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音楽! 1

 さて、この世界で女として「男のするもの」を極めてやろうと決心はしたものの、相変わらず従僕アッシュに阻まれ続けられている、エリーシャル・コベリットです。


 つい先日の新年の鐘と共に七歳になりました。

 ここでは王国民が新年を迎えるとともに一斉に年をとるようですよ。


 そして銀髪の、素晴らしく美しいアッシュも十三歳。


 今日も私が「男のするもの」に手を出そうとすると、まるでそれが危険物かのように目くじらを立て、手の届かないところまで追いやってくれる。


 邪魔されている方が言うのも何なのだけれど、とても優秀な従僕だ。


 この世界では従僕とは貴族の身の回りの世話をしてくれる人のことである。

 だからお父様にもお兄様たちにも専属の従僕がついている。勿論、男の。


 そして成人女性にもなると、専属の従僕から侍女がつくことになるらしい。

 なんだか生まれ変わり以前の知識からすると、逆じゃない?と思ったけれども、そもそもここでは男女の立場が逆だった。


 ということはここでの成人、十四歳になるまでの残り七年間、私はこの無表情アッシュと付き合うことになる。


 長いよね。

 本来ならばアッシュを攻略して、「男のするもの」の手伝いをしてもらうよう努力するべきだと、頭ではわかっている。

 けれど私は一刻も早く乙女の夢を叶えたい。


 だからちょっとだけ方向性を変えることにしてみた。


「お父様!私、お兄様たちのピアノのレッスンを拝見したいのですが、よろしいでしょうか?」


 アッシュが私に付かない時間、朝食の席でお父様とお兄様たちとのおねだりしてみました。

 食事の場には給仕専門の従僕がいるからね。


 しかも「やりたい」ではなく、「見学したい」と、あくまでもソフトに。


「エリシャが、ピアノ?いきなりどうしたの?」


「えーと……ほら、たまに聴こえてくるので、とても気になっていたんです。お兄様、上手に弾けていらっしゃるかなって」


 ふっふっふ。今日の午前中、しかも早い時間にレッスンがあるというのは前もって確認していたのだ。


 しかも偶然にも今日の午前はアッシュも休みだし、ここは是が非でもうんといってもらおう。


「うーん、エリシャがねえ……」


 おっと、ものすごく不審がられている。

 楽器の演奏って少し軟派扱いはされるけれども、女がやってみてもギリ許容範囲内だと思ったのに。


 急がば回れという訳で、まずはお兄様方の習い事の見学から始めよう作戦はいきなり失敗か?


「ピアノは楽器だということ、本当にわかっている?」


「もちろんです」


 お父様が何気にひどい。


「え……絶対に近寄らないでね」


「も、もちろんです」


 小さい方のスレイドお兄様も言いぐさがキツい。まるで私が何かすることを前提に話をしている。


 ぷうっと頬をふくらませて抗議の意を示すと、「まあまあ」と、お母様似である大きい方のキリアスお兄様が、私たちの間に入ってくれた。


「エリシャももう七歳です。いくらなんでも昔みたいに、ピアノの屋根の中にカエルやトカゲやコカトリスの幼体などは入れないと、僕は信じていますよ」


 やっちゃってるよ、過去の自分んん!!


 やんちゃとかそういうレベルじゃなかった。

 しかもなんか、さらっとコカトリスとか出ていたけれど、それって伝説の動物みたいなやつだよね。どこで捕まえたんだろう?


 半分現実逃避しながら、そんなことを考えていると、キリアスお兄様がお父様たちに向かい後押しをしてくれた。


「芸術は心を豊かにするだけではなく、気持ちを安らかにするもの。エリシャも芸術に触れることによって、静謐な心を学ぶ良い機会だと思います」


「そうだね、キリアスの言う通りだ。せっかくエリシャが大人しく芸術を嗜みたいと言うのなら、危険を冒してでもチャレンジさせるのも親の務めだと思う」


「お父様とキリアスお兄様がそこまでいうのならば、ぼくも我慢します」


 ええと、私ってなんていう災厄?

 スレイドお兄様に拳を握りしめながら我慢させるほどなのね。


 ヒクつく頬に、ぐっと力を込めて「お願いします」と約束を取り付けた。

 まずは乙女の夢へ一歩近づけたと喜ぶべきなんだろうな。ちょっと自分の心が痛んだけど。



 早速、朝食後に行われるレッスンのためにピアノ室へ直行した私は、今か今かとお兄様たちがくるのを待っている。


 男女逆転しているこの世界、男は結構な頻度で着替えをするんだよね。

 ドレスでもないのに、何をそこまでと思うこともあるけれど、これがまたお父様を筆頭に、美人なキリアスお兄様や可愛いスレイドお兄様によく似合う。


 そしてふとアッシュを思い出した。


 従僕の制服に身を包んでいるアッシュは、まだ十三歳だけれどもこの屋敷で働いている人たちの中でも群を抜く顔立ちだ。

 特にあの輝くような銀髪はちょっとそこらでは見当たらない。


「うーん、お兄様たちもすごい美人だけど、アッシュもお兄様たちに負けていないからなあ。同じようなものを着ればめちゃくちゃ格好いいと思うんだけど」


 誰もまだ来ないと思って、一人ごちる。

 すると、いつの間にか開いていた扉の方から、んっん、と小さな咳払いが聞こえた。


「褒めてもらえて嬉しいよ、エリシャ」


「ふぁ、がー!?あ、あ?」


 にっこりと微笑み両手を軽く広げるキリアスお兄様。

 さすがは来年には成人する年齢だけあって、とても貴族らしい優雅な仕草だ。

 グリーンのジャケットがきりっとした顔立ちを一層引き立てている。


 しかし私が驚いたのはそこじゃない。


 その綺麗なお兄様の後ろに立つ、同じように美しいアッシュの姿を見たからだった。

 銀糸の飾りや刺繍が入った明るいブルーのジャケットが本当に似合っている。


「ア、アッシュ?」


 なんでここにアッシュがいるの?


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