庭園! 2
でもやっぱり言うことを聞いてくれるつもりはなかったようで……
アッシュに連れてきてもらったそこは、大きな木々が集中して生えている陰鬱な場所だった。
その鬱蒼とした木の間を抜けていくと、ぽかんと開いた空間に、岩がごろごろと転がり、いくつかの低木が点々と生えている。
しかもなんだか足もとがじめっているし、苔生えているよ。
「アッシュ、ええと……花はどこ?」
「花があるとは言っておりません」
そうだっけ?言ったか?言ってないな。
確かにアッシュは、手を付けられていない場所としか言っていなかった。
くっ、騙された。
捻ったままの首をそのまま動かして周りを見てみると、なんだろうこれ、元東屋?
休憩用の場のようなものがあるけれど、ところどころ痛んでいて、どうみてもここは忘れられた場所という感じだ。
「花、花……花……あ、雑草みっけ。って、違う!」
「お嬢様、ここならば庭師に了解も得ましたので、お好きにしてもよろしいのですよ」
相変わらず淡々と話すアッシュ。
そうか、つまり花壇と温室に入るのを止められた私が、やけになって無理矢理突撃しないためのガス抜きとしてここを提供してくれたということか。
この秘密基地みたいな場所で、ごつごつした岩に乗ったり、岩から岩へ飛んだりして発散しろと言いたいのだろう。
ま、まあちょっとそれも楽しそうだけれど……と、私の中のやんちゃな部分がほらほらと騒ぎ出す。
う、う。けれども違う。
前世の記憶を思い出す前のエリーシャルには悪いと思うけれども、やっぱり私が私であるからには乙女の夢を追っていきたい。
少なくとも場所はある。ここなら好きにしていいと言質も取った。
多分ここは、お父様好みの花壇や温室を作るときに邪魔になった岩や植物を置くための場所なのだろう。
つまり、花がないのなら花を植えればいいじゃない。そうだ、そうしよう。
いっそのこと東屋も修理をして屋根部分をパーゴラみたいにしてもいい。
うん、私専用の英国風隠れ家の庭なんて素敵だ。
きらきらと木漏れ日の落ちるガーデンに、ふわりと風になびくショールを羽織って、花を愛でる、ワ、タ、シ。
完璧な執事姿のアッシュがアフタヌーンティーのワゴンを引いて、真っ白いテーブルクロスの上にお茶を並べる。
あはは、うふふ。
なんて素敵な、花に囲まれた隠れ家のような東屋でのティータイム。
おおう。これは、いける。
にやにやと自分の世界に浸っていたが、アッシュの軽い咳払いで現実に引き戻された。
「それではここをお使いになられるということでよろしいでしょうか」
「使う!……じゃなくて、使います。ただ、ちょっと変えて欲しいところがあるかな」
「はい、そこは庭師へと連絡いたします」
よし、これでここは私のものだ。さてそうするとこのスペース、どうやって綺麗にしていけばいいのか。
周りのもさもさした木のせいで日当たりが悪く、どうにもじめっとした雰囲気がある。
「じゃあ、まずはこの辺りの木を切って欲しいの」
「こちらですか?」
「うん。木が大きすぎて日当たりが悪すぎるから。それから芝生をひきたいな」
「はい」
メモも取らずにアッシュは頷く。
いつも無表情で返事をするから、最初は全然聞いてないんじゃ?と思ったこともあったけど、今ではそんなことはないとわかっている。
とにかくアッシュは頭が良く一度聞いたことは忘れない。だから安心して希望をつらつらと上げていく。
「東屋も、やっぱり屋根はちゃんとあったほうがいいから直してもらって。花は……これはあとでいいか」
ざっと気になった点だけ伝えると、庭師の仕事としては予定外のものになるので、一度話を持ち帰ると言う。だから、後はアッシュに頼んでお終いにした。
うん、今日はとても有意義な一日だった。
いよいよ乙女の夢へのスタートをきれたかと思うとウキウキがとまらない。明日もまたあの私専用のお庭へ行って、どうするかを考えよう。
そんな幸せな気分でベッドに入れば、その夜の夢は勿論私が主役だった。
女の子らしく可愛いものでいっぱいの部屋にいる私。
ああ、これよ、これ!これこそが私の思い描いていた夢だ。
嬉しくなって、とても綺麗なレースのクッションを手に取ろうとした。がしかし、何故かそれは私の手からすり抜けていく。
「ちょっ、待って!」
必死で掴もうとするも、ふわんふわんと浮かんで逃げていく。気がつけば、周りにある他の可愛いものたちも同じように浮かび始めた。
「えええ!?やだ、やだ、え?」
何度飛びついても、届かない。
そうしているうちに、突然風船が割れるように、ぱしゅ、ぱしゅ、っと一つずつ音を立てては消えていく。
「だ、だ、だ、だめーぇえ!!」
慌てて飛びつき、なんとか一つだけでも指に引っ掛けることが出来た。
よし、まずはこれだけでもと思い、その掴んだはずのものをぎゅっと抱きしめると、なんだか温かい。
「ん?これ、なんだったっけ?」
掴んだのを確かめようと、その手を緩める。すると、とてもとても綺麗なそれは真面目な顔をして静かにこう喋り出した。
「お嬢様、それは『男のするもの』です」
いぎゃぁああ!!
驚きのあまりに目が覚めたらベッドの下に落ちていた。
侯爵家の分厚い絨毯のお陰で体は全く痛くないものの、心はめちゃくちゃしんどかった。
「…………正夢、じゃないよねえ?」
なんとなく嫌な予感がしたけれど、アッシュから庭は午後になってからと言われたのでそこは我慢した。あんまり反抗して、あの庭まで出禁を食らってしまったらシャレにならない。
そんなわけで、昼食の後ゆっくりと私の庭へと向かう。
すると昨日の今日だというのに意外にも手入れが進んでいた。
「うわぁ、すっきり……いっ!?」
いや、本当に思っていたよりもかなりすっきりしていた。
鬱々とした木々が三分の一ほど切り倒され、空がはっきりと見える。ついでに隣の貴族の屋敷の裏庭まですっきり見えた。
隣との塀が半分くらい壊れている。え、ダメじゃん、これ。




