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庭園! 1

 乙女と言えば、花でしょう!


 何度かチャレンジしたもののアッシュに邪魔をされて刺繍のしの字にもたどり着けない。


 なので若干不本意ながらも、乙女の夢も少し休憩タイムとすることにした。

 それでもただ黙って過ごすのもなんなので、少しでも乙女っぽいことをしてみようと思う。


「花、ですか」


「うん。じゃなくて、そうよ。おほほ」


 この世界、言葉づかいも前世と同じように女言葉男言葉で分かれている。

 戦争や政治に力仕事なんかを主に女性がやっているにもかかわらず。


 だからあんまりぞんざいな言葉を使うと、アッシュの目がキランと光りお説教タイムに入るから要注意だ。


「私もゆっくりと花を見てみたいの」


「見るだけでしょうか?」


 おっと、すこぶる信用がない。


 それもこれも、一本杉から落ちる前の私の行動にも問題があったのだから仕方がない。薄っすらした記憶から引っ張り出せるだけでもそこそこ酷かった。


 まず、居住スペースを守らない。

 貴族という者は基本、子どもは自分の部屋と子ども専用のスペースで生活する。

 ただし家の場合は、お父様がとにかく子煩悩で、出来るだけ子どもの面倒を自分でみたいとお母様と話し合いをした結果、屋敷の中かなりのスペースは解放されていた。


 だが私は、そんなのすらお構いなしであちらこちらに出没してはいたずらをして回っていたようだ。


 その過ぎたやんちゃの行き着いた先が、家の敷地を出た上での一本杉転落事件だった。


 ここまでやらかしている私だから、アッシュも簡単に警戒を解いてはくれない。


「私がお邪魔してもいい花壇の一つや二つくらいあるでしょ」

 

「花壇や温室も、一つや二つではございませんが、少々確認したい問題がございますのでお待ちください」


 そう言い残し、部屋を出ていった。


 最近ようやくわかってきたことだけど、ガチガチに固いアッシュは、とにかく問題を嫌う。


 だから私が「男のするもの」に手を出そうとすると、無表情ながらもダッシュで止めに入る。

 時々その表情が真剣すぎて、まるで「普通」でないものが悪のように思っているように見えてしまうほどだった。


 確かにこの女尊男卑の世界において、「男のするもの」に手を出そうとする私の方がおかしいのかもしれないけれど……


 でも、諦めきれないんだよねえ。


 可愛らしい私が美しく咲き誇る花とたわむれる姿……いいな、すごくいい。


 うっとりとそんな乙女らしい姿を想像していると、アッシュが帰って来た。


「まず、コベリット侯爵家の庭の花々は、侯爵様が花好きの御家内様のために整えられたと言って過言ではありません」


 あー、うん。知ってた。お母様はお父様のためなら月の石でも氷の花でも取りに行くのも躊躇わないというくらいべた惚れしている。


「つまり、侯爵家の花々は花弁一つであれ御家内様のものということになります」


「そ、そうね」


「ですから、御家内様のご了承も得ずに花を愛でられるということは、僕たちが勝手には許可出来ることではありません」


 ズコー。


「いえいえ、ちょっと!別に、見るだけでいいのよ。私、なにもしないよ」


「ええ、ですからこのお部屋から存分に堪能していただければよろしいかと思います」


 私の部屋の窓の外には、大きな木と、夏の盛りを過ぎて下を向き、しおしおになった茶色のヒマワリの花。それだけ、オンリー。


「ちょ、待って。あの、ここヒマワリしかないみたいだけど?しかも、花は完全に萎れちゃってるよ!」


「はい。どうせならおやつに食べられるものがいいとのエリーシャルお嬢様のお言葉通りに、御前の花壇はそのように御家内様が手配されました」


 エ、エ、エ、エリーシャルぅう。ダメだ、この(わたし)


 思考回路がほぼ小学校低学年男子だった。ダンスィーだ。

 いや、この世界だからジョスィーとでもいうのか?


 ちょっと遠い目をしている私に向かい、アッシュは追い打ちをかける。


「それからお嬢様にはこのヒマワリ畑以外の花に一切近づけないようにと、庭師全員に言い渡されているようですので、他の花壇や温室に立ち寄ることは不可能です」


「なんでーっ!?」


「そうですね。サルビアやツツジの花弁を全て引き抜いて蜜を吸ったり、魚釣りの餌に虫が欲しいのだといって花壇の土を掘り起こしたり、植え替えの花の上で犬同士を競わせ全滅させたりとしたからでしょうか」


 ひどっ、自業自得か……


 いや、しかし、今の私ならばそんなことはしないと約束できる。

 なぜなら目指すのは花を纏う乙女チックな私なのだ。


「お、お父様にお願いしちゃおうかな?ね、アッシュ、お父様の許可があればいいんでしょう?」


「はい。けれども今は無理です」


「はい?」


「侯爵様が御家内様を伴われ、領地へと視察に参られましたから。お帰りは、十日後となります」


 う、ぐ。何という間の悪さ。

 でも、だったら黙ってこっそり温室へ行っちゃえばわからないんじゃないかな?

 そんな私の浅知恵は見透かされていた。


「勝手に入り込んだことがバレましたら、どうなるとお思いですか?」


「…………ですよねー」


 生まれ変わってから、お母様の威圧感に押されていたものの、実はこの侯爵家限定で言えば一番恐ろしいのはお父様の方だった。


 いや、見た目は本当に可愛らしくて、心も慈愛に満ちている。

 少しくらい怒っていても逆に微笑ましいくらいなのだけれど、ある一定の線を越えると、とんでもなく扱いにくくなる。


 それはもう盛大に拗ねるのだ。そして拗ねたお父様のご機嫌を取るためにならば、お母様はなんだってやる。


「お父様を拗ねらせると、お母様からのお仕置きが三倍きつくなるから……」


「そうですね。ですから、エリーシャルお嬢様には花壇や温室には近づいてくれるなというのが、庭師含め、屋敷で働く者の総意です」


 それを確認してきたのかいっ!


 くっ……指の爪を噛んで悔しがっていると、アッシュがやめましょうねと言いながらそこへ手を乗せてきた。


「ですが、一か所だけ、御家内様が手を付けられていない場所がありますので、そちらへとご案内しようかと思います」


「え、いいの!?」


「はい。そこならば大丈夫だと、庭師にも言っていただけましたので」


 さすがはアッシュ!

 ありがとう。ずーっと全然言うことを聞いてくれないケチな従僕だと思っていたけど、ちょっとだけ考え直すね。


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