炎の剣10
「…負けた?おじさんが?アル兄に?それって稽古の一環で試合したってこと?」
おじさんは首を横に振る。
というか。
「それがなんで火事になるんだよ」
単純な疑問。それにあの時おじさんは床に倒れてたんだぞ。たかが試合でそんなことになるのか?
と思ったけど、さっき否定されたんだった。
「まあ話を聞きなさい。マリも。お前が家を開けていたあいだのことだ」
突然話を振られたマリが佇まいを整える。
「アルフレッドの夢を覚えているか?」
「うん」
「あいつは昔から正義感が強くてな。私が昔、王国の騎士団に入っていたこともあって、それに憧れていたみたいだった」
「おじさんみたいにかっこいい騎士になって、みんなを守るんだってよく言ってたな」
「ケイが道場破りに来なくなって、それからマリがケイの家に行くようになって、ちょうどその頃に、アルフレッドが自分の夢を叶えるべく、騎士団に入ったんだ」
「…そうだったんだ。なんでわたしには何も教えてくれなかったんだろ」
マリがつぶやく。
「マリは争いとか戦いは好きじゃなかったろ。騎士は常に危険と隣り合わせだしな。アル兄は心配かけさせたくなかったんじゃないのか?」
「まあそんなところだな」
「騎士になって、アルフレッドの活躍ぶりはすごかったようだ」
「そりゃおじさんが師匠なわけだからなあ。勝てる奴いるのかよ」
「戦場での華々しい戦果だけでなく、人助けの話もよく聞いたよ。むしろそっちの方が多かったくらいさ」
「…なんというかアル兄らしいな」
強さだけでなく優しさもあったことを思い出す。
「アルフレッドが英雄と呼ばれるようになるまで、そう時間はかからなかった」
「国で1番の騎士になったころ、国王様から国の宝であるマカネを授かったらしい」
「マカネを扱えるのも、選ばれた人間のみ。だからマカネを授かるというのは、騎士にとっては最高の名誉なのだ。剣士としての実力も認められ、国の宝を預からせてもらえるわけだからな。私も騎士団にいた頃に、同じマカネを授かる機会があった」
へえ、おじさんが。この人鬼のように強いのに。マカネって魔法みたいなのが使えるんだろ?まさに鬼に金棒って感じだな。
「昔の私はただ強さのみ追い求めていた。騎士団にいたのも、国を守るというよりは、強者と戦いたくて、だったんだ。マカネを手にすれば、さらに限界を伸ばせる」
「でもさ、おじさん。おじさんの持ってたマカネは今アル兄が持ってるんだろ?国に返しちゃったのか?」
「ああ、そのことなんだが…マカネを使って戦ったところで、私が欲しい強さは手に入らなかった。初めの方こそ、私の剣技とマカネの力が合わさって勝てない相手はいないと、そう思えるほどだったが、それはマカネありきの考えだろう?」
「私は自分の技術がどこまで通用するか、それを知りたかっただけなのだ。それを知るのにマカネは必要ないと思ってな」
「…あと気になることが一つ。マカネからなにか禍々しいものを感じた。私は嫌な予感がして、マカネを手放したのだ」
「しばらくは自分の剣技で他のマカネ使いとも戦っていたが、限界を感じてな。そこで王国の剣術指導にまわったというわけだ」
「話が逸れてしまった。どこまで話したかな」
「アルフレッドさんがマカネを授かったところまでです」
ずっと黙っていたリンが口を開く。
「そうだった。ここからが今回起きたことと話が繋がってくるのだが」
「お前達がうちにくる前にな、先客がいたんだ」
「先客?」
「アルフレッドだよ」
「アルフレッドはこう言っていた。
『俺は国を守りたい。そのためには今の王ではだめだ。お父さんにも協力してほしい』
と」
「私は現役を引退した身だが、騎士団に復帰して欲しいということだったのだろう。だが、私はそれを断った」
「どうしてさ」
「いまさら私が復帰したところでなにもできることはないよ。アルフレッドも今の私以上の力をつけていたしな」
…ん?ちょっと待てよ。
「今の王はだめだって今の王様をアル兄はよく思ってなかったってこと?そしたらリンのクーデターの話って、まさか…」
「そういうことだ。おそらくアルフレッドがクーデターを起こしたのだろう」
…そんな。信じられない。あの優しいアル兄が。どうして。自分から人々が傷ついてしまうような状況を作るなんて。