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庭園! 4

 今日は新しく砂を入れるということで張り切って来たのだ。

 及ばずながら私もお手伝いをしようと、ちゃんと汚れてもいい服に着替えてきた。


 運ばれてきた白っぽい砂がざらざらと私の庭に投入されていく。

 随分と綺麗な砂で、これから下土と混ぜていくのが勿体ないくらいだ。


 その砂を見ている内に、なんとなく前世の浜辺の砂を思い出してしまった。


 そういえばローカル局の番組で、ビーチバレー対決みたいなことをやったなあ。

 あの時、私は砂の城を作ってみたかったのに、ベビーフェイス八草(はちくさ)(そう)になぜか体を埋められて、ビキニコブラの砂場アートの一部にさせられたっけ……


 一度仕返ししてやろうと思う前に、こんなことになってしまった。


 懐かしくもムカつく思い出に浸りながら、砂を混ぜ切ってしまう前にと、木の棒でクマさんとハートを書いてみた。


 ああ、癒される。


「おや、絵を描いていらっしゃるのですか?お上手です」


「あ、いえ。これは……」


「オーク?いや、ゴブリンかな?女の子はみんなモンスターが好きですよね」


 いやそれなんだ。どんな女の子?


 せっかくおばちゃん親方が笑顔で褒めてくれたけど、なんかいたたまれないので慌てて消す。


「とても良い砂ですから、遊びたくなるのもわかりますよ」


 おっと、恥ずかしがって消したと思ったみたいだ。

 フォローしてくれる気持ちは嬉しいけれど、違うんだな。

 まあ壊滅的に絵が下手な私も悪いので、上手くごまかしておこう。


「砂浜みたいでとても綺麗だなって思ったんです。ほら、線が波みたいでしょ?」


 棒で砂に線を入れる。これくらいなら簡単だ。


 ずずーっと小さな岩まで持っていくと、おばちゃん親方の目の色が輝いた。


「まあ、お嬢様の言う通りです」


 にこにこと笑いながら、お嬢様は素晴らしい感性を持っていると持ち上げられる。


 いつもアッシュには注意されてばかりだから、たまにはこういうのも悪くない。


 ドヤ顔で、そうでしょう!

 と、いきっていたら、突然そのアッシュから声がかかった。


「エリーシャルお嬢様、御家内様がお帰りになられました」


「え、もう?あと五日くらいなかったっけ、二人とも帰って来たの?」


「いいえ、御家内様だけだそうです」


 お母様と領地視察へ行くといって十日留守にすると言っていたのに、お父様だけがもう帰って来た。


 ……ということは、あれだ。


「お母様がまた、お父様を怒らせたの?」


 私の問いに、おそらくと返すアッシュ。


 だよねー。そうでなければお父様を溺愛してやまないお母様が離すわけがない。

 そして、普段優しいお父様がそこまでして帰宅したということは、もうひと悶着あることは決定事項だ。


「アッシュ……叔母様のお宅へ避難しますっ!」


「はい。キリアス様とスレイド様もすでに向かわれました」


 お兄様たち行動早いな、おい。


 私も一刻も無駄にできないのですぐに馬車へと向かう。

 お父様に捕まったら、泣かれ抱きつかれて逃げられない。とと、その前に……


「親方、あとは全部任せます!よろしくー」


 なんとかそれだけでも伝えると、親指をぐっと上に立てた返事をもらった。


 よしよし、これで思い残すことはない。しばらく非難している間に、私の庭も綺麗に可愛くなっているだろう。

 とにかくお母様たちケンカに巻き込まれないようにと、先を急いで逃げ出した。



 それからお母様方の妹であるケンドレ伯爵家でいとこたちと遊んで過ごしていると、十日ほど経ってからお母様たちがお肌ツヤツヤのニコニコで迎えに来た。


 うーん、この夫婦何やっているんだか。もう爆発しろ!と言いたくなるくらいの迷惑カップルだ。


 しかし、いい加減私の庭の様子も気になっていたので、素直に二人について帰ろう。

 全部おばちゃん親方に丸投げしてきたけれど、どんな風になっているかな?


 にまにましながら馬車に乗っていたら、機嫌のいいお父様から声をかけられた。


「エリシャの庭、美しく出来上がったようだよ」


「え、嬉しい!」


「エリーシャルのセンスに触発されたと、庭師たちが言っていたのよ。あの場所があんな風になるとは思いもよらなかったわ」


 お母様からもお褒めの言葉をもらった。


 これは、期待以上の出来!?嬉しい、嬉しい。早速見に行くぞ、私の庭よーーーっ!



「って…………は?」


 家に帰ってきて、速攻で私の庭へきたものの、目の前の光景に唖然とする。


 大きな岩には苔と低木、転々と間をあけてバランスよく置かれた岩。

 そしてその下には砂がびっしりと敷かれていた。

 しかもその砂にはレーキで綺麗に跡が残っている。まるで小島と波を連想させるその姿は――


 どうみても枯山水です。


「いやいやいや、なにこれっ?私のイングリッシュガーデンは、どこーっ!?」


 何故こんなことに?とがっくり肩を落とす。

 そういえば、おばちゃん親方、妙に砂に跡を付けるのを気に入っていたな……


 ちょっと遠い目をしながら庭を眺めていると、アッシュが私の隣へときた。

 めずらしく口元に薄っすらと笑みまでたたえている。


「お嬢様らしい、大変シンプルで趣のあるお庭になりましたね。とても落ち着く空間です」


 アッシュからの本気の褒め言葉に「いや、カラフルでごてごて可愛くしたかった……」と、ごにょごにょ口ごもりながら涙を飲み込んだ。しょっぱかった。


 その後この様式は我が侯爵家の名前を取り、コベリット風と呼ばれ、侘び寂を好む年配の女性たちに好まれたとかなんとか。


 とにかく私は、このシュラーゲン王国に、一つの新しい庭の形を爆誕させてしまったのだった。


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