告白!
さて、アッシュへの説明のお時間です。
なんて軽い感じで言ってみたものの、馬車の中の空気はものっすごく、重い……
いやもう本当に、多分自分の葬式でももうちょっとこう……いや、あの馬鹿のことを思い出すのでこれ以上は考えないようにしよう。本当にイライラする。
あの後、八草にはスピアーからニードロップのコンボをぶちかましてやり、ダウンさせてやった。
そうして急ぎ馬車まで戻って来たのだけれど、馬車の前で一人お通夜のように立ちつくしているアッシュを見た瞬間、「あ、これ全部吐かないと納得してくれないヤツ」と理解してしまったのだ。
しかし、どうやって話をしていいものか悩む。
これ前世がどうのって話をしてもいいの?普通ならとてもじゃないけれど、信用なんて出来ないよねえ。
「……エリーシャルお嬢様は、公女様とはいつご面識を得られたのでしょうか?」
ふんぐっ……!
話しあぐねている私にじれたのか、とうとうアッシュが自ら切り込んできた。
「僕は今までずっと、エリーシャルお嬢様の一番近くに仕えているのだという自負を持っていましたし、一番信頼されていると思っておりましたが、どうやらそれはうぬぼれだったようですね……」
「え、いや。そんなことないって!アッシュは私の従僕で、一番、すっごく大事な人だよ!」
「……しかし、私は公女様との交友を知らされておりません」
「いやあんなのとは友達じゃないし」
「そのわりには、随分と親しげな雰囲気でした。内緒の話があるなんて……」
なんだろう。めちゃくちゃアッシュがしつこく食いついてくる。
そりゃあ、あの時確かに部屋から追い出すような形になっちゃったけど、それはアッシュをのけ者にしたかったわけじゃないんだけどな。
「だいたい、こっちでは初めて会った……とと」
「こちら、とは……では、以前にも、どこかで?」
あああああ、アッシュの無表情が、大きく崩れてなんか泣きそうだ。
ダメ、泣かないで。そうじゃなくて、と声を上げようとしたところ、馬車の扉がノックされた。
スレイドお兄様たちがお茶会を終え、もうすぐこちらへやってくると聞かされる。
「アッシュ……続きは、後で話すね。ちゃんと、話すから」
私の言葉に頷くと、アッシュはあっという間に元の無表情に戻っていった。
***
お茶会を終えて避暑地の邸宅に帰ると速攻でお父様とキリアスお兄様に連行され、私が余計なことをしていないかどうかを徹底的に聴取させられた。
そうでなくても馬車の中でスレイドお兄様に、ソーネリカ……様はもういいや。そのことを根掘り葉掘り聞かれてうんざりしているのにまたかと言いたかった。絶対に言わなかったけど。
そんな気疲れのする一日を終えて、私は部屋にアッシュを呼び寄せた。もう寝るだけの準備をしていた私はベッドの上に座り、アッシュはその横に静かに立つ。
「信じてもらえるかわからないのだけれど、これは私にとっては本当のことなの……あのね、私、生まれる前の記憶がある。ううん、思い出したの」
そう前置きをして話し始めた。一本杉から落ちた後で、前世の生活を思い出したこと。その世界では、こっちの世界とは女らしさと男らしさが反対なのだと。
一通り話し終えると、それまで静かに私の話を聞いていたアッシュが大きく長い息を吐いた。
「つまり、エリーシャルお嬢様は……いえ、とても、不思議なお話で……僕の頭が悪いのか、その、申し訳ございません……」
あー……これ、信じてもらえてないな、うん。
そりゃあ、そうだ。ずっと従僕として付いてきたお嬢様が、いきなり「ワタシウマレカワッテ、チガウヒト」だなんて言われたってアッシュの方が困るに決まっている。
でも、これを話さない限り、ソーネリカとの関係性もどうしたって説明がつかない。
「あの馬鹿たれが」と今日何回目になるかわからない悪態をついていると、もじもじと手を擦り合わせていたアッシュが、私の座るベッドの縁の横に膝をついた。
「本当に申し訳ございません。僕は、エリーシャルお嬢様が僕の知らないところで、ソーネリカ様と仲良くなっていたのだとばかり思っていました。僕のことなど信用ができないから、内緒にしていたのだと」
「は?そんなのありえないよ。私、アッシュに教えてないことなんて……」
あったか。前世のことは話したことなかった。でも……
「はい。その生まれ変わりの記憶のお話も、たった今、全部聞かせていただきました」
ですよねー。ていうか、嫉妬みたいなものだったの?アッシュのあのしつこい追及って、さあ。
しかも、これよく考えたらソーネリカと王宮で会ったことにしてたら、わざわざ前世の話までしなくてよかったんじゃない?
「なんか、墓穴を掘った気がする」
「なんの、でしょうか?エリーシャルお嬢様」
「んー、それでアッシュは?私の前世の話を信じるのかなって?」
この荒唐無稽なお話を、アッシュはどう思っているのだろうか。そんな質問にアッシュは膝をついたまま、ベッドの縁で私の両手を包んだ。それからうっすらと頬を染めあげる。
「はい。エリーシャルお嬢様が、僕を信じてお話してくれたことなら、たとえどんなことでも全部信じます」
そう言って、笑うアッシュの顔は初めてみる、とてもとても自然な笑顔だった。
「なら、ま、いいかー」
この世界で気がついてから、ずっと一人だけで抱えていた秘密を吐き出せたおかげで、なんだか私も胸が軽くなった気がする。アッシュだって、喜んでくれている。
だから、まあいいかなー。そんな呑気に考えていた。
秘密の共有で、アッシュは私の目指す「乙女の夢」を叶える手伝いも、今以上にしてくれるんじゃないかってワクワクしていた。
だから考えもしなかったのだ。
この先、私の信頼によって執着心が増してきたアッシュや、やたらちょっかいをかけてくるソーネリカ、そして何故かまざりたがるガイロス殿下たちによるとんでもない騒動が勃発するなどとは――
呑気に「おとこもすなる」ものを夢みる私には、この時点では気づく由もなかったのだった……くそう。
第一章終わり
第一章を〆るとともに、一度完結表示とさせていただきます。
続きはまた後日、第二章としてスタートいたしますので、どうぞよろしくお願いします。




