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音楽! 2

「エリーシャルお嬢様、どうしてこちらに?」


「え、えっとね……いえ」


 そんなのこっちが言いたいっ!


 などと言える訳もなく口ごもる。まさに墓穴を掘るとはこのことだ。

 私の「乙女の夢計画」の一番の障害であるアッシュがいない日の時間を狙ったつもりが、逆に飛び込んでいたとは。しかしこれはどういうこと?


「アッシュ、今日の僕たちのレッスンはエリシャに見学してもらうことにしたから。君も普段のようにエリシャの従僕だということは忘れて、レッスンに集中して」


「はい、キリアスお坊ちゃま」


「ここで、お坊ちゃま無しだって言っただろう?バルトラ男爵家の息子として一緒に令息教育を受ける約束だよ」


「……はい。キリアス様」


 そう答えたアッシュは、無表情だけれども、どことなく沈んだような表情を見せる。


 バルトラ男爵家の息子?アッシュが?

 私はまだ貴族のあれこれをよく知らないが、そう言われてみればアッシュの仕草は、他の従僕たちと比べても格段に洗練されていた。キリアスお兄様とアッシュは同じ年だし、何か理由があって従僕をしているんだろうか?


 首を真横にしながら、はてさて?と考えていると、そのアッシュからビシバシと首筋に突き刺さってくるものがある。


 『後でお聞きしますからね』無表情のままアッシュが、視線だけでそう伝えてきた。うん、逃げよ。


 せっかく頼み込んで叶ったピアノレッスン見学会だったのに、全く集中できなかった。

 いかにしてアッシュの猛追から逃げようか、一生懸命考えた。しかしそれに頭を使いすぎていつの間にか眠ってしまい、その間にレッスンも終わってしまっていた。うんがー。


***


「それで、一体どういったお話でああなったのでしょうか?是非ともエリーシャルお嬢様のお言葉で説明していただきたいのですが」


 眠っている間に運ばれた私は、自分の部屋で目を覚ました。そしてきっちりと従僕服に着替えたアッシュから質問を受けている。


「えーとね、お兄様たちのピアノがどうしても聴きたくてお願いしたの」


「その割には熟睡されていましたね。しかも、随分大きな声で寝言?いえ、歌を歌っていらっしゃいましたし」


「ぐふぅ!え、や……本当?」


 白々しく答える私と、コクリと静かに頷くアッシュ。

 うわぁ、ヤバい。無理を言って見学させてもらっておいて、寝るだけならともかく寝言でレッスン妨害していたとは。これではお兄様たちに二度とお願いを聞いてもらえなくなるかもしれない。


 参ったなあ、早めに謝らないと。でもお兄様たちには夕食の時間でいいか。

 レッスンの先生には、次の機会に謝るとして、まずはすべきなのは、目の前にいるアッシュだろう。


「ゴメンなさい、アッシュ。練習の邪魔をしちゃって」


「え?」


 アッシュがどうしてお兄様たちと一緒になってレッスンをしていたのか気になるにはなるけれど、どうも今の私には考えてもわからないことのようなので、もうそれはスパーンと横に置いておく。

 けれども邪魔をしたのは間違いないので、きっちりと謝らなければいけないと思う。


「先生も怒っていたでしょう?ちゃんと全部私が悪いからって、謝るからね、ね。だから、また見学させてください」


 そう言って、ぺこりと頭を下げた。

 下げたまんましばらく待っていたけれど、アッシュからは何も言葉が返ってこない。


 ありゃあ、これは結構怒ってる?

 ちらり、目だけを上げてアッシュの様子を見てみると、片手を口元にあて、そのブルーグレーの瞳をこれでもかと大きく見開いていた。ん?


「……アッシュ?」


「あ、……それは、別に構いませんので、頭をお上げくださいませ、お嬢様」


 表情をほとんど変えることのないアッシュだけれども、意外とその感情はわかりやすい。

 特に私が「男のするもの」に興味を持つと、絶対にさせるまいというくらいの勢いでダメ出しをするし、やり過ぎれば無表情を通り越して真顔でキレる。


 そんなアッシュが、あそこまで素の顔で驚いているのを見たのはこれで二回目だ。

 つまり、私が初めて「それは男のするものです」とたしなめられた時と、今。


 んー、これってなんだろう。怒っているのとは、違う感じもするんだけど……


「エリーシャルお嬢様は、本当に……いえ、ただ、今後は必ず僕に話を通してから行動なさるようにしてください」


 えー、だってそうするとほぼほぼ止められるじゃん。だから黙って見学チャンスをゲットしたのにー……という考えは完全に読まれていました。


「……なにも、お嬢様のなさりたいことを全て止めるわけではございません」


「はーい……」


「侯爵家の令嬢として相応しくないことには賛同はしかねますが、お嬢様が節度を持って行動されるようであるのならば、僕が責任をもって出来うる限りご希望を叶えるお手伝いをしていきたいと思っております」


「え、本当!?」


「音楽を嗜むことは、貴族の令嬢としての趣味としても勧められるものです。それに、ご教授いただいている先生も高名な作曲家でありますから何ら問題はありません」


「じゃあ、いいの!?」


「はい。先生からも、ぜひ次のレッスンにもお越しくださいとお言葉をいただけましたので」


 やったー!アッシュからも、ピアノの先生からもレッスン参加のお墨付きをもらったよ。

 へへへ、今度こそ小さいながらも乙女の夢への一歩進んだね。


 前世で楽器は鍵盤ハーモニカ、リコーダー、カスタネットの三種類しか触ったことはないから楽しみだなあ。

 上手に弾けるようになったら、窓辺でレースのカーテンが揺れる中、乙女の祈りなんかを弾いてみたい。サビしか知らないけど。


 スキップしたくなるような気分で、脇をきゅっきゅと動かしていると、アッシュが不穏なことを言い出した。


「先生は、エリーシャルお嬢様の寝……歌を大変お気に入りされたようです。もう一度聴かせて欲しいと切望されていました。一体あれは、何の歌なのでしょうか?」


 ……マジか。


 いやー、はっはっは。それは私も自分自身に問いただしたい。

 素面で歌うのはちょっと恥ずかしいから、推しアイドルの歌じゃないと願っておこう。


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