庭園! 3
「どうやら、塀が老朽化していたみたいで、お嬢様のご要望通りに木を切っていましたら、こう、ボロボロと崩れてしまいました」
庭師のおばちゃん親方が申し訳なさそうに報告してきた。
「良くも悪くも、あの木々が塀代わりになっていたようですね」
そこをアッシュが真顔で考察をする。
なんということでしょう。
など、どっかのナレーションが頭を駆け巡ったけれど、これはすぐにでもどうにかしないとまずい。
となり……隣の屋敷の住人って、どんな人だったっけ?
ええと、侯爵家である家の隣だから、それなりの身分なんだろう。確か気の良さそうなおじいちゃんが住んでいた気がする。
それでも他所の家に迷惑をかけたとなると、ただ怒られるだけではすまないだろう。
今はちょうどお母様がいないからいいけど、バレたらお仕置き間違いなしだ。
「とにかくすぐ塀を直して!凝らなくていいから、一番早く出来る方法で!」
「残りの木はいかがいたしますか、エリーシャルお嬢様?」
「どうしよう、アッシュ?」
「ここまで崩れてしまいますと、そちらも時間の問題かと。どうせならば一度に手直ししてしまったほうが、後々手を入れやすいと思います」
うん。だよね、私もそう思う。
じゃあ。と、今家にいる庭師全員に声をかけてもらい、隣の屋敷には家令さんとアッシュに修理の連絡を入れてもらうことにした。
全部こっち持ちで直すので、怒らないでね、お隣さん。
その間に、私は庭師の一番偉いおばちゃん親方と打ち合わせをしよう。
「ねえねえ、この岩は動かすのは大変?」
「運べないことはありませんが、その場合、大きな荷車を入れて御家内様のお庭を突っ切らないと無理でしょう」
はい、却下。
お父様の庭の花を傷つけたら二度と庭には出られない気がする。
それくらいならこの岩たちと共存するわ。
「んー、じゃあ岩はそのままで、まずは低めの木をいくつか植えて欲しいなあ。花の綺麗な」
「そうですね……どうかなあ?」
んん。何か問題でも?
首を捻ると、おばちゃん親方がぽりぽりと頭を掻きながら言った。
「この場所は水場から遠い上に、粘土質で土が固いのであまり花向きではないかもしれません」
「え、でも、あれだけ木がいっぱい生えてたよね?」
「はい。それが、どうも壁の下から隣の裏庭にある溜め池の水を取り込んでいたようで。さすがに壁を直してしまえば、それも」
お隣の水源を無断使用していたってことか。
そりゃあ、知らなかった時は仕方がないけれど、知ってしまったからには使えない。
そういえば、岩のある場所には苔は生えているけれども植物という植物は生えていなかったっけ。
そうするとまずするべきは、土壌の改良になるのかな?
うーん、と考えていると庭師のおばちゃんが、自分の胸をドンっと叩き請け負ってくれた。
「まずは砂を入れてみます。どれだけ改善できるかはわかりませんが、せっかくお嬢様がお庭に興味を持たれたのですから、精一杯務めさせていただきます」
「本当?ありがとう!」
この気合の入りよう、頼りになるなあ。もう全面的に任せちゃう。
やっぱりこういうのは専門家にお任せするのが早いよね。蛇の道は蛇っていうじゃない?
ニッコリ笑ってお願いをする。
アッシュが迎えに来てくれて頃には、昨日に増して気分が上がっていた。
そうして三日ほど続けて通っているうちに、段々と他の庭師のお姉さんたちとも仲良くなっていった。
やっぱりこの世界、力仕事は女の仕事というだけあって、みんな体つきは普通の女性なのにめちゃくちゃ力持ちだ。
けれどもさすがに、庭師の仕事中はスカートではなくズボンを履いている。
お母様がズボンを履いている姿を見たことがなかったから、女性のズボン姿は新鮮だった。
いくらなんでもスカートじゃあ仕事はし難いもんね。
そんなことをぽろりともらしたら、お姉さんたちが突然にやにやっと笑い出した。
「あらあら。お嬢様にはちょーっと早いかなあ」
「ん?」
「まあねえ、別にコレじゃなくても私は気にしないんだけど。ほら仕事中はさあ」
「んん?」
何を言いたいのか全く分からない。
だから意味を教えてとお願いしようとしたら、アッシュから思いっきり釘を刺された。
「エリーシャルお嬢様には関係のないことです」
無表情を崩さずにそう言うと、お姉さんたちが小さく肩を竦めて仕事に戻っていった。
ま、いいか。あんまり変に突っ込むよりも、目の前の庭の方が大事だし。




