「…なあ」
「?」
みんなの注目が集まる。そんなに見られるとちょっと恥ずかしい。
「アル兄はその救世?のマカネを手に入れたかったってのと、国を建て直すために、おじさんに協力を求めたかった。この2つの目的が偶然にも一致して、今回のことが起こったってわけだよな」
さっき、頭の中でまとめた考えを話す。
「…そうね」
「おじさんの協力は得られなかったけど、そのマカネを持ち出したと思われるアイをさらった」
「もし、アイがマカネを持ってないと知ったら?」
「…あ」
リンがハッとする。
そうだ。マカネを手に入れるためにアイをさらった。でも持ってないことがわかれば。
「…わたしたちをまた襲撃に来る?」
「そうかもしれないし、アイも危ないだろうな」
「…!!」
「…あんまりしたくない想像だけどな」
でも自分の親を襲ったんだ。もう昔のアル兄じゃないのかもしれない。マカネを持ってないことに逆上してアイを傷つけたりすることも、十分考えられる。
「どうしよう…」
しまった、リンが落ち込んじゃったよ。
「それはない。とは言い切れんが」
とおじさん。
「アルフレッドにその気があるのなら、あの場で私達を生かしておかずに、マカネだけを奪い取れば済む話であろう」
「そうか、わざわざさらったってことは…」
「そういうことだ。言葉は悪いが、アイ様にまだ価値があると、アルフレッドは考えているだろうな」
「じゃあ、早く助けにいかなきゃ!!」
リンは今にも飛び出しそうだったが。
「落ち着きなさい。マカネは私達のところにある。それはアルフレッドも、いずれわかるはずだ。もうわかっているかもしれないが」
おじさんがなだめる。
「もう一度、アルフレッドと接触するチャンスはある。あちらが来るか、こちらから行くか。そのどちらかでな」
「…なんでそんなことがわかるんですか?」
リンの問いにおじさんは、
「私達が生きているのが何よりの証拠さ。アルフレッドは誰も殺したりはしていない。様子はおかしかったが、根っこのところでは私達のよく知るアルフレッドなんだろう」
おじさんの言うことにも納得はできる。できるが…。
俺たちはアル兄がきっとそんなことをするはずがないと、心のどこかでそう思っている。むしろ間違いであってくれと。身内びいきの願望がはいっている。
だがリンはそうじゃない。アイのことが心配で仕方ないはずだ。俺たちみたいな楽観的なことは考えられるわけもない。さっき飛び出そうとしたように、今すぐにでも助けに行きたいんだろう。
「…なあリン」
「…なによ」
よし、決めた。
「アイを助けに行こうぜ。ついでにアル兄にも会って、話聞きたいしな」
そうは言ってもなんの手がかりもなし。アル兄に会えたところで、状況が良くなるかどうかもわからないけど。
「…本気?」
「まだボディガードの役目も終わってないし。じゃないと報酬、もらえないだろ」
「…でも…」
「もしアル兄が間違ったことをしているようなら、目を覚ましてやらんとな」
そうだ。アル兄に文句の一つでも言ってやらなきゃ気がすまない。これは身内である俺の役目だろう。おじさんは怪我人だし、マリは危ないところには連れて行けないしな。
「…ありがとう」
リンが涙ぐみながらぺこり。
「いいよ別に」
少し照れくさいのでそっけなく返したが。
女の子が困ってるんだ。助けなきゃ男じゃないよな。それにアル兄なら絶対助けるはずだ。
…とカッコつけたものの。
もしかしたらアル兄とぶつかり合うことになるかもしれない。そうなったら俺はちゃんと戦えるだろうか。
そもそも、アル兄には一度も勝ったことはないし、なんなら一撃も当てたこともない。しかも、おじさんですら負けてしまっている。
…話して解決すればそれが1番なのだが。まあマカネを渡して、自分たちの身の安全を保証してもらおう。
などとダサい解決策を考えているのであった。